60 大聖堂で久しぶりのお祈り
スィさんが大聖堂にいる神官さんに話をすると、しばらく中でお待ちくださいと言われ、裏側にある来客室へ案内されかけた、んだけど……!
「あ、あの。大聖堂の中で待っていてはダメ、ですか、ね……?」
一般の方々も祈りにやってくるとかで、朝から夕刻までは一般開放していると聞いたら……どうしても中に入ってみたいじゃない?
あんなに綺麗な建物の礼拝堂、見てみたいじゃない!?
そんなの、聖女との話が終わってからでもいいというのに思わず口走ってしまった。
「ふふ、構いませんよ。ぜひお祈りしていってください」
「あっ、ありがとうございます!」
神官さんには笑われちゃったけど、中に入れるのが嬉しいので気にしません!
でもやっぱりというべきか、スィさんにも笑われちゃった。
「思っていた以上にリラックスしているようで安心しましたよ」
「そっ、そういうわけではないんですけど……! だってすごく綺麗な建物だからっ」
「いいではないですか。緊張でガチガチになるよりずっといいです。思っていた以上にルリさんの心がお強くて感心していますよ」
なんだか褒められている気がしないなぁ……呆れられている? い、いいもーん!
というわけで、私たちは三人揃って一般客に紛れて大聖堂の中へと向かうことに。
感嘆のため息を吐きながら周囲を見回していると、ラスロから小声で話しかけられた。
「よかったな。中に入れて」
「うん。ラスロもここには来たことあるの?」
「あるけど、滅多にこない。前に来たのもずっと昔だ」
「そうなんだ」
せっかく素敵な場所なのにもったいないなぁ、なんて思いかけたけど、それは私の価値観だもんね。
はぁ、神秘的で圧倒される。本当に神様に見守られているような気がしてくるね。好きだなぁ、こういう静謐な雰囲気。
……思えばクランに来てばかりの時以来だよね、神様にお祈りするの。
生活に慣れるのに必死だったのと、色々あったから教会から遠のいていたよ。
よくない。とてもよくない。常に感謝はしているけれど、祈りにいかないなんて絶対にだめ!
うぅ、どうしよう。神様に叱られちゃうかな?
今後は一か月に一回、とか回数を決めて通うようにしないと。あ、いや、もう少し頻繁に行ったほうがいいかな?
そう考えると聖女様は偉いな。ほぼ毎日神様にお祈りするんだもん。……や、やっぱり週に一回とかにしよう。そうしよう。
どこでお祈りしようかな、と考えながら周囲の人たちを見渡す。
礼拝堂の最前列で祈っている人が多めだけど、好きな場所に座って祈っている人もいるみたい。
あまり他の人の近くで祈るのも悪いかな、と思って、空いている席に座って祈ることにした。
私の邪魔をしないようにしてくれたのか、スィさんは後ろ、ラスロは前の席に間を空けて座ってくれている。お気遣いありがとうございます!
では早速。キュッと両手を組み、神様に祈りを——
『ああ、やっときてくれたね』
「わっ!? あ、あれ? あっ、ここは」
懐かしく感じる白い不思議な空間。どこからともなく聞こえてきた神様の声。
久しぶりすぎたからか、ものすごく驚いちゃった。
『そんなに驚かなくても』
「ごっ、ごめんなさい。私、なかなか祈りに来なくて薄情でしたよね……って、あれ?」
『どうしたの?』
「いえ、あの。お姿が、なんだかぼやけていて……」
慌てて顔を上げて謝っていると、目に留まった神様の姿に首を傾げる。
人の姿をしてはいるけど、輪郭がぼやけていてシルエットしかわからない。
おかしいな、これまでは香苗の姿で現れてくれていたのに。
『ああ、なるほどね。それは君の中でいろんなことが変化しているからだ。大丈夫。悪いことではないよ』
「そう、ですか? でも、香苗の姿が見られないのはちょっと残念です。忘れたくないのに……」
『ふむ。それなら……これでどう?』
「わっ、香苗だっ!」
少し残念な気持ちでいたら、神様がパッと香苗の姿に変わってくれた。
自在に姿を変えられるなんてすごい! 嬉しい!
拍手しながら言うと、神様は別に姿を変えているわけではないんだけどね、と照れたように笑った。え、違うの? よくわからないや。
『それよりも瑠璃。今から聖女に会うのだろう?』
「は、はい。あの、聖女の女の子って……」
急に本題に入って背筋がピンと伸びる。
もしかしたら神様から聖女についていろいろと聞けるかもしれない。そう思っていたんだけど……。
『私からは何も言えない。でも……そうだな。聖女は今、少し不安定だ』
「え」
『私も心配でね。下手をすると悪しき心に支配されてしまうだろう』
「そんな!」
思っていた以上に深刻そうな話を聞かされ、どくんと心臓が大きく脈打った。
悪しき心に支配って……響きだけでもよくない感がひしひしと!
『瑠璃との出会いは、聖女にとって薬にも毒にもなる。それを私は見守ることしか出来ないが……』
「薬にも、毒にも……?」
『どんな選択をして、どんな結果になろうと。私は誰のことも責めやしない。それだけは覚えておいて』
「えっ、ま、待ってくださ……っ!」
もっと詳しく話が聞きたくて手を伸ばしたけれど、眩い光とともに神様の姿が消えていって——
「ルリ!」
ラスロに両肩を掴まれてハッとする。
前の席にいたはずのラスロがいつの間にか目の前で立っており、心配そうに顔を覗きこんでいた。
「え、あれ? ラスロ?」
「なんか変だった。大丈夫か?」
「え? あ、うん。大丈夫。……なんか変って?」
「ピクリとも動かなくなった。声をかけても無反応で、そしたら急に苦しみだした」
「ごっ、ごめん。お祈りに集中していたみたい」
苦しみだしたのは、神様に待ってって言ったからかな。うーん、心配かけちゃった。
へらっと笑って答えたらラスロもようやくホッと肩の力を抜いてくれた。
「何をそんなに真剣に祈っていたのですか? 聖女様に関することとか?」
「うっ」
「あはは、正直な人ですねぇ。祈りの甲斐があるといいですね。ちょうど、案内が来たようですよ。意外と早かったですね」
スィさんは笑いながら礼拝堂の右奥に視線を向けた。私もそちらに目を向けると、先ほどの神官さんがぺこりと頭を下げたところだった。準備が出来たのかな?
ふぅ、いよいよ聖女に会えるんだ。さっきの神様の言葉もあるからちょっと不安。
立ち上がって三人で神官さんのほうに向かう時、最後にもう一度だけ祈ってみたけど……神様に会うことはなかった。
毎回会えるわけじゃないのかな。制限みたいなものがあったり?
ああ、もっと詳しい話が聞けたらよかったのにっ! ままならない~!




