巫蜜柑、魔法少女になる
新章開幕です
ミコトさん達の世界、アッシュさん達の世界を越えて私達はまた新たな世界に降り立った。
そこは私達の世界に少し似ていて、それでいて全く違う異世界だった。レンガと木の街並みを電線が横切る少し不思議な光景。
そこにポツンと佇む鳥居の傍で、私達は黒い巨大な怪物に襲われた。アルコンさんとミコトさんに庇われて逃げ延びるも、戦いにおいて私は二人の足を引っ張るだけだと知ってしまった。
それでも私は二人を助けるための力が欲しい、そんな想いに答えるようにそれは現れた。
「あんた、魔法少女やらへんか?」
「……へ?」
猿かも虎かもよくわからぬヘンテコで小さな生き物は宙に浮きながら、真っ直ぐに私の目を見つめて問いかけてきた。
「私が……魔法少女!?」
「せや、知っとるか? 魔法少女や、フリフリな衣装を着た悪者と戦うマジカルなヒロインや」
「いや、知ってますけど……」
アニメや漫画でもありますからね、魔法少女。日曜の朝か深夜にやってる可愛いヒロインが変身して色んなことをするファンタジー。
古くは魔女っ子なんて呼ばれてたジャンルですが戦う性癖の煮凝りと呼んでも過言ではないジャンルに変貌してしまった今日この頃……。そんな魔法少女に私は勧誘されてしまったわけです。いや、別にここの世界の魔法少女がそうだと決まったわけではありませんが。
そしてなにより……
「怪しい……」
「お? これ儂信用されてないな?」
魔法少女のマスコットは安易に信用するな……ってのは冗談として、魔法少女だろうとアイドルだろうと、知らん人の誘いなんて簡単に乗ってはいけないことは常識ですよ?
「知らない人についていってはいけません。お義母さんにもそう教わりました」
「儂こう見えても有名なんやけどな~。ラシーって聞いたことない? 儂の名前なんやけど」
「知らないですね」
「そっか……」
私が否定するとものすごく悲しそうにしています……あ、いじけて地面に落書きし始めた。
少し話してみたところ、この世界では有名人らしいこのオトモのようなナニカはなんとなく悪い人ではないような気がする……が、やはり怪しくて胡散臭いのもまた事実……
「はぁ~……さすがによその世界にまでは知られとらんかぁ……」
「……!?」
私は思わず後ずさりして距離を取った。私はそのことをまだ口にしていない、それなのに私達が異世界から来た事を知っていた。アルコンさん達を見てこの世界の者ではないと察したのかもしれないが魔法少女なるものがある世界で簡単に決めつけるのもおかしな話だ。ここは確信を持たれないように様子を見つつ……
「お、その様子やとアタリくさいな」
しまった、確信を持たせてしまった。
「何もない空間から出てきてたからもしや~と思ったけどホンマに異世界の人間やったとは。あっちで戦ってる女の子は化け猫か猫又、あるいは火車か?」
しまった、そもそも見られてた。ならどうしようもないな、ごまかすのは諦めましょう。
それよりも、今は謎の怪物をどうにかするのが先決。とはいえ私にアレをどうにかできる手段はない。そしてそれを解決する手段を持っているナニカは目の前にいる訳で……。
時間はない、けれど目の前のナニカを無条件で信用する訳にもいかない。
「……一つ、質問していいですか?」
ならば最短即決でこの方が信用できる方か確かめるしかない。
「お、なんや? 好きに聞きや?」
「貴方にとって、この世界にとって……『魔法少女』とはどんな存在ですか?」
多分これが目の前のナニカの意図を読み取れる質問だと思う。私は嘘も揶揄いもなく目の前のナニカ……ラシーさんに答えを求める。
ラシーさんはゆっくりと私の周りを飛び回り、目の前で止まって私の目を見ながら、答えた。
「『知らない誰かと共に笑えるヒロイン』……で、どや?」
そう答えるナニカは屈託もない笑顔だった。その言葉に嘘はなく、心の底からの答えだと私は確信した。
「わかりました! やりましょう、魔法少女!」
私はその本心に応えるように宣言した。屈託もない笑顔に負けないくらい満面の笑みで、高らかに。
「よしきた! アンタ、名前は?」
「巫さん家の蜜柑です!」
「よし蜜柑、これが変身アイテムや。使い方の説明はいるか?」
「なんとなくわかるので大丈夫です!」
ラシーさんがどこからか取り出した小さな杖状の変身道具を右手で受け取り、天高く掲げて、叫んだ。
「変身!」
掲げたそれにありったけの魔力を流し込むと、私の周りに帯状の黒い光が集まってきた。それは私の体を包み込み、少しずつ帯の形を変えていく。
手袋、ヘッドドレス、大きなブーツ。帯は魔法少女としての衣装に変わり、私を魔法少女に仕立て上げていく。
ふわふわの衣装に袖を通し、フリフリのスカートは膝下程まで膨れ上がる。大きなリボンでポニーテールを作り、残った光の帯は衣装を彩るアクセサリに変化した。
変身も終わり、自身の変化をまじまじと見つめる。黒ロリチックな衣装、それもモコモコで体格に見合わないぶかぶかのブーツを履かされている。後頭部の大きなリボンを触るとその中に布らしくない手触りがあり首をかしげるが、どうやらイネさんから貰った髪飾りがリボンで隠されているらしい。
私は一連の出来事に感嘆して声が出なかった。フィクションとしてしか見なかった魔法少女の変身、それをまさか私がすることになるとは……人生ってのはわからないものだ。
「さて、変身した感想はどうや?」
「そうですね……冷静になると少し恥ずかしい……」
よく考えると推定二十歳が魔法少女やる羽目になってるんですよね今。小恥ずかしいというかなんというか……。
「まぁ魔法少女としての名前とか口上は今度改めてやな。ちゃんとかっこかわいいもん考えや?」
「そうですね……いや、そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」
ラシーさんの雑談に流されそうになりましたが目的を見失ってはならない。なぜ魔法少女になったかは黒い大きな怪物と戦う為だ。そのために私は振り向いて怪物を探す。
しかし、その怪物は既にいなくなっていた。
「あれ? もう怪物いませんよ?」
アルコンさんとミコトさんが打開して倒せたのでしょうか?それなら良かったです。私が魔法少女になった意味はなかったけど。
「げ、思ったより早かったな……」
「ん? 今なんて言いましたか?」
なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたので問い詰めましょう。内容次第では出るとこ出ないといけないかもしれません。
「え、いや~……」
「なんで焦ってるんですか? なんかやましい事でも?」
「その~……」
「……ミカ姐? どうしたの、その恰好」
どうにかして隠している事を聞き出そうとしたその時、私の背後からミコトさんが声をかけて来た。どうやら無事なようで一安心です。
振り返ると心配と懐疑の目を私に向けているミコトさんと、なにかを察したのか既に呆れ顔のアルコンさんと、その懐に抱えられた謎の黒髪のおばあさんがいた。
その黒髪のおばあさんは満面の笑みで「ドッキリ大成功」の文字が書かれた看板を持って……ん?
「あの……ラシーさん?」
私は震えた指で看板を指しながらラシーさんに問いかける。ラシーさんは少し照れくさそうに答えた。
「すまん。騙したわ」
即座に左手でラシーさんを掴み、おばあさんが持っている看板に目掛けて投げつけた。
「天誅うううぅぅぅぅぅううう!!!」
「ぐぼはぁ!」
「ラシイイイィィィィィ!?」
おばあさんを驚かせて申し訳ありませんが共犯故に我慢してください。
「……ん?」
ラシーさんに制裁を加えたところで私は違和感を覚える。私は前の世界で左腕を失った。それなのに私は今、左手でラシーさんを投げた。
つまり……
「左腕が生えてる!?」
よく見ると左腕が人形のような材質ながらもくっつていて自由に動かせる。あまりに自然に動かせるから気づかなかった……。
「今気づいたのかよ」
「ぐっ」
アルコンさんの呆れた視線があまりにも痛い……。




