71 怖がって震えてるだけなのはもう嫌!
マリーさんは、隠蔽とは違った何かしらのスキルを神様から与えられている。
その推測はあり得ると思うけど、問題は確かめようがないことなんだよね。
彼女に直接聞くというわけにもいかないし、聞いたところで本当のことを教えてもらえるとも限らない。
四人でしばらく考え込んでいると、セルジュが口を開いた。
「答えにくかったら無理に言わなくていいんだが……ルリはそのスキルを与えられた時、どんな状況だったんだ?」
「スキルを与えられた時……えーっと」
改めて、あの時のことを思い返してみる。
歩道橋の階段から落ちて……ああ、あの時は体中が痛かったな。
痛くて、怖くて……う、ちょっと気持ち悪い。
自分が死んだ時のことなんて、鮮明に思い出したら……!
「う……」
「おい、大丈夫か。無理して思い出さなくても」
「だ、大丈夫です!」
セルジュが慌ててそう言ってくれたけど、この程度で話を止めたくない。
余計なことは思い出さないように、神様と会った時のことだけを思い出さなくちゃ。
気付いたら不思議な空間にいて、光の玉が見えて、姿の見えない神様の声が聞こえて……それで、香苗の姿の神様と話をして。
『あなたには私の加護を与える。聖女への加護とは少し違うけど……そうだな、たとえば欲しがっていた『見る目』を与えたりとか』
ああ、そうだ。たしかそう言ってた。
神様は、私に加護を与えてくださったんだ。
「たしか、私に見る目がなさすぎるから提案していただいて。だから思わず食いついたんです」
「お前、どんだけ……」
「前の世界では本当に騙されてばかりだったので……簡単に信じすぎて神様にも心配されました」
そ、そんな目で見ないで……! 今は少し改善したもの! たぶん……。
「それで、私は元々この世界の人間だから、前にいた世界では身体が適合しないとかで、早死にする運命だったって。それは聖女様も同じで……そうならないために、彼女には神様が加護を与えたと」
「……ちっ、あっちの世界の神はルリに加護を与えなかったのか」
「え、えーっと、神様にもいろいろだそうで。人間にあまり干渉できない神様だったらしいです」
神様の事情は正直、私にはよくわからない。
あの、その、だからみんなそんなに不機嫌にならないでもらえると……!
えーっと、他にはなんて言ってたっけ?
「あ、そうだ! その時に神様は、私への加護は『聖女の加護とは少し違う』とも言ってました!」
その時の私はあまり気にしてなかったんだよね。
聖女様が無事らしいということと、見る目を与えてくれるっていう情報が強すぎて、深く考えてなかったともいう。
なんとなく、聖女の働きをするのに必要な能力なのかな? って思って自己完結していたというか。
私の説明を聞いて、トウルさんがふむ、と腕を組んで頷いた。
「ルリのスキルは聞いた時から他とは次元が違うと思ってたが……そもそもスキルですらなかったってわけか。ようやく納得したぜ」
「神から授かった加護……それは無敵なわけだ」
「え、あれ? 加護とスキルは違うんですか? 私、てっきり同じものかと」
「だから気付くのが遅れた、か。認識の違いまで考えが回ってなかったな」
三人がそれはそれは深く納得したような脱力したような様子だ。
な、なんだかすみません……? もっと早く伝える機会があればよかった、かも?
「加護とスキルの違いだが……あー、まぁざっくり言うと、スキルは本人の才能で、加護は与えられた才能って感じか」
「あっ、すごい納得しました。私にもともと見る目の才能は皆無ですからね!」
「自分で言ってて悲しくならねぇか?」
「今さらです!!」
「……そうか」
ぽんぽんと頭を撫でられてしまった。
今さらです……。
やや落ち込みかけていると、ラスロがぽつりと呟いた。
「聖女の加護、という単語は聞いたことがある、気がする」
「調べられそうか?」
「たぶん」
ま、またラスロがお仕事に行く流れにっ!
でもすごいなぁ、いつもほしい情報を的確に調べて持って来てくれるもんね。
私にももっと何かが出来たらいいんだけど。
「聖女様はこの世界のために呼び寄せられた存在ですから、加護も私のものより重要なんじゃないでしょうか。私が与えられたものはお詫びと言っていましたし」
だから私の見る目がマリーさんに効かないのも、当たり前なのかもしれない。
って、どのみち推測だよね。んー、もどかしい!
「それこそ、神に直接聞かねぇとわからないな」
「そ、そ、それだーっ!!」
「……は?」
あった。あったよ、私に出来ること!
私は思わずトウルさんの手をギュッと両手で握りしめた。
「神様に聞けばいいんですよ! 私、教会で祈るとたまに神様と会えるんです。二回ほどそこでお話したことがあって。ほんのわずかな時間ですけど」
「ちょ、ちょっと待て。聖女ですら、声しか聞けないはずだぞ」
「それはきっと……私が一度死んでるから、とか? 会ったことがあるから、また会えるとか?」
あっ、微妙な空気になっちゃった。自分が一度死んでるなんて話題は出さないほうがよかったよね。反省。
「聞いたところで教えてもらえるかも、またお会いできるとも限りませんが、何もしないよりはいいです。だって……」
握りしめる手に、さらに力がこもる。
ウジウジするのは嫌だ。ビクビクするのも、震えて待つのも。
「私、もう怖いからって震えているだけは嫌なので!」
当事者なんだもん。立ち向かいたい。
それに、サンディが怪我をしたこと……これでも怒ってるんだから!
トウルさんはそんな私を見下ろし、ニヤッとどこか嬉しそうに笑った。




