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本と恐怖

「力を手に入れる」こと、それは必ずしも良いことばかりげわなかった。


アルトが目を覚ます。そして何を思うのか。


―ぼやけた視界の中で、天井が揺れていた。


 ゆっくりと瞬きをする。重たい瞼を持ち上げるたびに、白い光が滲んで、頭の奥がじんと痛んだ。


「……ここ……」


 かすれた声が、自分でも驚くほど弱々しく響く。


 身体を起こそうとした瞬間、鋭い痛みが走った。


「っ……!」


 思わず息を詰め、そのまま力が抜ける。腕も、足も、思うように動かない。全身に鉛でも詰め込まれたみたいに重かった。


 視線を落とすと、包帯が巻かれているのが見えた。胸元や腕に、見慣れない処置の跡がある。


 ――何が、あったんだ。


「……なんで、俺……」


 記憶を辿ろうとしても、うまく繋がらない。


 頭の奥に、断片的な光景だけが浮かんでは消えていく。


 炎のような光。

 熱。

 誰かの声。

 ――そして、何かが“自分の中で暴れていた”感覚。


 そのとき、扉が静かに開いた。


「起きたのね」


 落ち着いた声。


 視線を向けると、そこに立っていたのはミラだった。


「……ミラ……」


 安堵が胸に広がる。だが同時に、どこか引っかかる違和感が残った。


「ここ……どこだ」


「街よ。あなた、魔族と戦って気を失ったの。

そして私の仲間がここまで運んでくれた。」


 淡々とした口調でそう言って、ミラはベッドのそばまで歩み寄る。


「治癒は済んでるけど、まだ無理はしないで。かなりひどい状態だったから」


「……そうか」


 短く返しながら、アルトは目を閉じた。


 ――魔族と戦って、気を失った。


 その言葉をなぞるように、記憶を探る。


 だが、はっきりとは思い出せない。


 ただ――


 あの時。


 確かに、自分は“力”を使った。


 それだけは、はっきりと残っていた。


 けれど。


「……俺、ちゃんと戦えてたのかな?」


 ぽつりと零れた言葉。


 ミラはすぐには答えなかった。


 わずかな沈黙が、やけに長く感じられる。


 アルトはゆっくりと目を開け、ミラを見る。


 彼女はほんの一瞬だけ視線を逸らし、それから静かに口を開いた。


「……戦えてはいたわ」


 その言葉に、わずかな安堵が胸をよぎる。


 だが――


「でも」


 ミラの声が、わずかに低くなる。


「あれは、“あなたの戦い方”じゃない気がするの。」


 その一言が、胸の奥に重く沈んだ。


 言葉の意味を理解するより先に、心がざわつく。


 さっきまで曖昧だった記憶の断片が、不意に輪郭を帯びる。


 自分の意思とは関係なく動いた身体。


 制御できなかった力。


 ――まるで、何かに操られているみたいな感覚。


 アルトは無意識に、自分の手を見つめた。


 わずかに震えている。


 理由もわからないまま、ただ、怖かったミラの言葉が、頭の中で何度も繰り返される。


 ――あなたの戦い方じゃない。


 その意味を考えようとするほど、胸の奥がざわついた。


 自分の意思で動いていなかった、あの感覚。


 思い出そうとすればするほど、輪郭が曖昧になっていく。


「……ねえ」


 静かな声に、アルトは顔を上げた。


 ミラがじっとこちらを見ている。


「あなたが使ってた“あの力”。あれ、何?」


「……っ」


 言葉に詰まる。


 視線を逸らし、シーツを握りしめる。


 説明できるようなものじゃない。自分でも、よく分かっていない。


「わからない、の?」


 問いかけは穏やかだったが、逃がさない意志が滲んでいた。


 アルトは小さく息を吐く。


「……分からないんだ、記憶をなくしていて気づいたら、あの本を持ってて」


「あの本のこと?」


 ミラの眉がわずかに動く。


「ああ……なんていうか、変な本だ。何も知らないはずなのに体が勝手に……」


 言葉を探しながら、少しずつ記憶を辿る。


「あの時も、気づいたら体が動いてた。強くなってるってのは分かった。でも――」


 そこで、言葉が止まる。


 あの感覚を思い出した瞬間、背筋に冷たいものが走った。


「……自分で動いてる感じじゃなかった」


 ぽつりと零したその一言に、部屋の空気がわずかに張り詰める。


 ミラは何も言わず、アルトを見つめていた。


「まるで……乗っ取られてるみたいな……」


 そこまで言って、アルトは口を閉じた。


 自分で言っておきながら、その言葉がやけに現実味を帯びて聞こえる。


 嫌な沈黙が落ちた。


 やがて、ミラがゆっくりと口を開く。


「……その本のことは、わかったわ今はこれ以上聞かない。」


「え……?」


アルトは少し驚いた反応をする。


「分からないのに聞いたって仕方ないでしょ。」


 ミラの声が、少しだけ柔らかくなる。


「その力今は、ちゃんと扱えるようにならないと」


 一拍置いて、


「本当に、取り返しのつかないことになるわよ」


 静かに告げられたその言葉は、脅しでも何でもない。


 ただの“事実”のように、重く響いた。


「あ、言うの忘れてたけど今回の出来事ギルドに報告義務があるわよ。」


アルトは、ミラのその言葉に俯く。


事が事なだけに、報告を免れる事ができないのはなんとなく理解していた。


俯く、アルトを見てミラが声をかける。


「不安なら、一緒に行くわ。」


今のアルトにわ、その言葉妙に嬉しく思えた。

第4話を読んでいただきありがとうございます!


今回はアルトが自分の力に対して「恐怖」を感じる回になりました。

ただ強いだけでなく、扱えなければ危険なものだと言うことが少しでも伝われば嬉しいです。


次回はギルドでのやり取り、新たな展開に期待してください!

引き続きよろしくおねがいします!

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