57 一生からかわれている気がする
聖女とは状況が落ち着くまで顔を合わせないようにしよう、と決めた矢先。
トウルさんに気を付けろと言われたまさに二日後に、思わぬ話が飛び込んできた。
「えっ。聖女様が、私と、ですか……?」
「ええ、それもクランに手紙が届いたのですよ。困りましたね、今はトウルもセルジュも仕事で出ているというのに」
スィさんに声をかけられ、聖女様から手紙が届いたという話をされてしまった。
あまりにもタイミングが良い、というか、良いのか悪いのかはわからないけど……なんというか、どうしても警戒はしちゃうかも。
頬に手を当てて困ったとばかりにため息を吐くスィさんを見て、私も眉尻が下がってしまう。
これ、どうしたらいいんだろう。
「聖女様も忙しいそうで、今日の午後しか時間が取れないというのですよ。直接会って少しだけ話をしたいとのことなのですが……ルリさんはどうしたいですか?」
「ど、どう、と言われましても……急なことで困惑しています」
「まぁ、そうですよね」
私自身の考えだけ言うなら、少し会って話をするくらい別にいいのかなって思うんだけど、トウルさんにも注意されたばかりだから不安はある。
それに、人の話を聞かないヤツだと思われそう。トウルさんに叱られるのはちょっと避けたい。
「トウルからは何か言われていませんか?」
「……えっとぉ」
「言ってください。口止めされていないなら、僕に言っても問題ないということですから」
口止めは、されてないよね。話がうやむやになってしまって結局聞けなかっただけだし。
それに今は時間もない。スィさんに相談させてもらおう。
彼は信用出来るしね! ミルメちゃんのお墨付きで!
「聖女には一応気を付けておけ、って」
「一応気を付けろ、ですか。判断に迷いますね」
「あっ、ラスロは何か知っているかもしれません」
「ああ、なるほど。呼んできましょうか」
あの場にはラスロがいたし、いろいろと調べている様子だった。
トウルさんもセルジュもいない今、ラスロに相談するのが一番だ。えっと、今はどこにいるかな?
「呼んだか?」
「きゃっ」
「……ごめん」
きょろきょろと周囲を見回したその直後、背後から急に声をかけられて思わず跳び上がって驚いちゃった。
ラ、ラスロ……! 気配を消した上に背後から急に声をかけるのはやめてよぉ!
くぅ、申し訳なさそうにしてるから許すけどっ!
「ラスロ、話は聞いていましたか?」
「俺を呼んだところからしか」
「ふむ、ではこれを」
スィさんは平然とした様子でラスロに届いた手紙を渡し、当たり前のように話を進めている。
お、驚かなかったのかな? それともラスロがいることに気付いてた? あるいは慣れているとか。
いずれにせよ、スィさんくらいの落ち着きを私も身に着けたいよ。はぁ、まだ心臓がバクバクいってる。
「怪しい」
「ですよね~」
手紙を読んだラスロは端的にそう呟くと、スィさんも同意を示すように笑った。
笑ってはいるけど、それがちょっと怖い。スィさんってそういうところがあるよね……!
「あの。やっぱり怪しいんですか? ただ少し私に会ってみたい、とかではないんでしょうか……」
聖女はとても優しい人だって話だし、どうしてそこまで警戒しているのか、私にはいまいちわからないから聞いてみたんだけど。
「ルリさんは本当に素直な方ですねぇ」
「今、私、からかわれてます?」
「まさか。純粋で眩しいほどに真っ白で、大変好ましく思います」
「ありがとうございます……?」
「ふふっ、本当に貴女という人は面白いですねぇ!」
「やっぱりからかってましたね!? もーっ!」
結局、トウルさんと同じようにはぐらかされてしまった気がする。
あまり知られたくないような何かがあるのかな?
だとしたら部外者である私は首を突っ込まないほうがいいよね。
でも……会いたいと言われているのは私だから、部外者ではない、よね? むしろ当事者なのでは。
なんで隠そうとするんだろうなぁ。
そんなことされるとさ、なんだかまるで……聖女が優しいだけの人ではなく、何かを企んでいる、みたいな……。だから警戒している、とか。そんなふうに考えちゃうよ。
「さて、ラスロ。貴方の意見はいかがですか?」
「俺個人としては、向こうの思惑を知りたいと思う。接触すればもう少し何かわかるかもしれない、が」
「ルリさんが心配ですか?」
「ああ。守り切る自信はあるが、危険な目や嫌な思いはさせたくない」
ラスロ~~~! なんて優しいの! これからもずっとハグ友でいて!!
と、感動している場合じゃなかった。これはいよいよ、聖女が警戒対象なんだってことじゃない? 鈍い私でもさすがに気付くよ!
「ルリさんは、いかがです? まぁ、なんとなく答えはわかっていますが」
「わかるんですか!?」
「ええ。ですが貴女の口から聞かせてください」
スィさん相手だと、本当に全てを見透かされていそう。ミルメちゃんがいる私より見通していそうで怖い。
別に知られて困ることはないけど……。
そうだなぁ、私の考えは。
「聖女様が不快にならないのなら、私は会ってみたいって思います。似た境遇ですし、分かり合えることもあるかも」
「なるほど。大体予想通りの答えでしたが、思っていた以上にお人好しのようですね」
「お人好しなんかじゃありませんよ! 私が会ってみたいってだけの理由ですし、むしろ自分勝手だと……」
スィさんの手が私の頬に伸び、するりと撫でられる。ひえっ。
「貴女はずっと、そのままでいてくださいね」
「ど、どういうことです?」
「どういうことでしょうねぇ」
やっぱりからかわれてる?
ニコニコしたまま表情を変えないスィさんの考えは、トウルさん以上にわからないや。
ちょ、ちょっと、どうしてラスロまで何度も頷くの!? 腑に落ちない~っ!




