67 意地悪な気持ちになるの、嫌だなぁ
トン、テン、カントリオくんたちとのお出かけは何事もなく平和に終わった。
それが当たり前ではあるはずなんだけどね。無事じゃないこともある、という今の状況がちょっと悲しい。
いやいや、悲しんでいるなんてもったいない! 三人は「無事にルリ姉を笑顔に出来た!」と喜んでくれてるんだもん。
なに~? その喜ぶ理由~! 可愛すぎでしょう! 私が笑顔でいられるのは間違いなくみんなのおかげだよ。本当にありがとう。
買って帰ったアジサイ……この世界ではプランクフラワーは、次の日の午前中にみんなでクランの中庭に植えた。
今は淡い水色の花が咲いていて、すでに可愛くて綺麗で心癒されている。
これから育てていくうちに、ここの土の影響で色が変わっていくかもしれない。
トンくんはもっと濃い青、テンくんは紫、カンくんはピンクになるのではないかという予想だ。
せっかくの予想ならみんなバラバラがいいよね、と思いつつ、そうはいってもだいたいの色を子どもたち取られてしまったので私は白の予想にしたよ。
みんなでウキウキと毎日プランクフラワーの様子を見に来るのが日課になった。
あっ、もちろんミルメちゃんには教えないように釘をさしておいたよ!
聞かない限り答えないだろうけど、一応ね。楽しみはとっておかなきゃ!
「おう、随分とご機嫌じゃねぇか」
「きゃああっ!?」
ルンルンとプランクフラワーを眺めていたら、背後から急に声をかけられてビクッと驚く。
振り返ると目を丸くしたモルガンさんが立っていた。
「……すまん。まさかそんなに驚くとは」
「い、いえ! こちらこそ大げさに驚いてすみません。人がいるとは思ってなくて」
「ふぅん……? くくっ、跳び上がって驚いてたな」
「い、言わないでくださいよぉ」
「悪い、悪い」
とはえい自分でも驚きすぎたな、と思ったらちょっとおかしくなってきた。
モルガンさんと一緒になって少し笑い合う。
「それより、なんだか久しぶりですね。近頃はお仕事が忙しかったと聞いてますけど」
「あー、現場作業が続いてたからな。古くなった図書館を少しずつ直してんだけどよ、景観を損ねるなだの、歴史ある建造物だから同じようにしろだの、素材がふさわしくないだの……安全面を第一にって依頼されてんだよ、昔のやり方でうまくいくわけねぇだろ、口だけ出すクソ貴族ども……」
「そ、それはそれは、大変でしたね……!」
相当ストレスが溜まっているみたいだ。話す声が少しずつ低くなっている……!
本当はやりたくなかったけど、古い大工仲間がどうしてもと泣きついてきたから仕方なく引き受けたのだそう。
モルガンさんってぶっきらぼうで大雑把なイメージがあるけど、本当は面倒見がいいよね。ウォンさんとテッドさんのことも文句を言いつつちゃん毎回叱ってくれているし。
そういえば、あの二人とも最近は会ってない。ちょっと大きな依頼を受けたは良いものの、遠くまで行かなきゃいけないとかでかれこれ一週間は留守にしている。
ウォンさんとテッドさんがいないとクランが少し静かで寂しいんだよね。いたらいたでうるさいってサンディは言ってたけど。
「で?」
「え?」
「そっちは? なんか悩んでんじゃねぇのか」
言われてぽかん、としてしまう。
あれ、私……そんな何かを悩んでいるような顔をしてたのかな。
「俺も愚痴っちまったからな。ルリの愚痴も聞いてやるぞ?」
「……そんなにわかりやすいですか? 私」
「まぁな。楽しそうにはしてるが、気になることが隠しきれてませんって感じだな」
そ、そんなに? なんだか恥ずかしいな……。でも、言われてみれば子どもたちだって私の元気がないからって連れ出してくれたんだもんね。
うわぁ、空元気がバレバレだなんて! 大人としてどうなの? もっと取り繕えるようにならなきゃ。
それはそれとして……私が話しやすいように、モルガンさんはあえて先に自分が愚痴を言ってくれてたんだ。
「モルガンさんって、やっぱり優しいですよね」
「やめろ、鳥肌が立つようなことを言うのは」
「照れてます?」
「あんまりおっさんをからかうな」
ガシガシと乱暴に頭を掻きながら、モルガンさんはスッと目を逸らす。
ふふ、本当に不器用な人。優しさが嬉しいのでもうからかいませんとも。
悩み、か。悩みというよりはモルガンさんのいうように気になること、といったほうが正しい気がする。
彼は落ち着いた大人だし、もしかしたら何か納得できる話が聞けるかも?
「えっと。この前、とても綺麗な人と会ったんです。優しくて、美人で……その人は結婚相手がいるのですが、どうも他の方が好きみたいで……」
聖女様、とはいえないのであえてぼかした言い方になっちゃう。
クランの仲間なら話でも問題ないとは思うけど、巻き込んでしまったら申し訳ないからね。
「貴族かなんかか?」
「えっと、その辺りはよく知らないんですけどぉ……」
「あー、いい。答えにくいんだろ。察した」
助かる! 察し力も高いモルガンさん、さすがだよ!
「んで、結婚相手がいるのに好きなヤツがいるってのがよくわかんねーってことか?」
「あ、はい。まぁそんなところです」
「ふぅん。そういった立場のヤツらってのは、政略結婚は当たり前だからな。気にしてたらキリがねぇぞ」
「それはそうでしょうけど。その結婚相手の方は彼女にベタ惚れらしいんですよね」
「そいつぁ、気の毒だな」
王子様側の思いを聞いても、モルガンさんはフッと鼻で笑うだけだった。
あれ、その程度のこと、なのかな? 私が気にしすぎ?
私が変な顔をしていたのか、モルガンさんはチラッとこちらを見ると再びフッと笑った。
今度はさっきのような軽い笑い方じゃなくて、仕方ないなぁとでも言いたげだ。
「だがまぁ、それだって結婚相手が頑張るしかねぇだろ。第三者がどうこう出来る問題じゃねぇ」
「そうですけど……」
「何が引っかかってんだよ」
「え、っと」
バ、バレてる。本当に聞きたいことがこの話の向こう側にあるということを。
ここで黙っていても意味がない気がするんだよね。それさえお見通しって感じで。
やっぱり人生経験なのかな。い、言いますよ。ちゃんと言うからその生温かな視線はやめてっ。
「か、彼女の好きな人が、その。……私も、知ってる人、で」
「嫌なのか?」
「えっ」
「その女が、ルリの知ってる男が好きで気に入らないんだろ?」
「そっ、そんなことは……」
「本当か?」
うぅ、ぐいぐいくるぅ……。
モルガンさんは私の目を覗き込むようにじっと見てくる。
「誰にも言わねぇから、本音言ってみろ」
気に入らない、とか。別にそういう、あれじゃ……でも、まぁ。
「……ちょっと、嫌、です」
そう言葉にした瞬間、なんというか……肩の力が抜けた。
「私が何か言う権利なんてないのに。変ですよね……どうしてこんなに意地悪なことを考えちゃうんだろう」
私、やっぱり意地悪な人間なのかな。そうなりたくないから否定してたのかも。
でも、嫌なのは事実だ。自分の意地悪な面を知っちゃったな……。
「あー……俺からはなんとも言えねぇが。一つアドバイスするなら、ルリがその男をどう思ってるかが答えなんじゃねぇか?」
私が、トウルさんをどう思ってるか? そりゃあ、お世話になってる人で、時々すごく意地悪で、でも優しくて。
「俺はその男が少し羨ましいぜ」
「え、なんでですか」
「なんとなくだ」
んー、よくわかんないなぁ。結局、モルガンさんは何が言いたかったんだろう。
でも、自分の中で悩んでいたことの答えはわかったから、少しスッキリしたかも。
新たなモヤモヤも生まれちゃったけどね! はぁ。




