忘れな荘
第一話を少しだけリメイクしました(2026/7)
「はい、というわけでここが忘れな荘よ」
「デッカ!!!」
住む場所を提供してくれるということで案内をされたそこは町の一角を綺麗な塀が囲んだ大きな建物だった。
和風の門の前には守衛さんが立っていて、呑子さんがその人に話しかけて門を開けさせていた。
中に入ると広々とした敷地の中に様々な平屋の建物が建てられており、それをつなぐように庭園のような雰囲気の庭が整備されていた。
「ひ、広すぎて眩暈がする……」
「これくらい普通にあるだろ」
「なんですか、お金持ち発言ですか? ミコトさんもそう思いませんか?」
「そもそもお金がよくわからない」
「あ、そこからか……」
「おい変なの、こいつに基本的な教育もまかせた」
「それは本当に儂の役目か?」
「ウフフ。さて、ここが忘れな荘の本丸よ。これから一か月よろしくね?」
案内されながら雑談していると、ひと際目立つ大きな建物に案内された。そこは所属する魔法少女達が住む建物で、旅館のように立派だった。
イネさんの屋敷も立派だったがこれはそれにも劣らない。そんな建物を歩き、浴場へと案内された。
「清掃は既に済ませてもらっているから自由に使っていいからね」
済ませてもらってる、つまりは清掃等の雑用をこなしてくれる使用人みたいな人もいるらしい。忘れな荘、思ってた以上に大きな施設なのかもしれない。
それはそうと今の私自身について疑問が一つ。
「あの~、私、今変身したままですけどこのまま入って大丈夫ですか?」
「そのまま入っても平気よ、そっちの方が入りやすいでしょ?」
どうやら変身こそしたものの肉体は私自身であることに変わりはなく、人形のような左腕が生えたことと魔力に相当する力を常時消費すること以外に差異はないらしい。
問題ないということなのでこのままお風呂を堪能することに。きちんと男女で分かれているのでここでアルコンさんと別れ、ミコトさんと一緒にお風呂に入ることに。
脱衣所にて着慣れぬ衣服を脱ぐことに苦労したがそれはそれ、久々のお風呂を堪能させてもらいましょう!
……そう思っていたのだが、
「ミカ姐」
「ん? どうしましたかミコトさん?」
「やっぱりアタシはいい」
「え?」
ミコトさんがまさかの拒絶。もしかして水が苦手だったとか……いや、別にそういうことはなかったはず。
それともお風呂というものを知らない、とか? あの世界にお風呂はなさそうだったので警戒してるという線はありそう。
「大丈夫ですよ。お風呂は怖いものではありませんから」
「いや、そういうことじゃ……」
どちらにせよお風呂で体を洗わないと皆さんに迷惑がかかるのでささっと入らなければ。
足踏みするミコトさんを浴場に押しこみ、シャワーの前に座らせる。ミコトさんの耳やしっぽに細心の注意を払いながらゆっくり体を洗い流していく。
「熱かったり痛かったりはしないですか?」
「大丈夫……」
やはり水やお湯は問題なさそうだ。無理に我慢している様子もないしむしろ気持ちよさそうにしている。
体の洗い流し方を教え、ミコトさんが自分で体を洗うように促しつつ私もその横で体を洗う。少し手がしびれている気がするけどきっと気のせいか変身で生えた左腕の影響でしょう。
お互いの背中を洗いあい、無事に洗い終えたらあとはゆっくり湯舟につかるだけ。ミコトさんをエスコートしつつゆっくり大きな湯船につかる。
「あぁ~極楽、極楽」
久々の湯舟、しかも大人数が一度に浸かっても問題ない大きさのものは初めてだ。体を大きく広げてゆったりリラックスする。
ミコトさんは申し訳なさそうに隅で縮こまっているがあれは休めているのだろうか?
「原理はわかりませんが左腕も動きますしこんなに大きなお風呂に入らせてもらえる。魔法少女サイコー!」
まだなにもしてませんけど。そもそもこの世界の魔法少女はなにと戦ってるかもよく知らないですけど。あの黒い巨人は呑子さんによって作られたものみたいですし……。
どちらにせよ後ほど詳しく教えてもらえるでしょう。今は体を休める事を優先です。
「ミコトさんも気持ちいいですか~」
「う、うん……」
隅で縮こまっているミコトさんに近づき、もっとリラックスするように促す。それでもミコトさんはリラックスしようとはせず、私が近づくにつれてさらに縮こまってしまった。
仕方がないのでミコトさんの横に座り、私もゆっくりくつろぐことに。なんか息苦しい気がするけど多分大丈夫のはず。
「……迷惑かけたくないからやっぱり先に出てるね」
「えっ」
そういってミコトさんは湯舟からあがり、早々に立ち去ろうとした。もったいないなと思いつつも引き留めることは辞めて一人で堪能することに。
立ち去ろうとしつつずっとこちらの様子を伺うミコトさんに違和感を覚えつつも大浴場を堪能していると体に違和感を覚える。
足が動かないのだ。それどころか手もまともに動かず息苦しささえ感じるようになってきた。
慌てて湯舟に視線を向けるとただのお湯とは思えぬくらい真っ黒に変色していたのだ。厳密にはミコトさんがいた周辺だけがそうなっていた。
私はこの現象に見覚えがあった。ミコトさんと戦った時、正気を失った防衛反応で漏れ出ていたあの黒い水だ。これに触れると動けなくなる、それどころか細胞や臓器すら活動を止めるというアルコンさんの予想すらあった。
「み、ミコトさん助けて~」
なぜ今これがあるのかは不明だがこれを予想していた故に不安がっていたであろうミコトさんに助けを求める。
ミコトさんは私を素早く湯船から引き揚げ、使い慣れぬシャワーで私から黒い水を落としてくれた。
「……ごめん」
「いえいえ、無理に誘った私が悪いんで……」
申し訳なさそうに悲しんでいるミコトさんを私は笑顔で宥めた────
「────で、結局ミコトさんのあれってなんなんですか?」
「魔力漏洩病って言う病気、水に触れてる時だけってのは珍しい症例ではあるがな」
あの後事情を説明し、ミコトさん用の五右衛門風呂を用意してもらって気兼ねなくお風呂を堪能できた。
今はそれぞれ用意してもらった衣服に着替えてミコトさんの事についてお話中です。私は和ロリと呼ばれるような紺を基調とした和服ロリィタ系の服。アルコンさんはタンクトップに短パンです。体が大きいから合う衣服がなかったのでしょう。顔は良いのに少しもったいない。
「簡単に言えば体内にある魔力が意図せず活性化した状態で漏れ出てくるのが魔力漏洩病だ。前の世界にもその症状らしき現象は聞いたが特定の世界だけの病状ではないらしい」
「ここではそういうのは聞かへんなぁ」
「人体発火現象とかそういう奴ですかね? 実際に見た事はありませんが」
私達の世界にも魔力やそれに類するものは私自身が証明できる。オカルトの類を深掘りすればそれと一致する現象はあるのかもしれない。
だが今は本題ではない。私はノースリーブのブカブカ猫耳パーカーを身にまとったミコトさんを指さしてアルコンさんに問いかける。
「ミコトさんの魔力が漏れ出てるのは治せるんですか?」
「根本的な解決は無理ってのが定説だな。対処療法はいくつかあるし鍛錬で抑えられるようにはなるらしいが……」
あんまり期待しない方が良い、そうアルコンさんは答えた。
しかし、抜本的な解決が難しいだけでやりようはあるともとれる答え方だった。ならば諦めるのは早計だろう。
「……ま、そこまで急ぐ必要もないだろ。自分自身に害をなすものでもないし知ってれば対策できる部類だ。それこそ一ヵ月もあればな」
「……頑張る」
私としては少し不安ですが、本人がどうにかしようとしてる以上こちらから口出しをするべきではないでしょう。
そして私は私でやるべきことがあります。それは魔法少女としての修行である。そして私はまだこの世界における魔法少女をよく知らないのである。
「ミコトさんが頑張るなら私も魔法少女として頑張らないといけませんね」
「頑張ってね」
「はい!」
お互いの健闘を祈りつつ、私は私自身の目標の為に努力することを口に出して改めて確認する。
「とは言っても……私はなにをすればいいんですか?」
「とりあえず魔法少女としての先輩に会いに行ってみる?」
「先輩?」
「えぇ、今ならあの子がいつもの場所にいるはずだから」
「せやな、それがええと思うわ」
とんとん拍子でやるべきことが決まり、私は新たなる出会いに胸を高鳴らせる。魔法少女の先輩、きっと素晴らしい人なのだろう。
「……先輩、かぁ」




