始まりの魔法少女
「それで、お前達の目的はなんだ」
私、ラシーさん、おばあさん……もとい、夏奈司呑子さんの三人は拝殿の前でアルコンさんに正座させられている。ラシーさんと呑子さんは詐欺罪と私達を襲った罪で、私は詐欺に引っかかった愚かさ故にだ。いや、魔法少女自体は詐欺でも嘘偽りでもないのですが過程の問題ですね……。
「貴方達を一目見た瞬間ビビッときたの、なにか面白い予感がするって」
「その予感は大正解や、可愛いい上に訳ありの悩める乙女がおるやないかって」
「そういう訳でラシーに頼んで魔法少女に勧誘してもらったの」
「ええ子で素質も十分、頑張れば凄い魔法少女なれるかもしれへんで?」
「えへへ……なんだか恥ずかしいですね」
直球に褒められるとお世辞でも嬉しいですね。少し恥ずかしいですが。
「アホしかいねぇな」
「ひどい!」
アルコンさんは相変わらず歯に着せぬ物言いである。それはそうと、その言い方だと横のお二方の事もアホと言ってませんか? ……この人はわかってて言ってますね。
事情を聴きながら雑談していると、困り果てた顔でミコトさんが話しかけて来た。
「ねぇ……そもそもマホウショウジョってなに? 魔法を使う女の子? それだとミカ姐は元からそうなの……?」
「いや、そういうわけでは……」
広義的な意味では間違ってないですがこの場合の魔法少女だと間違いですね。魔法のような何かを使う少女なのは否定しませんが。
「ラシーさんはこの世界の魔法少女を『知らない誰かと共に笑えるヒロイン』って言ってましたね。あ、ヒロインってのは女性や女の子って意味です」
「せやせや」
「……なら、やっぱりミカ姐のこと?」
「どうしてそうなります?」
ミコトさんにとってのヒロインはオトさんだと私は思うんですが……私は私が納得出来る事をやっているだけですよ。
「なんや、昔っからそないなことしてたんかいな。やはり儂の目は正しかったんやな」
さりげなく私の上に移動していたラシーさんにも褒められるがやはりその言葉は私にとって違和感がある。
そんな感じで悩んでいると、呑子さんが揶揄う様な雰囲気を纏いながら口を開いた。
「あら、ラシーったらそんな気取った事言ったの? そうやって讃えてくれるのは嬉しいけど今の魔法少女は華やかな治安維持部隊の側面が大きいのにね」
「始まりの魔法少女が言うもんやないでそういうことは! 初志貫徹、形が変わったとしても紡いでいく心は変えるべからずや」
「もっとやりたいようにやるものだと思うのだけど……ま、それは現役の子が決めることね」
この世界を知っている者だけが理解できる会話を紡ぐ二人の表情はどこか幼く、生き生きとしていた。
「『始まりの魔法少女』? もしかして、吞子さんも魔法少女だったんですか?」
「えぇ。もう引退してるけどね」
「その時のパートナーが儂や。今は後輩達の面倒を見てんねん」
きっと二人はその時からずっとこうなのだろう。魔法少女として、支えるオトモとして、二人はともに歩いてきたのだろう。
私はなぜか二人が紡いだ軌跡を少し羨ましく感じてしまった。
「さて、さっきのは無しにして改めて聞かせてもらうで。蜜柑、魔法少女やらへんか?」
「似合ってるわ、その衣装」
焦らせて騙したも同然だった先ほどの事はなかったものとし、改めてラシーさんは私に問いかける。
確かに先ほどは卑怯な手を使われたと思います。それでも、私の想いは変わりません。やるべき事があるのに私は弱い、ならば強くならないといけない。私の意思を、意志を、貫くために。
そう思っていたのだが────
「俺は反対だ」
「ヴェ!?」
なんと、私が答える前にアルコンさんが反対の意を示したのだ。
「な、なんでですか!?」
「魔法少女がなんだかは知らんが……戦えるようになったら死ぬだろ、お前」
「どういうことかわかりませんね」
「言葉の通りだよ。お前は戦う力を身に着けたら自らの意志に飲み込まれて死ぬ。前の世界の時だってそうだ。戦う術を知らないからギリギリ自制出来てたんだろうがその枷が外れれば自らの意志に逆らえず、そのまま何も成せぬまま朽ちるだけだ。散々迷惑してんだ、自覚がないとは言わせねぇぞ」
わかってます。私は私の意志を見捨てることが出来ない。それ故に私は曵様と向き合い、ミコトさんを助けようとし、モンスターと戦い、ホーロンさんを殺した。
「正直なところ、お前が意志の奴隷として死のうがどうでもいい。が、お前が死ねば俺とコイツは元の世界に帰ることなく取り残される。それは誰も望んだものじゃねぇだろ」
アルコンさんやミコトさんを元の世界に帰すことも私が果たすべき責任である。これも嘘偽りない真実だ。
「……その言葉は否定しません。私は目の前の誰かを、自分を、騙すことなんてできません」
それでも、私は強くならなければなりません。
「だからこそ! 私は強くなる必要があるんです! 私自身に胸を張って生き続けるためにも!」
私はアルコンさんの目を精一杯にらみつける。怖い顔で睨み返してくるがここで怯んだら押し通すものも通せなくなる。目を逸らさず、しっかりと目を見る。
正直なところ、前の世界で竜人のようなモンスターに襲われたとき、私が生き残れたのはただの奇跡だ。力がなくてもあっても、私はあそこで死んでいた運命だった。曵様から貰った呪いがあったから、それ以上でもそれ以下でもない。
「力があってもなくても変わらない。それならばせめて私が私と向き合えるようになりたい、そっちの方がきっといいに決まってます!」
ぶっちゃけミコトさんに助けを求めたい気持ちはありますがこの場合はおそらくアルコンさん側に付くと思うので話に入れる隙は与えません。きっとアタシがミカ姐を守るからって言うと思うので。
「それに、もう魔法少女として手に入れるものは手に入れてるので諦めてください。私を説得するにしても手遅れですよ」
見せつけるように変身アイテムである小さな杖をアルコンさんに左手で見せつける。これがある限り私は既に力をつける方向に舵を切っているのだと。
苛立ちを隠せない表情のアルコンさんは一拍置いて私に腕を伸ばしてきた。とられると思って変身アイテムをアルコンさんの手から遠ざけるが、その手は私の顔面を掴んでいた。
……あ、なるほどなるほど。これは変身アイテムを奪おうとしたのではなくて私に制裁を加える為の手だったんですね。
そうして私は鼠に変えられ、ミコトさんに投げ渡された。魔法少女になっててもお構いなしです。変化させられるのはもう慣れたものですが鼠を見るミコトさんの視線が怖いです。あ、よだれたらさないで────
────確かにこのアホは前の世界では俺達から離れている所で死にかけていた。これからもその可能性がゼロじゃないとは言い切れない。それならばコイツに戦う術を身につけさせて自衛出来るようにさせておくのは理にかなっている。が、
「釈然としねぇ……」
このアホの意見をそのまま通すのも腹が立つ。それに、魔法少女とやらが治安維持している世界とは言え前までの世界と比べると真っ当な文明を築いているように見える。
「あの……蜜柑ちゃんは大丈夫なの?」
「心配するな、一分で戻る」
「儂等もアレされるんか?」
「望むならやってやるが」
そう、一分だ。一分で勝手に戻るのは本来ありえないことのはずだ。どこかで腰を据えて検証しないといけない事ではあった。戦闘向けの道具も持ち込めていない。今思えばベストコンディションからあまりにもかけ離れている。
そこでよだれ垂らしてる猫も精神的な問題を引きずっている。これも放置するべきではない。それ以外にもいろいろと気がかりなこともある。
ならばここで一度腰を据えてそれぞれがやるべき事をする時間を作るべきなのかもしれない。
「……はぁ、今思えば急ぎすぎてたか」
顔を真っ青にして手を挙げてるばあさんと変なのを無視しつつ考えをまとめる。幸いにも力を持った奴が協力してくれるという状況は願ってもない状況ではある。
ならば最大限利用させてもらおう。時間はともかく金なら報酬の財宝が大量にある。状況は悪くない、ここで一気に状況を整えて帰還までの道筋を整える。
「……一ヵ月だ。一ヵ月であのアホを強大な敵と出会っても自衛出来る程度にまでは育てろ。それが出来なければ……わかってるな?」
「一ヵ月でどっかいくんは悲しいがまぁ任せとき、きっちりびっくり立派な魔法少女にしてやるから任せとき!」
「なら契約成立だ。真っ当に育てろよ」
あのアホが真っ当に育ってくれるかは別問題だがな。
とはいえこれで話は済んだ。腰を据えることも決まった以上一度ゆっくり落ちつきたい。出来れば広い部屋があるところが良い。
「そういえば異世界から来たってことは宿ないのよね。それなら私が管理してる『忘れな荘』に来ない? 本来は魔法少女達の住む場所なんだけど三人まとめて、ね」
「……わかった。一先ずは借りさせてもらう」
最低限の宿問題も解決か。広さはわからんがそれは後でどうにかする。
「ということは、他の魔法少女をしている方にもあえるんですか?」
鼠から元に戻ったアホは先人の方に飛びついた。このばあさんの後輩でこのアホの先輩か、大方ろくでもない奴なんだろうな。
「そのまえに、貴方達全員お風呂に入ってね。お着替えも用意するから、ね?」
そういえばここんところ風呂に入ってないな……もしかして臭うのか。




