74 喜んでる場合じゃないのはわかってるけど
クランから出る瞬間から、セルジュの言葉が止まらない。
「俺からは絶対に離れないでくれ」
「は、はい」
「何があっても守るが、いざという時はセレに乗って逃がす。それも心得ておくように」
「……はい」
「セレも、有事の際はまっすぐクランに向かってくれ」
「……にゃ」
心なしかセレの鳴き声に苛立ちを感じる……!
さすがにこれ以上は私もどう反応すればいいのか困るので言っておこう、かな?
「あの、セルジュ。もう五回目ですよ? このやり取り」
「む、そうだったか? すまない。俺もいつも以上に気が張っているようだな」
無自覚だった……! 思わずセレと目を合わせてしまう。
セレはやれやれ、といった様子でくあっと欠伸をした。可愛い。私も肩の力が抜けちゃったよ。
「珍しいですね? セルジュはいつも冷静に対処するのに」
「ルリが危険にさらされたからな。感情がうまく制御できないんだ」
「えっ」
「大切な人を狙う者がいるんだ。いつも以上に警戒するのは当たり前だろう」
「た、大切な、人……」
真っ直ぐそう言われると照れちゃうな……。セルジュは本当に私のことを家族だと、妹だと思ってくれてるんだね。
もちろん、私も頼りになる兄だって思ってるよ! 私の中の兄像はすでにセルジュになってるし!
一人照れていると、ぽんと頭を撫でられた。そのまま上を向いたら困ったように笑うセルジュと目が合う。
「ルリ、お前は自覚が足りない。俺だけじゃなく、今やこのクランのメンバー全員にとって、ルリは大切な人だ」
「な、なんだか、改めてそう言ってもらえるとむず痒いですね……!」
「ルリだって、皆のことをそう思ってくれているだろう? 見ていればわかる」
セルジュはそう言うと、さらに目を細めた。あ、嬉しそう……。
うん、そうだね。そう。私も、みんなのことがとっても大切。
「はい。本当の家族みたいに思ってます」
「光栄だ」
だから怒ってくれるし、心配してくれるんだよね。
ここで私は、申し訳ないとか思っちゃいけないんだ。
実は、実はね。本当は、みんなが怒ってくれること、嬉しいと思ってた。
あっ、でも! それによって誰かが怪我をしたり危ない目に遭うのは嫌だけどね!
喜んでる場合じゃないこともわかってる。浮かれてちゃダメだってことも。
でも、そう思っちゃうのは仕方ないよね。こっそり胸の内で幸せを噛み締めるから許してくださいっ。
クランを出てしばらくたった頃。もうそろそろ教会にたどり着くという時にセルジュが口を開く。
「今のところ、変な視線も気配もない。帰りも問題なければ、どこかに立ち寄ってもいいぞ」
「えっ、いいんですか?」
「ああ。ずっとクランにいて息苦しいだろう。前に子どもたちと出かけたらしいが、今は……許可を出せそうにないからな」
「あ……そう、ですね。トンくん、テンくん、カンくんを危険な目に遭わせたくないですし。私も怖いのは出来れば避けたいです」
「だが、俺やトウルやラスロが一緒の時なら少しくらい構わない。あまり長くは外出させられないが、気分転換は必要だろう?」
もう、本当に優しいなぁ。ずっと気を遣われっぱなしだ、私。
でも、さすがに今の状況で寄り道はしないほうがいいと思う。かといって断るのも気持ち的に嫌なので……。
「ありがとうございます、セルジュ。でも、今日は早めに帰ります。その代わり、帰りは少しゆっくり歩いてもいいですか?」
「……わかった。そうしよう」
のんびり歩くだけでも、十分気分転換になるからね。
それに……意外と、私も怖いと思ってたんだなって気付いたから。
自分では平気だと思っていたけど、ふとした時にあの時の爆発を思い出しちゃう。
ミルメちゃんが通用しない相手だと思うと余計に、ね。事前に危険が察知できたら、私だってここまでビクビクしなかったのに。
って、ミルメちゃんに頼りすぎだなぁ。
いや、ここまで危険に晒されるなら頼るべきなんだけど。
はぁ。前みたいに町を歩くためにも、早く解決できたらいいな……。
何事もなく、無事に教会にたどり着いた。
内部にセレは連れて行けないから、入り口で待機してもらう。そ、そんなに寂しそうに鳴かないで……! 服の中に入れて誤魔化せないかな? とか考えちゃうからっ!
「絶対に帰ったらブラッシングするからね! おやつも食べようね!」
「にゃうん……」
「お前、そんな鳴き声も出せたんだな。セレ……」
セルジュが呆れたようが視線を向けているけど、セレはいつも私に甘える時はこんな感じだよ?
もしかして、セレが懐いている人にだけ見せてくれる姿だったりするのかな。やだ、愛おしい。
後ろ髪を引かれる思いでセレをその場に残し、教会の中へと進む。
内部は相変わらずとても静かで、大聖堂ほどではないけれど、神聖で厳かな雰囲気が感じられた。
やっぱり、ここに来ると気持ちが落ち着く。神様がいるって知っているから、安心するのかもしれないな。
入口とは別の、開け放たれたもう一つのドアを通り、真っ直ぐ祭壇の前へと進む。
今日は人も少ないみたい。ゆっくりと時間をかけて祈れそうだ。
まぁ、そうでなくても長い時間をかけて祈る人もいるみたいなんだけどね。
「今日は俺も隣にいる。邪魔に思うかもしれないが……」
そういえば、前回は私の邪魔をしないように、って後ろのベンチで待っていてくれたっけ。
でも今は私の護衛としてついてきてくれているんだもんね。隣にいたほうが守りやすいのだろう。
「邪魔なんて思いません。ありがとうございます。でも、時間をかけるかもしれないんですけど……」
「それは構わない。好きなだけ祈ってくれ。一日中でも付き合おう」
「そ、それはさすがにないですよぅ!」
クスッと笑われた。セルジュにまでからかわれるなんてーっ! それが気遣いだってことはわかるけどっ。
さ、気を取り直して。
……神様。どうか教えてください。
今は話し合うべきだと思うから。




