先輩と後輩
「異世界から来た?」
「はい。納得いく説明が出来るかはわかりませんが……」
「儂は直接見たからええがな」
軽い自己紹介ののち、修斗さんに私が異世界から来たことを伝える。こうした説明にも慣れ始めてきたが信じてもらえるかは別問題である。
ラシーさんには転移の瞬間を直接見られた故に説明の必要はなかったが修斗さんは果たして……。
「異世界……か。アニメや漫画の中ならともかく実際にあると言われても実感は湧かないかな」
「私からすれば魔法少女がそれにあたるんですよね……」
感触としてはあまりよろしくはない様子。信じてもらえるかは微妙なところ。
まぁ、今回は信じてもらえなくてもあまり影響はない。今はただの魔法少女見習い、そこに異世界云々は関係しない。
「とりあえず一ヵ月の間よろしく。指導とかは苦手だけど相談には乗ってあげるから」
「よろしくお願いします!」
私は深く頭を下げた。男性の魔法少女と知って面を食らったが人のよさそうな方で少し安心。
外見は少女そのものだが演じていない時の声や立ち振る舞いは男性のそれである。中性的な顔をしていて体格はもこもこの和ロリサイバー衣装でごまかしているから魔法少女に徹されると少女としか認識出来ない。
……そんな男性が『ツイン・テイル』という名前でのじゃロリ狐魔法少女を演じているのか。なんというか、一度そのことを意識してしまうとその差にギャップを感じてしまう。
私がそのギャップに面食らっている事を修斗さんは気にも留めずに話を続ける。
「ひとまず俺からは三つだけ言っておく。死なないこと、夢を見ないこと、夢を見せること。これだけは覚えて、心に留めておくこと。いい?」
「夢を見ないこと?」
私はその言葉がピンとこずに首をかしげる。
死なないことと夢を見せることはなんとなく理解出来た。しかし、夢を見ないことというのはどうも私が知っている魔法少女のイメージとは異なる。
私はそのことを修斗さんに問う。
「理想を追いすぎない。それが魔法少女において一番大事なこと。わかった?」
「わ、わかりました……」
そう答える修斗さんは平静を装いながらもこぶしを握り締めていた。その様子にただならぬ理由があると察した私はそれ以上踏み込むことが出来なかった。
同じくそれを見ていたラシーさんは修斗さんの頭に乗り、小さな前足で頭をなでるように落ち着かせていた。
「テイル~、儂らはお前の味方やからな。もちろん、お前の後輩達もな」
「そ、そうですよ! 私だって修斗さんの味方ですよ!」
「いや、君は初対面でしょ」
「私が修斗さんの味方をしたいので初対面とかは関係ありません!」
「えぇ~……」
ドン引きされた。解せぬ。ラシーさんは笑わないでください。
……まぁ、色々秘めている思いがあるらしいですが、それはきっと修斗さんが頑張ってきたからこそ抱えている悩みなのでしょう。ならば私はその助けになりたい。たとえそれがただのおせっかいだったとしても。
「んっと、まぁ。よろしく」
「はい! 短い間ですけどよろしくお願いしますね、先輩」
気まずそうにしている修斗さん────改めツイン・テイルさんに満面の笑みで応える。
言ってはなんですが先輩と後輩という関係を持てたのはこれが初めて、ネットでそれがどういうものかはある程度知っていますが実際にその関係になるのとでは色々と差異もあるでしょう。
ましてや魔法少女という私の世界では幻想の存在における先輩後輩の関係に心が躍らないかと言えば噓になります。ワクワクしますね。
それじゃあさっそく後輩らしいことをしましょうか。
「ところで先輩!」
「……なに?」
「私はなにをすればいいんでしょうか?」
冷めた眼差しを向けられた。解せぬ。
「そもそもここになにしに来たの?」
「とりあえず顔見せやな。鍛えてやってくれてもええで?」
ラシーさんに冷めた視線を向けている。すいません、こんな私達で。
「……それは夜見てあげるから今は忘れな荘に帰ったら?」
「なんや、テイルにしては面倒見が悪いなぁ」
なんだかんだ夜に魔法少女としての鍛錬をする約束を取り付けることが出来た。それを今から楽しみにしつつ珍しく面倒見が悪いというラシーさんの言葉に耳を傾ける。
「いや、今日って学校は午前授業だし……」
学校の午前授業、私はそういうのに詳しくないがこの世界にも半日だけ授業というものがあるらしい。
それはそうと、そう語る修斗さんが口を窄めて目を逸らしている。どうやらなにかに対して焦っているらしい。
私はなぜ焦っているかがわからず首をかしげているとラシーさんが慌てるように修斗さんから私の頭に乗り移って来た。
「細かい話はあとや、今はさっさと帰るで」
そう言いながら私をここまで来た梯子を下りて引き返すように促す。それに従いつつも訳が分からないのでラシーさんに聞き返す。
「どうしたんですか急に?」
「いや、別に悪い事じゃないんやが下手したら面倒事になる可能性がやな……」
「ラシー、それはもしかして────」
「ん?」
ラシーさんでもなければ修斗さんでもない、聞いた事のないゆったりとした声に思わず振り返る。
「わたしのことですか?」
「ぅべあ!?」
「遅かった……」
上から下まで全身真っ白のもこもこ衣装を身に纏い、蝶、もしくは蛾のような翅を羽ばたかせて浮かんでいる少女がそこにはいた。
突如として現れたその少女に驚き飛び上がるも、風貌からして魔法少女のようにも見える。つまりは私の先輩にあたる方に失礼なことをするわけにいかないと思い、なんとか絶叫だけは堪えた。
白色の魔法少女は私を見てにっこりと笑い、自己紹介を始めた。
「初めまして、わたしは早乙女 亜弥。魔法少女名は『ホワイトシルク』。修斗君や貴女と同じ魔法少女です。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
背後に立って脅かしてきた第一印象とは正反対ともいえる誠実な自己紹介に思わず気が抜ける。
少し変わった方ではあるように思えるが魔法少女の先輩ならきっと悪い方ではないでしょう。
「ところで一つお聞きしたいことがありまして……先ほどまで修斗君とはどのようなお話を?」
「……はい?」
「返答次第では私が正気でいられなくなります」
前言撤回。変な人です。
「落ち着くのじゃシルク、大した話はしておらん」
「そ、そうですよ。魔法少女として色々と教えて貰ってただけで……」
魔法少女としての口調になっている修斗さんに助け舟を出して貰いつつ、大したことはしていないと亜弥さんにアピールする。しかし、あまり聞く耳は持たないようだ。
「確かに修斗君は素晴らしくてかっこいい人ですが修斗君はわたしの恩人にして彼氏です。わたしが白いうちは彼女になれるなんて思わないことですよ!」
誤解ですよー!?




