56 世間では色々と騒がれている模様
キンドリー公爵様が私を戻ってきた娘として公表してから数日後。
「まだ外には出られませ……んよね、すみません。もう聞きません」
「素直でよろしい!」
「よろしい~!」
公表してからというもの、私はずーっとクランの外に出られない生活をしています。
そ、そろそろ退屈になってきたよぉ!!
なによりガードが堅い。クランには必ず誰かが待機していて、最近はいろんな人に同じ質問をしている私。
毎日のようにいろんな人に聞くものだからみんなも慣れたもので、笑顔でダメだと言われる日々。
今はちょうどメディとサンディに通せんぼされたところ。わかってた、わかってたよ!
やることもないので大人しくキッチンへ向かい、今日もお菓子やおかずのストックでも作ろうかな。
トンくん、テンくん、カンくんが大喜びしてくれるし、ハマーさんの非常食にもなるし、作ること自体は楽しいからいいんだけどね。
お手伝いのアミシーたちとのお喋りも楽しいし。
しかも彼女たちは、私が説明した以上のことを根掘り葉掘り聞いてきたりしないからすごく救われてる。
もう少し気持ちが落ち着いたら、色々と相談させてもらいたいな。
あとは、悲しいかなギャスパーさんの部屋の片付けも捗る……。
でもそろそろ気分転換に外に行きたいところだよぉ。くぅ!
キンドリー家で公爵様と会ったあの日、もはや疑いようもないほど私が本当の娘だとわかってはいたけれど、確固たる証明として血液検査も受けることとなった。
翌日には検査結果が出て、そこでようやく私は正式にキンドリー家の行方不明になったご令嬢として認められたんだよね。
まだあんまり実感はないけど……本当に血の繋がった家族がいたんだって事実は素直に嬉しい。これから少しずつ実感が沸いてくるのかな?
さらにその次の日に公爵様が世間に私のことを発表したのだけれど……もう、すごい反響があったみたいで。
概ね好意的で祝福ムードではあるんだけど、中にはよく思わない者もいるだろうから、騒ぎに乗じて狙われる可能性を考慮し、しばらくの間はクランから出てはダメだとトウルさんに言われてしまったんだよね。
大げさだなぁ、なんて呑気にしていたけれど、偵察から戻ってきたラスロの話を聞いて改めた。
「ルリに会ってみたいって人が大勢いる。幸運の女神だって大騒ぎだった」
「な、なんで幸運の女神だなんて呼ばれることになっちゃったの!?」
何もしてないし、何も出来ないし、ただ死んでこの世界に来ちゃっただけだよ!? ま、まぁ、そんなこと言えやしないけど!!
たしかに話だけ聞けば、生まれたばかりの赤ん坊が異世界に飛ばされたかわいそうなご令嬢なのだろうけど……本人としては物心つく前からそれが当たり前で生きてきたし、実感がないので哀れまれても困るというか。
そう考えると、入れ替わりにこの世界に呼ばれた聖女様も、当時は同じように騒がれたのかな。
世界の浄化のために仕方ないとはいえ、赤ん坊の頃にこの世界に召喚されるなんてかわいそう、だとか。色んな意見の人がいるだろうし……。
キンドリー公爵にしてみたら、聖女さえいなければ娘がいなくなることもなかったのに、って感じだったり……?
ん~~~っ、だとしても誰も責められないっ!
しいていうなら召喚を決めた国なのかな~~~っ!?
それだって、この世界を守るためには仕方なかったと言われたら強くは言えない。私には関係ないのにって思えないよ。
でも、聖女様は? 一番の被害者だと思うんだよね……。
まったく縁のない世界に呼び出されて、浄化しろだなんて……。赤ん坊の頃からそう言われて育ったのなら、私のように特に思うこともないのかもしれないけど。
それに、私と違って血の繋がった本当の家族と会えていないもん……。
はぁ、複雑だな。いずれにせよ、想像で聖女様の気持ちを勝手に決めつけたって意味がないよね。
同情されることにうんざりしているかもしれないし、していないかもしれない。
直接会う機会はないかもしれないけど、本人の口から聞かない限りは決めつけないようにしたいな。
「それよりも聖女だ。トウルの心配は当たっていたかもな」
「え、聖女様?」
「やっぱりか。ラスロはどう見る?」
「表向きはルリの帰還を心から喜んでる言動をしてるが、本音は別のところにあるってところだ」
「ま、そうだろうな」
「え? え? 話についていけないんですけど?」
私とセルジュがキンドリー家に行った時、こっそりついてきていたラスロは、私たちがクランに帰るのを見届けてからその足で王城にも足を運んでいたのだそう。
知らない間に陰で動いていたんだね。でも……なんで、聖女を?
「ルリ、一応聖女には気を付けておけよ」
「な、なんで」
「あー。まぁ、なんだ。胸中は複雑だろうからさ」
まぁ……そう、か。
私が複雑な気持ちであるのと同じで、聖女だって私に対して複雑な思いを抱えていてもおかしくないよね。
私は転移していたことについて、彼女に思うところはないよ。だって彼女だって被害者だもん。
でもね、もし。もしも逆の立場だったら。
私が日本にいて、すべての事情を知った上で彼女だけが日本に戻り、血の繋がった家族と再会出来たのを目の当たりにしたら。
私は、彼女をどんな気持ちで見るのかな……。
よかったねって思う反面、どうして私は帰れないのって、本当の家族に会えないのって思ってしまうかもしれない。
「俺は、聖女とは少しだけ顔見知りでな」
「そうなんですか?」
「弟の婚約者なんだよ」
「弟……あっ、あの王子様ですか?」
「ああ。聖女は国中の人々から好かれる心優しい女性ってやつだ」
「わぁ、さすがは聖女様ですね! でも……そんな人の心を痛めてしまう存在なんですね、私って」
うぅ、罪悪感がすごい。そりゃあ、私にだってどうすることも出来ないけどさ。
でも、でも、存在しているだけで悲しませてしまうというのは……私も悲しいなぁ。
しょぼんと落ち込んでいると、急にラスロが目の前に立った。わ、びっくりした!
「ハグ、するか?」
「ラスロ……ふふ、ありがとう。お願いしようかな」
「ん」
小さく控えめに両手を広げたラスロがなんだかかわいくて笑っちゃった。
うん、やっぱりハグは元気が出るね。ありがとう、ラスロ。
「……おい、お前ら。やっぱりそういう関係なのか?」
「どういう誤解をしているのかはわかりませんが……えっと、ラスロとはハグ友ってやつですよ」
「なんだ、そりゃ」
ものすごく変な顔されちゃった。我ながらおかしなことを言った自覚はあるけど。
ラスロ本人も不思議そうな顔をしている。
「俺とはハグ友? ハグをする友達ってことか?」
「そうです、今決めました」
「わかった、俺とルリはハグ友だな。……トウル? 変な顔になっているぞ?」
「元々こういう顔なんだよ。……はぁ、お前らはもうそのままでいい。気にするだけ無駄だ」
トウルさんに盛大なため息を吐かれちゃった。
ちょっと奇妙な関係かな、とは私も思うけど、ラスロと私にはこの距離感がちょうどいいんだよ。ね? ね?
結局、そのまま聖女の話はうやむやになってしまったけれど……落ち着くまで、お互いのために顔を合わせないほうがいいってことだよね。
私も、あんまり気にしすぎないようにしよう。
落ち込んでいたら、またみんなにご心配をおかけしちゃうからね!




