73 できることを一つずつ!
部屋を開けて最初に目に飛び込んできたのは、上半身を起こしてヒラヒラ手をふるサンディだった。
「えっ、あれっ、サンディ! 起き上がって大丈夫なの!?」
「ああ、ルリ。このくらいどうってことないよ」
いつも通りの笑顔で、それでも手当したガーゼや包帯が痛々しくて……でも、思っていた以上に早く元気そうな姿が見られたのが嬉しくて、安心して……!
な、泣いちゃダメっ!
私はサンディのベッドに近付くと、真っ先に頭を下げ——
「ごめ……」
「ストーップ! 謝罪は受け付けてませーん」
「そんなぁ」
下げ、られなかった。物理的にも。だって途中でメディに頭を押さえて止められちゃったんだもん。も、もう少しやり方ってやつがあるのでは……!
でも、二人が楽しそうにクスクス笑っているからいいかな……ううん、あんまりよくない。ちゃんと謝りたかったのに!
「だって、ルリは何も悪くないじゃん」
「そうだよ、ルリ! 悪いのはあんな物騒な物を送り付けたヤツだし!」
「サンディ、メディまで……」
……でも。たしかに、謝られたくないよね。逆の立場で考えなきゃ。
二人は私を守ってくれた。それなら守った相手には謝られるよりも。
「じゃあ、その。ありがとう、サンディ。私の代わりに小包を開けてくれて」
どうやら正解みたい。二人は顔を見合わせて嬉しそうに笑ってる。
「メディも。二人がいなかったら、私、大怪我をしていたかも」
「ど~いたしまして!」
「よし、お礼はしっかり受け取りまーす!」
私が気にしてしまわないようにわざと明るく振る舞ってくれているの、わかるよ。
本当に、いつも助けてもらってるよね。年上として不甲斐ないけど……ありがとう。
ああ、でも。サンディが早く目を覚ましてくれて良かった!
「それはそれとして」
「犯人は絶対に許さねぇけどな」
急に声のトーンと表情が怒りのそれになってビクッとする。
あっ、この二人も実力者でしたね……。言葉遣いもいつもより少しだけ荒い。
私が少しドキッとしたことに気付いたのだろう、二人はすぐにパッと笑顔を浮かべて誤魔化した。あんまり気にしなくていいのに。
「ってかさ、オレは自分が不甲斐ないよ。罠の解除とか練習してんだけどなぁ……失敗してルリを危険に晒しちゃったし」
「ボクだって、咄嗟に動けなかったよ。サンディが怪我したって思ったら、一瞬だけ頭が真っ白になっちゃったもん」
「オレら、まだまだだよね」
「うん。精進あるのみだね」
こんな怪我をしたというのに、向上心溢れる言葉だなぁ。
メディもサンディも、心が強いんだ。私も見習おう。
「ねぇ、ルリ。本当に気をつけてよね。トウルさんたちなら絶対に対策するだろうけど……」
「ルリのことももちろんだけど、クランにまで来たんだからもう黙ってられないし」
「そーそー。ごちゃまぜな工具どものメンツが丸潰れ! みんな相当怒ってると思うよ~」
そっか、クランからすると喧嘩を売られたようなものなんだ。
……改めて、小包で襲撃だなんて大胆なことをするなぁ。
……う、ううん。犯人のことは、今は考えないでおこう!
憶測であれこれ悩んだってよくないもの。特に私の場合すぐにウジウジしちゃうから。
私にできることを、一つずつしていこう。
◇
翌日、予定通りセルジュとともに教会へ向かうこととなった。
いつも通りに朝食を用意して、私もささっと食べて準備を済ます。
「ビルジニ、今日の当番、代わってもらってごめんなさい」
「いいのよ。困ったときはお互い様だもの」
「でも、私ってば急に食事の支度ができなくなる日が多かったでしょ……?」
前に大聖堂へ行くことになった日も交代してもらったし、今回の襲撃でもパニックになっちゃってろくに動けなかったところを、ソニアとアミシーが代わってくれたし……!
迷惑をかけてばっかりで申し訳なさすぎる! そう思って頭を抱えていると、ビルジニにそっと手を取られた。
「私もね、赤ちゃんがまだ小さいから、お休みをもらうことが多いでしょ? それでも誰も文句を言わずに交代してくれているわ。ルリ、貴女だってそう。いつも助けてもらっているのだもの。こういう時に頼ってもらえて嬉しいのよ」
「ビルジニ……」
ギュッと私の手を握る手がとても温かい。ビルジニの優しさが伝わって心もじんわりと温まる。
「ありがとう。じゃあ私たち、いつかソニアとアミシーにお礼をしないといけませんね!」
「あら、本当ね。どんなお礼にするのかも、今度一緒に考えましょう?」
「はい!」
ビルジニとギュッと握手をして微笑み合う。
今から二人へのお礼を考える日が楽しみ!
その後、玄関ホールで待ち合わせをしてセルジュと一緒に教会へ向かう。
もちろん、肩にはセレがいます。うーん、今日ももふもふ!
「帰ったらブラッシングするね」
「にゃうん!」
神様とちゃんとお話が出来るか、聞けたとしたらどんな話が飛び出すのか、いろいろと緊張するけど、帰った後のもふもふご褒美タイムが待ってると思えば頑張れそう!
「すまない。待たせてしまったか?」
「いえ、私も今来たところです」
「にゃ」
小走りで駆け寄ってくれたセルジュに言葉を返すと、セレも返事をしたので思わず二人してクスッと笑う。
それにしてもセルジュが私より後で来るなんて珍しいな。いつも必ず待っていてくれるほうだから。
もちろん、私自身待つのは嫌じゃないし、遅れてもまったく気にしないんだけど、何かあったのかな? って思って。
「トウルと話していたら長引いてな……」
「そうでしたか。それなら出かける時間を遅らせてもよかったのに」
「いや、話は終わった。それに女性をこれ以上待たせるわけにはいかない」
し、紳士~~~っ! 日本で長く暮らしていたからこういう対応にはいまだにドキッとしちゃう。
ほんと、慣れないよね。こんなだからトウルさんにもいつもからかわれちゃうのに。
こほん。気を取り直して、と。
「今日はよろしくお願いします。行きましょう!」
「ああ。任せてくれ」
どうか、神様とお話できますようにっ!




