忘れな荘の穏やかな日常
「『みかんこちゃん』か、ええやないか」
強盗騒動の後片付けを終え、ラシーさんはけたけたと笑いながら私の魔法少女名を肯定する。
「そういえば巫女服着てたな、つまりは巫女の蜜柑で御巫ってわけやな。儂は好きやで?」
「話の流れで勝手に決めちゃいましたけどね」
「構わん構わん。本人がそれでいいって言うなら外野は何も言わん」
「わたしもその名前で良いと思います」
改めて帰路に就いた私達は私の魔法少女名について話し合う。もちろん、私自身の特訓である空を飛ぶための訓練も並行して。
騒動の後片付けは警察の方々に引き継いだ。見知らぬ新入りの魔法少女である私の存在が少し話をややこしくさせましたがそれはラシーさんが無事に解決してくれました。
被害にあった銀行では数名の軽症者がいただけで大事には至らなかったものの、実行犯の人達は繭から脱出しようと爆発物を使ったらしく、指向性とはいえ密閉空間での爆発だったために重傷者や死者が出たらしい。
強盗という行為に私自身は思うところがあれど、それは彼ら自身が決断したもの。私はその行為を否定するつもりはありません。肯定しましょう。
しかし、それはこの世界の秩序を乱す行いだ。当然、秩序を守ろうとする者達と相反するだろう。ならばどちらが自身の意志を貫けるかの戦いだ。どちらが悪かということはなく、それでも決着はつけなければならない。
残酷かもしれない。それでもそれは彼ら自身で決めた事だ。私に出来ることは生き残った者、亡くなった者、それぞれの行く先が安らかなものであることを願うだけだ。
そうこうしているうちに忘れな荘に辿り着いた。守衛さんに会釈をし、門から中へ入る。中庭を歩きながら吞子さんへ報告する内容を脳内でまとめていると大きな建物……お風呂などがあった大きな家の中から騒ぎ声が聞こえてくる。
何事かと思い玄関に入ってみるとそこには十歳前後の幼い男の子と女の子がいた。茶髪で揃えたサイドテールが特徴の二人の視線の先にはミコトさんがおり、困惑しながら二人から逃げ回っていた。
「逃げるなにゃんこー!」
「待て待てにゃんこー!」
「……ミカ姐、助けて」
楽しそうな少年少女の猛追に戸惑いながらも難なく躱し続けるミコトさん。私に助けを求めているが私が何かしたところで焼け石に水だろう。
苦笑いで私の意思を伝えるととても困ったような表情をしていた。ごめんね?
「智也、このえ、困っとるからやめたれや」
「「えー」」
智也とこのえと呼ばれた二人は一向に止まる気配がなく、一糸乱れぬ連携でミコトさんを少しずつだが追い詰めていく。天井を蹴り、柱を蹴り、狭い空間を飛び回るミコトさんを二人は見失うことなく、一切の合図もなしに完璧な連携で部屋の隅へと追い詰めていく。
「……はぁ」
追い詰められたミコトさんは諦めたかのように体を脱力させた。その様子を見た智也さんとこのえさんは観念したと笑みを浮かべて突撃した。
「「にゃんこー!」」
しかし、二人はミコトさんを捉えることはなく、空を切る。ミコトさんは二人が油断した一瞬の隙を突き、するりと身を翻して二人を躱したのだ。
「遅い」
「「痛ったぁ!?」」
空中でごっつんこする二人を背にミコトさんは素早く私の背に隠れる。果たして私に助けを求める必要があるのか疑問ではあるがその様子が可愛らしいので良しとする。
そんな彼らをよそに亜弥さんは靴を脱ぎ、スタスタと奥へと歩いていった。
「ただいま」
「「いたた……あ、亜弥おかえりー!」」
「元気なのは良いですが修斗君と呑子さんに迷惑をかけないように」
「「かけてなーい!」」
「儂は? というか宿題やりや?」
そうして亜弥さんはこの場の騒動をすべて無視して自室へと戻っていった。ラシーさんの小言も無視していたので宿題をちゃんとこなすかどうかはやや疑問である。
「むむー、すばしっこい」
「いい加減観念しろー」
話を戻し、たんこぶを作りつつも彼らは諦めることなく再びミコトさんを追いかける。智也さんは正面から、このえさんは靴箱を跳ねながらミコトさんを二人で挟むように回り込む。
意図せずミコトさんと背中合わせの形になった。よく見るとミコトさんの髪や尻尾が乱れている。
「お姉ちゃん、邪魔だからどいてー!」
「にゃんこ捕まえれないー!」
「えー」
様子からして既に散々遊んでいたのではないかと推測できるがまだ遊び足りないのだろう。
ミコトさんを助けるべきなのだろうが年下達の可愛いやり取りを見ているとこのまま眺めていたい気持ちもある。
とりあえず目の前の智也さんをなでておこう。
「「ぎゃー!?」」
……なぜ智也さんはともかくこのえさんも叫んだ?
取り乱した二人は大きな玄関の隅に逃げ込み、半泣きになりながら私の方を見つめてくる。
「急になでられた……」
「なでられるまでわからなかった……」
「なんか、ごめんなさい……」
ここまで怖がられるとは思ってなくて少しショック……。
困惑していると私達をよそにラシーさんはミコトさんの頭に乗り移った。
「うちの末っ子共が迷惑かけたみたいやなぁ。耳引き抜かれたりはしてへんか?」
「大丈夫」
けたけたと笑いながら耳を軽くはたくラシーさんを捕まえ、抱え込む。
小さく呟くその声はどこか今までのミコトさんとは違う、少し柔らかな気がした。いや、少しだけ聞いたことある気がする。確かあれはディナさんと……。
そんな考え事を中断するようにラシーさんは私達に一つの提案をした。
「……せや! せっかくやし皆でゲームして遊ぶか! JP5!」
「お、ゲームですか? 私そういうの得意ですよ?」
「遊ぶ遊ぶー!」
「負けないぞー!」
ゲームで遊ぶ、その提案に私、智也さん、このえさんが即座に乗った。私のことを怖がっていたが遊ぶ話で即座に忘れてしまったようだ。
一方、ミコトさんは話の流れを理解できておらず、首をかしげている。
「形やルールは違えど双六みたいなものですよ」
「双六。なるほど」
私の説明でおおよそ理解できたらしく、表情が少しだけ明るくなる。思えば前の世界だと遊戯の類はしていませんでしたね。
先に自室へと戻ってしまった亜弥さんを除いた私達は談笑しながらゲームが用意された部屋へ赴く。JP5はこの世界におけるゲーム機本体の名前らしい。異世界とは言えゲームはゲーム、存分に楽しませてもらいましょう!
────そうして、私達は皆で夜遅くまで遊んだ。途中から呑子さんや帰って来た修斗さんも巻き込んでみんなで大騒ぎです。
「「やったー! 勝ちー!」」
「このまま年下に勝ち逃げされていいんですか修斗さん! リベンジしましょう!」
「チーム対戦で二人に勝てるわけないから。それよりも鍛える話はどうなったの」
「それはまた明日でええやろ。次は呑子とミコトの番やで」
「あら、年甲斐もなく張り切っちゃおうかな」
「動く板にも慣れたし操作の仕方もわかってきた、次は負けない」
「よーし、かかってきてください!」
「わたしを置いて楽しそうな事してますね」
「お、亜弥も来たか。宿題終わったか?」
「終わっていません」
「終わらせや?」
「あ、亜弥さんまだ魔法少女衣装なんですね」
「それはミカ姐もでは?」
「私はこうしないと左腕ないですからね……」
未成年も多いし徹夜とまではいかなかったが時間も忘れて楽しく遊ぶことが出来た。背負ったものとか、目先の問題とか、全てを忘れてただ遊びに没頭する。私やミコトさんに必要だったのはこんな時間だったのかもしれない。
私が出かけてからずっと書斎に籠りっきりらしいアルコンさんとも一緒に遊びたかったがどうやらそれは叶わないらしい。残念です。
遊び疲れていつの間にか寝ていた私が目を覚ましたのは日も昇り切った七時頃だった────
「おい、起きるのじゃ」
「むにゃ……あ、おはようございます」
目が覚めた私の前に立っていたのは魔法少女衣装に身を包んだ修斗さんだった。ツイン・テイルとしての口調で寝ぼけている私に高圧的に、そして高い声色で話しかけてくる。
「昨日はわらわのねぐらで散々遊んだであろう。それは結構じゃがお主は魔法少女を目指す身、ならば今すぐにでもやるべきことがあるじゃろ?」
「……修行、ですか?」
「そうじゃ、そういう訳でさっさと起きぬかたわけぇ!」
「あ、待ってくだ……うべぁ!」
敷き布団ごと引っこ抜かれた。様子からして修行はスパルタを覚悟しなくてはならないかもしれない。
JP5=Joy Play 5




