79 嬉しくなったり不安になったり
スィさんもそろそろ仕事に向かうと席を立った時、二階からとても賑やかな声が聞こえてきた。
「ルリちゅわぁぁぁん!! 目が覚めたって!?」
「覚めたってぇ!?」
「ウォンさん、テッドさん!」
なんだかすっごく久しぶりに会った気がする!
ウォンさんとテッドさんは文字通り階段から転がり落ちて一階まで来てくれた。……ケ、ケガとかしてない? 大丈夫……?
そんな心配をよそに、二人はむくっと起き上がると笑顔のまま駆け寄って来てくれる。大丈夫そう、かな?
なんでも二人は、私が寝込んだ日にようやくクランに戻ってきたのだとか。私のためにお土産も買ってきてくれたらしく、目覚めるのをずっと待っていてくれたんだって。優しい!
出張先で評判のお菓子だなんて……本当に嬉しい! 甘い物が好きなハマーさんや子どもたちにも分けてあげようっと。
「俺ら、タイミングが悪くてよぉ……でも、目が覚めてよかったぜぇ」
「よかったぜぇ!」
「やっぱ寝顔より笑顔が可愛いしな!」
「めちゃくちゃ可愛い!」
この二人がいると一気に賑やかになるよね。
ホッとするのは確かなんだけど、反応に困ることもあって……えーっと、こういう時はありがとうって言えばいいのかな。
でもあれこれ話しかけてくれるからこっちが返事をする暇がない……元気いっぱいすぎてどうしよう?
「変態ども、面会は終わりだ。出ていけ」
わっ、いつの間にかトウルさんが背後に!
トウルさんはウォンさんとテッドさんの頭を掴んでる……手、大きいなぁ。
なんでだよぉ、という叫び声を響かせながら、二人はトウルさんに引きずられてどこかへ行ってしまった。あぁ、声がどんどん遠くなっていく……。
「病み上がりにあのテンションは辛いでしょうからね。トウルなりの気遣いでしょう」
「あ、あはは……」
もはや苦笑することしか出来ない。
お礼を言うべきか、やりすぎだと言うべきかわかんないなぁ、もう。
でも、みんなの優しさが沁みる……。間違いなく親切心なんだよね。
こんなにのんびりしていていいのかな? とも思うけど、これから私はマリーさんを止めなきゃいけない。もう一度しっかり向き合う必要があるんだ。
いつその機会が来てもいいようにしっかり心構えをしておかないと。
どんな話をすればいいのかな。
どうしたら、マリーさんの心を救えるだろう。
私はきっと嫌われている、よね。小包を送ってきたことからも、そこは疑いようもない。
胸が痛むよ。ここまでわかりやすく敵意を向けられたことって、今までにないから。
これまではその敵意を向けられていたとしても気付いていなかったんだと思う。ほら、私ってポンコツだから。
だからね。だから……実はほんの少しだけ嬉しいなって気持ちもあるんだよ。
命を狙われて何考えてるんだってみんなには言われちゃうかもしれないけど。
だって、今回は気付けたから。
マリーさんはもしかすると許されないかもしれない。罰せられるかもしれない。
でも、これまでずっと聖女として頑張ってきたんだから、報われてほしいって心から思う。
嫌われたままでもいい。憎まれたままでもいい。
それでも私は彼女を許したい。幸せになってほしい。
それが私の願いで、ワガママなんだ。
「まーた難しいこと考えてんな?」
「わわっ」
突然、眉間に指を当てられて驚いた。
見上げるとトウルさんがからかうような顔で私を見下ろしている。
またからかわれた、と思うとムッとしてしまうけど……なぜだか今はドキッとしてしまった。
「トウルは本当にルリさんをからかうのが好きですねぇ」
「からかうつもりはないんだがな」
「なるほど。好きなのはからかうこと、ではないってわけですか」
スィさんはようやく仕事に行くみたいで玄関へと足を向けた。
もしかして、トウルさんが戻るまで待っていてくれたのかな? 私を一人にしないようにしてくれたんだ……。頭が下がるなぁ。
「そういうこった。ほら、さっさと仕事に行け」
「……ははっ、さすがに驚きますね。はいはい、働いてきますよ」
だというのにトウルさんったらスィさんを追い払うように手を振るんだから。
失礼すぎない? と思ったけど、あれ? なんだかスィさんが珍しく驚いた目でトウルさんを見ていたような。気のせいかな?
外へ出ていくスィさんの背中を見送っていると、トウルさんが隣に座った。
な、なんか近くない? いやいや、トウルさんは私を守るために近くにいてくれてるだけだよね、うん。
「お前が悩むようなことはなんもねぇよ。言いたいことがあんなら、そのままぶつけりゃいい」
急にそんなことを言われて、一瞬なんの話だったかわからなかった。
そうだ、またウジウジ悩んでいるところに声をかけられたんだった。
言いたいことがあるならそのまま、かぁ。それが出来たら苦労しないんだけどな。
特に嫌っている相手の言葉なんか、聞きたくもないと思う。
うっ、辛い。余計に傷付けたらどうしよう。
い、いやいや! 今さっき覚悟を決めたばかりなんだから弱気になっちゃダメだ!
「マリーのことについては……どちらかというと俺のせいだろ」
トウルさんの口からマリーさんの名前が出てきて言葉に詰まる。
今の言い方だと、トウルさんはマリーさんの気持ちに気付いているってこと、だよね……?
……それじゃあ。
「トウルさんは、マリーさんのこと……」
考えていたことが口から出てしまった。い、言うつもりなかったのに! 私の馬鹿!
こんなこと聞いて何になるの? それに、もし肯定されたら。
あ、胸が、痛い。なんで? トウルさんの気持ちはトウルさんのものなのに。
私に傷付く権利なんて、ないのに……。
「……気になるか?」
「なっ、なんでもないです」
「気になるんだな?」
「べべべ別に、そういうわけではっ」
「気になってくれりゃ嬉しいんだがなぁ?」
どういうこと!? またトウルさんは私をからかって!
うぅ、落ち込むことすら出来ないじゃない……。なんて、文句を言うのも私の身勝手だけど!




