魔法少女は空を飛べるもの
「追い出されました~」
修斗さんによって電波塔の上から全員追い出され、私はゆっくり梯子を下りながら亜弥さんの悲痛を聞かされている。
「わたしは修斗君の役に立とうとしただけなのに……この世にもう価値はありません……」
「宿題終わらせろと怒られただけやろ。さっさと終わらせや」
「え~ん」
深い絶望に沈んでいる亜弥さんは私の傍らで浮遊しながらゆっくりと降下している。背中から生えている翅を動かして空を飛んでいるように見えるが実際どうなのかはわからない。魔法で空を飛べることは前の世界でディナさんが証明している、翅は飾りという可能性もあるだろう。
他にも色々と聞きたいことはあるが今聞くのはおそらく逆効果だろう。誤解こそ解けたもののまだ敵視されている可能性は十分にある。それは落ちついてからの方が良さそうだ。
それよりもラシーさんに聞きたい事があるのでそちらを先に片づけることに。
「ところで一つ聞いていいですか?」
「なんや」
「そもそも魔法少女は黒なのでは……?」
亜弥さん改めホワイトシルクさんはどう見ても白一色では? ラシーさんは黒こそだと言っていたが黒なんて指し色にすら黒が入ってない方がいることを問いただす。
「皆が皆黒だと代わり映えせぇへんって一部から苦情来たから……」
「全然浸透してないじゃないですか」
つまりラシーさんが適当な事言っていたってことでは。騙されていたなら別に黒色の魔法少女じゃなくてもいいんですよね?
「それなら私だって紅白衣装の方がよかったんですけど?」
真っ黒じゃなくても一切問題ないってことなら巫女服風の衣装でも良いはず。そっちの方が私らしいですしね。
「えー」
「えー、じゃねぇですよ?」
ラシーさんはたいそうご不満の様子。これは説得をするにも時間がかかりそうだ。
そうこうしている内に梯子は途切れ、久方ぶりの大地に降り立った。風に揺らされる電波塔の上と違って揺るがぬ地面に安心感を覚える。
「はぁ~……憂鬱です……」
梯子を使わずに浮遊していた亜弥さんも無事に地面に降りられました。沈んだ表情をしていたので心配していましたが余計なお世話だったらしい。
それはそれとしていまだにうなだれている。心配なので私から声をかけてみる。
「それの憂鬱は宿題か修斗さんに追い出されたことのどっちで……」
「貴女の事を含めて三つ全部ですが?」
「あ、はい。すいません」
恨み節を押し付けるように睨みつけてきたので私は受け流すように一歩後ずさる。とはいえ亜弥さんも元気がないわけではないようなので一安心、むしろ余計なお世話だったようだ。
睨まれたことをごまかすように笑う私を見た亜弥さんは少しの沈黙ののち、ため息を吐いた。
「……ラシー、この方はわたしの後輩で間違いないですか?」
「せやな、歳は蜜柑の方が上やとは思うけどな」
今までの話から推測するに亜弥さんは高校生以下、やや鋭い顔付きと私より高い身長から推察するに高校生でも高学年だろうか。私はおおよそ二十歳ですから間違いなくわたしの方が年上ですね。
とはいえ、魔法少女としては若輩者もいいところ。就任一日以下、やったことと言えば小さい子に手を振った事と怪物に襲われた人を助けようとしたことだけ。つまり亜弥さんは魔法少女の先輩にあたる人だ。きちんと先輩を立てていかなければ。
「よろしくお願いしますね、先輩!」
「よ……っ!?」
先輩と言われた亜弥さんは明らかに頬を赤く染めながら動揺している。私を直視できなかったのか視線を泳がせ、果てには顔も背けてしまった。
……あれ? この人以外にチョロいのでは? そう思ってラシーさんに対して問いかけるように視線を向ける。
「亜弥より後輩は三人おるけどな……誰も亜弥を先輩と立てるようなタイプじゃないねんな……」
「あぁ、そういう」
素直に先輩と慕われる経験が薄いというわけですか。なるほどなるほど……。
私は亜弥さんの視線の先にそっと先回りし、精一杯の笑顔を向けた。
「ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いしますね。先輩?」
私の言葉を聞いた亜弥さんは顔を真っ赤にして誰かに助けを求めるようにあたふたしていた。恐らくは修斗さんかな?
様子からして間違いなく私の言葉は彼女に響いた。が、少し申し訳なさが湧いてきた。弱みに付け込むようなやり方は少し心苦しいが、気難しい方との最初のコミュニケーションミスをするわけにもいかなかったので……申し訳ない。
混乱している亜弥さんが落ち着くのを待ち、先輩から後輩への返答を待つ。
「……わたし自身はまだ飲み込めてはいないですが、修斗君が言う以上わたしも貴女を忘れな荘の一員として認めます。先に言っておきますがわたしは修斗君と違って優しくないですので覚悟しておいてください」
「わかりました!」
格好つけようとはしているものの明らかに表情が緩んでいる。認めてもらえるのは嬉しいもののあまりのチョロさに少し心配になる。
「修斗君にベタベタ近づくようなら繭にするのでそのつもりで」
「うぇ?」
前言撤回、あんまりチョロくなさそうです。この誤解をどう解消するべきか…。
それは後々どうにかするとして、今は亜弥さんに聞きたいことがあります。
「ところで亜弥さん、一つ聞きたいことがあるんですけど」
「なんですか? 修斗君の妾になりた────」
「違います。どうやって空を飛んでるのか知りたいんです」
今こうして会話しながらも亜弥さんはふわりと浮遊している。空を飛ぶ魔法は難易度が高く、使える者はそれなりに貴重だとアルコンさんから聞きました。それを亜弥さんはいとも簡単に使いこなしているように見える。
私はそれを知りたい。そう思って亜弥さんに尋ねたところラシーさんが会話に割って入って来た。
「それは儂が説明しようやないか」
「うわ、びっくりした」
「ホワイトシルクが簡単に空を飛んでる理由はそれ、蜜柑も持ってる変身アイテムや」
「これ?」
私は自分が持っている変身アイテムである小さな杖を見つめる。
「それには色んな機能が備わってるんやがその一つに魔法少女の魔法をサポートする能力がある。製作者は『空想具現化補助機能』なんて呼んでたりするがまぁ呼び方はどうでもいい。それは魔法少女が描く魔法のイメージを現実に映し出す力や。ビームを撃ちたいと思えばビームを撃てる。物を操りたいと思えば物を操れる。空を飛びたいと思えば空を飛べる。そんな力がそれには込められてるんや。どや、凄いやろ?」
「簡単に言えば、魔法少女は空を飛べて当たり前。そんな確固たるイメージさえ掴めれば誰でも空を飛べる、そういうわけです」
「な、なるほど……」
魔法そのものをイメージで構築する。今までとは全く異なる手法に驚きが隠せない。
私が知っている魔法の殆どは理論的に構築されたものばかりだった。出力の瞬間こそそれぞれのやり方があるが理論は共通でそれを学ばないと魔法は使えないと思っていた。
しかし、魔法少女はその常識を覆し、全ての人間が持ちうる空想を武器にして戦うことが出来るらしい。
……もしやこの変身アイテム、非常に危険な代物なのでは?
「つまり、飛ぼうと思えば飛べるってことですよね?」
ラシーさんのアルコンさんにも劣らぬ長話もあったが、結局のところは単純明快だ。イメージを現実に落とし込むことが魔法少女に出来ること。
なら、私にもできるかもしれない。
空の飛び方は色々あると様々な創作で描かれていた。その中から私が使う魔法とイメージが合うものを思い出し、それを思い描く。
空を飛ぶ感覚は以前鳥に変化させられて知っている。空を浮遊する人間の実例は亜弥さん、そしてディナさんで知っている。その二人の姿を私自身に落とし込み、私は空を飛べると信じ込む。
私は世界を渡ることが出来る。なら空を飛ぶくらいきっと────
「まぁ一朝一夕で出来るもんじゃないしそもそも出来へん奴だっておる。ゆっくり────」
「……出来た」
「嘘ぉ!?」
出来ちゃった。自分でいうのもなんだが割とあっさり。
まだ完全に制御できるわけではないがそれでも私は地面から足を離し、浮遊している。
「そんな簡単に出来るもんとちゃうやろ!?」
「そうです! わたしもここまで早くは出来ませんでした、それなのにどうして……!?」
私以上に驚愕しているお二人が詰め寄って問い詰めてくる。
理由としては以前から魔法に類するものを使っていた事だろう。それと異世界を渡る力を行使するときにイメージの力を多少利用していることも挙げられるだろうか。
「元から魔法は多少使えたのでそのイメージを応用してって感じですね。私の周囲に魔力を循環させて磁場を作り出す様な感覚で浮いてると思います」
なので厳密には浮遊しているというよりは浮かんでいるといった感じだろうか。漫画で見た浮遊の原理ではあるが私には合っていると思い、利用させてもらったのだがどうやら正解らしい。
私のなんちゃって解説なんで価値は薄いとは思うがお二人は目を丸くして聞いている。それほど私のやったことは異常らしい。
「まぁ、とどのつまり……」
このそれっぽい原理も私の世界の物語に出てくる魔法少女の一人から拝借したもの。つまり空を飛ぶ魔法少女は私達の世界においてありきたりな概念というわけだ。
つまり、結論だけを述べるならこうです。
「私の世界において魔法少女とは飛べて当たり前なんですよ」
「な、なんやってえええぇぇぇ!!!?」
私の何気ない言葉に対してラシーさんは大げさなリアクションをとった。亜弥さんも驚いているあたり魔法少女が空を飛べるのはそこまで当然の話ではないらしい。
……まぁ、すべての創作において魔法少女が空を飛んでいる訳ではないので少し話を盛りましたが。




