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廻る世界を私は謳う ~巫女と(魔)道具屋さんの帰世界奇譚~  作者: アラカブ
その■■は世界を彩り、魔法少女は■■を求める
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みかんこちゃん

「飛んでー、降りてー、回ってー、止まってー……」


「飛ぶことに意識が集中しすぎています。もっと自然に、息をするように」


「ういっす」


 空を飛ぶことは出来たもののまだ自由に飛び回ることは出来ない。というか正直ふわふわと浮かんでいるだけだ、制御できているとは言えない。


「とりあえず今は定規一つ分の高さ維持な。本格的な訓練は帰ってからやで」


「わかりました」


 それ故に帰宅路に付きながらも空を飛ぶための練習をしているというわけだ。将来的には鳥みたいに自由に飛び回りたいものだ。

 実際に鳥になった時は滑空することしかできなかったですけど……。


「空を自由に……かぁ」


 有名な歌にもそんなフレーズがある、それくらい人は空に夢を見る。それがもうすぐ手に入る、そう思うと思わず胸が高鳴る。

 どんなふうに飛ぼうかと空を見上げると電波塔のてっぺんから光が走った。恐らくは修斗さんの狙撃による光だろう。ビームのような光が地上に突き刺さる姿は神秘的にも思える。


「綺麗ですね。流石は修斗君ですね」


「おぉ~やっとるやっとる。ええ眺めやろ」


「確かに良い眺めですけどあの光の先で事件が起こってたってことですよね?」


「せやな」


 短時間であんな狙撃が必要になる事件が二件も発生しているってことですよね、それ。

 まぁ、たまたま複数同時発生しただけ。普段はこんなことにはならないのかもしれない。魔法少女という魔法を使う治安維持部隊が必要な世界が治安悪いわけ……私は肝心な事から目を逸らしつつそう思うことにした。


「今日は朝から何回撃ってるんやろか?」


「四回、ずっと見ていたから知っています」


「今日は案外少ない方か。それはそうとちゃんと学校で勉強しいや」


「学校は嫌いです」


 出来れば目を逸らしていたかった。

 どうにもこの世界は治安が良くないらしい。少なくとも一般市民が暮らすような町で比較すると私がいた世界とは天地の差があるかもしれない。

 とはいってもこっちの世界も悪いところは悪い。もしかしたらここが特別悪いだけの可能性もある。それを確認もせずに決めつけるのはよくない。


「……もしかしてこの世界ってあんまり治安が良くないんです?」


「ここは割といい方なんやがなぁ」


「ここで……?」


 もうこの世界の治安が信用できなくなった。日に最低四件も狙撃案件があったうえで治安がいい方とは?


「怪物とかわっるい事考えてる組織とか、いろんな奴がおるからなぁ」


「大変なんですね、魔法少女」


 この世界の実情に呆れかえっていると帰宅路の脇から悲鳴とガラスが割れる音が聞こえてきた。何事かと様子を伺うと目出し帽をかぶった数人組が銀行と思わしきお店から飛び出してきていた。恐らくは銀行強盗だろう。


「あ、せやせや。ああいうアホ共の相手もせなあかんな」


「治安……」


 凄腕のスナイパーが見張っている地域で犯罪行為が出来る豪胆さに呆れつつも私達は反射的に強盗集団の方へ駆け出そうとした。

 しかし、それを亜弥さんが制止した。制止されると思っていなかったので思わず体が前につんのめる。


「その必要はありません」


「うわっとと。いやでもアレを止めないと……」


「もう済ませてあります」


 そうこうしているうちに強盗集団が仲間らしき車に乗り込み、逃走しようとしていた。無理にでも魔法を行使して止めようかとも思ったが亜弥さんを信じて待機することに。


 エンジン音が鳴り響き、今にも逃げ出すように思えたが一向に動く気配がない。なぜかと疑問に思っていると車の下から小蜘蛛が這い出てきた。

 一匹、また一匹と、増え続ける小蜘蛛は糸を引きながら強盗達の車を包み込んでいく。ドアを無理矢理こじ開けようともしているがすでに手遅れらしく蜘蛛の糸によって閉じ込められている。


「自ら檻に閉じこもるとは、愚かなことです」


 亜弥さん改めホワイトシルクさんの足元に視線を移すと数匹の小蜘蛛がうごめいていた。

真っ白なブーツを伝って一匹、また一匹と数を増やしていく。

 この小蜘蛛達を操って色々するのが魔法少女としての亜弥さんなのだろう。衣装は蚕モチーフと少し違和感があるが可愛さの前には些細な問題だろう。

 小蜘蛛達も可愛らしく、手に乗せて愛でてみたい気持ちも……あ、逃げられた。


 そうこうしているうちに車は完全に繭状に包まれてしまった。強盗達はその中で大騒ぎしているようだがああなってはどうしようもないのかもしれない。


「うわぁ……」


 車を囲むおびただしい数の蜘蛛に思わず不快感を覚え、息が詰まる。


「警察の方に引き継ぐまではあのままでいてもらいます。手荒な真似もする必要はないでしょう。わたしはお店の被害を確認しますのでラシーとアレの監視をお願いします」


「わかりました!」


「まかせとき!」


 私達は元気よく返事し、被害に遭った銀行へ向かう亜弥さんを見送る。

 そうしている内にも繭はさらに肥大化し、大きな球体状になっていた。中の車ごと繭は小さな蜘蛛達によって転がされて往来の邪魔にならない場所へと移送されていった。

 手荒な真似はしないといいつつ中でかき混ぜる所業をしていることに目を逸らしつつ私達もそれを追いかける。


「これって酸欠になったりはしないんですか?」


「なってる奴は見た事ないし大丈夫やろ」


 実際に何を言っているのかはわからないが少なくとも中から騒いでいる声は聞こえるので問題はないのでしょう。なにか企んでいるようにも感じますが確認しようがないので監視だけは怠らないようにしないと。

 繭の大玉のあとをついていくうちにそこそこ広い空き地に着いた。繭を広場の中央まで運んだ蜘蛛達は役目を終えて散り散りに去っていった。

 名残惜しさもありつつ蜘蛛達を見送っていると後ろから声をかけられた。


「あなた誰? 新しい魔法少女?」


 振り向くとそこには小さな女の子が数人、目をきらめかせながらこちらを見ていた。いかにも小学生、私達の世界だと魔法少女のアニメを食いついてみている年齢だろう。

 目を輝かせているということはこの子も魔法少女が好きなのだろう。そんな子の夢を壊すわけにはいかないだろう。


「そうです! よろしくね」


 私は小さな杖を両手で持ち、頬に近づけるようにしてぶりっ子のようなポーズをとる。少し大げさな気はするがこの子達は喜んでくれているので問題はないだろう。

 その喜びように安堵しているとまた別の子が小さく飛び跳ねながら私に質問してきた。


「名前は? 名前は!?」


「なま……え?」


 私は重大な事を失念していた。

 そう、魔法少女としての名前を考えていなかったのだ。


「えーっと……」


 困った私は助けを求めるようにラシーさんに視線を向けた。ラシーさんも困ったように目を細めていた。あの様子だとあまり期待できそうにない。

 こうやって表を出歩くなら考えておけばよかったと思うがそれは後の祭り、後悔しても仕方がないのでどうにかして魔法少女としての名前をひねり出そうと頭を回そうとした。


 それを制止したのは繭から発せられた爆発音だった。

 何事かと振り向くとそこには空に浮かぶ繭がそこにはあった。繭の一部に穴が中から外に向かうように開いており、内側からの爆発が察せられる。どうやら先ほど騒いでいた時になにかしらの手段を準備していたのだろう。

 その繭は私達や子供達を飛び越え、通りから私達を見ていた人達の方へと向かっていった。


「やばっ。ラシーさん、この子達を頼みますね!」


「あ! 待てや蜜柑!」


 このままでは大勢の方が繭の下敷きになってしまう。私は子供達を飛び越え、繭の落下地点へと先回りする。逃げ惑う者、転ぶ者、パニックになった人達を守るように浮遊し、繭を待ち構える。

 魔法少女は魔法のイメージを脳内に描き、それを現実に映し出す。ならば私にだって描けるはずだ、この状況を乗り越えるイメージを。


「受け止めるように反発する空間を大きく、広く形成して待ち構える……」


 繭の中の人達がどうなっているかわからない以上過度な力は厳禁、そっと優しく受け止めるように……。

 繭とほぼ同じ大きさに形成した空間に落下する繭が触れる。空気はゆがみ、光が屈折する。私は魔法で特殊な空間を作り出すことが出来た。周囲の空間は大きく変形し、繭は落下速度を落とした。繭を魔力で包み込み、さらに抑え込む。


 ある程度受け止めることが出来た事を確認した私は逃げ遅れた人を抱えてその場から離れる。

 湧きたつ人々に軽く会釈をしつつ周囲を見渡して安全を確認し、魔法を解除する。落下した繭が大きく音を立て、地面に小さなひびを入れる……やらかした。

 弁償の事で頭を悩ませていると助けた女性の方から声がかかる。


「ありがとうございます……」


「いえいえ、当然の事をしたまでです」


 助けたいと私が思ったので助けた。それだけなので恩に感じる必要はありません。あくまで私が勝手にやった事なので。そうした意図を示し、彼女に顔を上げさせる。

 ……それよりもこの人、どこかで見た事あるなと思っていたら先ほどの怪物の時に助けた人ですね。なんども事件に巻き込まれるなんてとんだ災難だ。


「お祓いとか行った方が良いかもしれませんよ?」


「大丈夫です、災難には慣れてます」


 大丈夫と言われても不安が残る。しかし、本人がそういうのなら要らぬおせっかいはしなくてもいいでしょう。

 彼女を降ろし、怪我の有無を確認していると子供達が駆け寄ってきた。任せていたラシーさんは繭の中を確認していた。そちらは任せて私は子供達の面倒を見るとしましょう。

 各々に凄い、凄いと褒められて鼻の下を伸ばしそうになるがなんとか耐えて平常心を装う。


「名前教えて! 名前!」


 先ほどは伝えそびれていた私の名前を子供達は改めて聞いてくる。どうやら助けた女性も気になるらしく、子供達と一緒に聞こうとしていた。

 私は少し悩んでから小さく、それでいて皆さんに届くようにはっきりと伝える。


「『みかんこちゃん』、それが私の名前です」


 御巫、もしくは御神子。神に仕える少女という意味であり、まさしく私を現すにぴったりな名前だ。そもそも蜜柑という名前もそこから取っているとお母さんは話していた。


 場当たり的な命名ではあったが子供達や助けた方の反応を見るに悪くなさそうだ。

 巫女の魔法少女、真っ黒衣装のみかんこちゃん。初めての小さな活動の結果も相まってこの衣装にも少し愛着がわいてきた。もうすこしだけこの衣装のままもいいかもしれない。

ちなみに、蜜柑ちゃんがゲームに使用しているプレイヤーネームも『みかんこちゃん』

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