本と始まりの依頼
二人は街の門へと辿り着いた。
門番として立っていた騎士団員が、二人に視線を向ける。
ミラがギルド章を取り出し、無言で提示した。
「……ルミーナルの冒険者か」
騎士団員が軽く目を細める。
「珍しいな」
「珍しいのか?」
アルトが首を傾ける。
「あぁ……もしかして、ドラゴンの事を知らないのか?」
「ドラゴン?」
二人は思わず顔を見合わせた。
騎士団員は少しだけ表情を和らげ、続ける。
「その様子だと、本当に知らないようだな。詳しい事はギルドで聞くといい」
短く答えると、騎士団員は真剣な顔に戻った。
「それと——街の外に出る時は、くれぐれも注意するように」
「ありがとう、行ってみるよ」
そう言い残し、二人は門をくぐった。
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街の中は、賑やかだった。
人と人とが行き交い、露店の声が飛び交う。今までいた街と、大差ない光景。
だが——どこか、空気が張り詰めている気がした。
巡回中の騎士団員にギルドの場所を尋ね、二人は早速向かうことにした。
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扉を開けると、酒場のような喧騒が押し寄せてきた。
人混みを縫いながら受付へと辿り着くと、明るい声が飛んできた。
「こんにちは! 見ない顔ですけど、旅の方ですか?」
「ええ、ルミーナルから来た冒険者よ」
「そうだったんですね! 私、ここで受付をしているルーシと申します。お困り事があれば何でもお申し付けください!」
「ありがとう。早速なんだけど——門番にドラゴンの事を知りたければここへ行くよう勧められたの」
「あぁ……」
明るかったルーシの顔が、一瞬で曇る。
少し間を置いてから、静かに話し始めた。
「半年前のことです。悪の象徴として恐れられていたパラサイトドラゴンが復活し——この周辺の魔物が一気に凶暴化してしまいました」
その言葉に、アルトはふと思い当たる。
「……ホルム山道で、グリフィンに遭遇した」
「グリフィン?! あの山道で?!」
ルーシが目を見開く。
「滅多に遭遇しないはずなのに……それも、パラサイトドラゴンの影響だと思います。魔物の行動範囲まで広がってしまっていて」
「だからあの時……」
アルトとミラは顔を見合わせた。
「凶暴化した魔物はBランク以上の冒険者でさえ手こずる程で……この街の冒険者だけでは、パラサイトドラゴンはおろか、魔物の抑制だけで精一杯なのが今の状況でして」
「だから、門番はあんな事を言ってたんだな」
アルトが低く呟く。
その時だった。
「……っ!」
懐に、わずかな熱を感じる。
アルトはとっさに本を取り出した。
淡く、かすかに——光っている。
「ミラ、見ろよ!」
ミラが目を細める。
「……反応してるってこと? もしかして、パラサイトドラゴンに」
ルーシがきょとんとした顔でこちらを伺っている。
「あ、すまない。実はこの本——ドラゴンに反応するんだ。詳しくは俺も話せないんだけど」
「魔導書……ってことですか?」
「まぁ、そんな感じだ」
「へぇ〜、そんな魔導書が存在するんですね」
ルーシは少し目を輝かせた後、ふと何かを思い出したように続けた。
「あっ——それなら、折り入ってご相談がありまして」
「うん?」
「パラサイトドラゴンの討伐依頼なんですけども……誰も受けようとしなくて、困っておりまして」
「ちょ、待ってくれよ」
アルトが思わず声を上げる。
「さすがにDランクとBランクだぞ? 無茶じゃないか?」
「ですよね……」
ルーシが申し訳なさそうに俯く。
沈黙が流れた。
やがて、ミラが口を開いた。
「確かに——BランクとDランクの冒険者だけでドラゴン討伐なんて、前代未聞よ」
静かだが、迷いのない声だった。
「普通はSランクが引き受ける依頼。でも」
ミラはアルトを見る。
「私たちがこの街に来た理由は、ドラゴンでしょ」
「そうだけど……戦って勝てる保証なんてないぞ。死ぬ確率の方が高い」
「わかってるわよ」
「でも——何も収穫なしで帰るつもり?」
「いや、それは……」
言葉に詰まる。
その時、ルーシが二人の間に割って入った。
「お二人とも、少し待ってください! 無理にお二人だけでとは言っておりません。討伐にはギルドマスターが加勢しますので」
「ギルドマスターが?」
「はい。ギルドマスターは——元Sランク冒険者です」
「Sランク?!」
アルトが思わず声を上げる。
「元ではありますが……お二人が依頼を受けてくださるのであれば、喜んで力を貸してくれると思います」
アルトはしばらく黙っていた。
本を握る手に、じわりと力が入る。
「……分かった」
顔を上げる。
「受けよう」
ルーシの表情が、パッと明るくなった。
ミラは何も言わなかった。
ただ——小さく、頷いた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今回はフレイムの街への到着から、パラサイトドラゴン討伐依頼を受けるところまでを書きました。
アルトの本が光った瞬間、二人はまだその意味を深くは理解していません。
でも、確かに何かが動き始めています。
Sランクのギルドマスター、そしてパラサイトドラゴン。
次回からいよいよ物語が動き出します。引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
また次の話でお会いしましょう。




