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本と新たな恐怖

街を離れて2日目。

道は一変していた。

緩やかな平原から、険しい山道へ。

地元の者はここをホルム山道と呼ぶ。魔物の気性が荒く、商人たちは必ず冒険者の護衛をつけて通る難所だ。

その道を、二人は黙々と歩いていた。

「……思ったより静かね」

ミラが呟く。

「それ、フラグじゃないのか」

「縁起でもないこと言わないで」

苦笑交じりに返す。

だがその言葉が終わった、直後だった。

空が、暗くなる。

じわりと広がる影。

羽ばたきの音が、低く重く、迫ってくる。

二人はとっさに剣を構え、上を仰いだ。

「——っ」

息を呑む。

翼を広げ、悠然と旋回するその姿。

ミラが低く呟く。

「Aランクが……なぜここに」

グリフィン。

ホルム山道での目撃情報はあるものの、実際に遭遇することはまずない。そう言われていたはずの魔物だった。

「どうする」

アルトが短く問う。

「逃げきれる保証はないわ」

ミラは視線を逸らさないまま答える。

「どちらにせよ——戦わないと死ぬ」

「やるしかないってか」

次の瞬間、アルトが駆け出していた。

「注意は俺が引く!その間に攻撃を!」

「無茶しないでよ!」

ミラの声を背に、アルトは炎の斬撃を解き放つ。

「これでも喰らえ!」

炎がグリフィンの体に直撃する。

しかし——

傷一つ、ない。

「……まぁ、ですよね」

アルトが力なく呟く。

グリフィンはゆっくりと地面へ降り立つ。そしてアルトを一瞥するなり、大きく口を開いた。

炎のブレスが迸る。

「危ねっ!」

間一髪、横へ跳ぶ。

その隙を逃さず、ミラがグリフィンの背後へと回り込む。

目にも止まらぬ速さで斬撃を繰り出す。

確かな手応え。

流石のグリフィンもダメージを受けたのか、尻尾の蛇でミラを振り払い距離を取る。

ミラは尻尾を軽く躱し、すでに次の体勢へと入っていた。

——終わらせる。

刃に風を纏わせる。

いつも通りの感覚。いつも通りの力。

そのはずだった。

「——なに、これ」

指先から、何かが溢れ出す感覚。

堰を切ったように広がる力。

止められない。

それでも——放つしかなかった。

暴風が、地面をえぐりながら走る。

轟音。

グリフィンの巨体が、真正面から呑み込まれた。

致命傷。

ゆっくりと、崩れ落ちる。

「……え」

アルトが言葉を失う。

静寂が戻ってきた。

土煙が晴れていく中、ミラはただ自分の手を見つめていた。

震えている。

「なに……これ」

「お、おい!何を使ったんだよ!」

駆け寄るアルトに、ミラは顔を上げる。

「分からない……ただ、いつもみたいに風の力を使おうとしたら——」

言葉が続かない。

「制御できなかった」

「……本の力、か」

アルトが静かに呟く。

ミラはその場にしゃがみこんだ。

地面に刻まれた、深い亀裂。

これが自分の力だ。

ずっと使いこなしてきたつもりだった。風の扱いなら、誰にも負けない。そう思っていた。

なのに——

「怖い」

小さな声だった。

アルトが、隣にしゃがむ。

何も言わない。

ただ、そこにいる。

しばらくして、ミラが口を開いた。

「……あなたも、こんな感じだったの?」

「最初はな」

アルトは少しだけ笑う。

「だから言っただろ。俺と一緒にするなって言ったくせに」

「……黙って」

ミラは小さく笑った。

それでも、手の震えは止まらなかった。


「もう少し行ったら野営しよう」

「わかったわ」

グリフィンとの戦闘の後は、拍子抜けするほど静かだった。山道を抜けるまで、魔物の影一つ見当たらない。

翌朝。

野営の片付けを済ませ、二人は再び歩き出す。

「後少しってとこか?」

「ええ。山道を抜けてしまえば半日もかからないわ」

「やっと着くな」

アルトが空を見上げながら呟く。

「長かったような、短かったような」

「ついてから本番でしょ」

「それもそうだ」

苦笑して、それきり二人は黙って歩いた。


1時間ほど歩いた頃だった。

「おっ」

小高い崖の上に差し掛かった瞬間、視界が開ける。

眼下に広がる街並み。

「……あれがフレイムか」

今までいた街と、さほど変わらない。それでも——ここまで3日かけて歩いてきた場所だと思うと、どこか違って見えた。

「行きましょ」

ミラが先を歩き出す。

「ああ」

アルトも続く。

二人の足が、フレイムへと向かっていった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

今回一番書きたかったのは、ミラの「怖い」の一言でした。

強くて冷静な彼女が、初めて制御できない力と向き合う場面。アルトがずっと抱えてきたものを、ミラも初めて体感する——そういう話でした。

「俺と一緒にするなって言ったくせに」

このセリフ、我ながら好きです。

次回はいよいよフレイムの街へ。ここからが本番です。

また次のページで。

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