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勇者一行の魔法使い

 翌日、昨日もお世話になった臨時医務室で目を覚ます。

 世界の真実を知らされた後、そのまま大事を取ってお休みをもらっていた。片腕を失っている身とはいえ元気は有り余っているのでなんだか申し訳ない気分だ。

 とはいえだ。魔法で傷は塞いでもらったので多少の運動くらいは大丈夫でしょう。ブランリー奪還を手伝った報酬が届くまであと数日、お手伝いしつつこの世界を見て回りましょう!


「さて、まずはお着替えを────」


 そう思った矢先、城壁の方から爆発音が聞こえた。

 私はあわてて服を着替え、医務室を飛び出して音の聞こえた方に走り出す。城壁の近くまで来た頃に再び爆発音が上から聞こえた。

 息を切らしながら城壁の階段を急いで駆け上がる。その最中、腕を失くしたせいか何度もバランスを崩してこけそうになった。服を着替える時ももたついた事を思い出し、失くしたものの大きさを実感する……そういえば片腕だとゲーム出来ない、どうしよう。

 階段を登り切り、息を整えて音の発生源へと視線を向ける。そこには申し訳なさそうにしているミコトさんと呆れているメルルさん、そして不満げにしている少し耳が尖った知らない少女がそこにはいた。その少女は右足に包帯を巻いており、大きな怪我をしているようだった。

 そして何よりも目を引くことは、大きな杖に体を預けて地から浮いていることだった。それはまるで、おとぎ話に出てくる魔女のように。


「僕は悪くない……教えてくれないのが悪い……」


「そもそも怪我してるから休めってアタイ言ったよな? 誰も追いかけてくるなんて知らないし教えれるわけないだろ……」


 一人称が僕の可愛い少女は頬を膨らませ、メルルさんに不満をぶつける。不服そうな視線はミコトさんに向けられており、現状に納得がいってなさそうだ。

 一方でミコトさんは顔に擦り傷が出来ており、申し訳なさそうに猫耳を両手で隠している。状況から推測するにミコトさんをモンスターと勘違いして襲撃したのだろう。マリーさんの嘘による隠蔽も看破しているようだ。


「あと、それどうやって飛んでんだ? そんな魔法知らないんだが?」


「だって皆が閉じ込めるから……」


「一から作ったのか……」


 メルルさんが頭を抱えている。表情と声色から推測するに良くあることなのだろう。さりげなく新しい魔法が作られている事が凄い事なのかどうかは私にはわからない。

 そして私は彼女の正体が分かった。メルルさんと知己である様子、少し性格に問題のある魔法に長けた少女……彼女は皆さんのお話に度々出てきていた勇者一行の魔法使い、ディナさんだろう。


「あの~……」


「お、ミカンか。すまん、ウチの問題児がやらかした」


「アタシは大丈夫……」


 メルルさんは申し訳なさそうに私とミコトさんに謝罪する。ミコトさんは大丈夫と言っているが襲われているのは明白である。少しくらい怒った方が良いのでは?


「えっと……その方がディナさん、ですか?」


「天才魔法使いディナ! 様をつけて呼ぶこと!」


「ディナ……さま?」


「ふっふーん!」


「調子乗るからつけなくていいぞ」


「メ~ル~ル~……」


 ディナさんの視線がメルルさんに突き刺さるがどこ吹く風とばかりに斬り捨てる。それを受けて涙目のディナさんが少し可哀そうです。

 それでもへこたれる様子はなく、涙を拭きながらもミコトさんを睨みつける。どうやらミコトさんがモンスターでない事を信じ切ってはいない様子。疑いの目は依然として厳しく光っている。


「……本当に違うの?」


「違う。アタシは猫又、モンスターじゃない」


「信用ならない」


「ディナ、そいつらは今回の功労者でアタイ達の恩人だ。これ以上は怒るぞ」


 弁明してなお疑いの目を向けるディナさんに対してやりすぎだと諫める。これ以上は大事になりそうなのでどうにか止めたいところ。

 この場をどう収めようか考えていると、ディナさんが悪い笑みを浮かべた。


「わかった、こうなったら力を見せつけて僕に逆らえなくしてやる! それならモンスターかなんて関係ない!」


 その言葉を聞いて私はとっさにミコトさんの前に立って庇った。力を見せつけて、その言葉はミコトさんへの宣戦布告だと思ったから。

 反面、ミコトさんは動こうとしなかった。腰に携えた剣を抜こうと手を近づけたが掴むことはせず躊躇っている。前々から思っていたがミコトさんは箋様から受け取った剣を抜こうとしない。やはり思うところがあるのだろう。

 助けてもらおうとメルルさんに視線を送ると予想外にも笑みを浮かべていた。


「それならメルル、いいもんがあるぞ」


「「いいもの?」」


 私達は首を傾げ、ディナさんは嬉しそうに耳をピコピコと動かした────






「────あれ? なにしてるんですか、アルコンさん?」


「それはこっちが言いたいんだが?」


 いいもんがあるということで移動した先はブランリーの地下に広がる迷宮だった。都市の中央にそびえ立つ教会の内部、女神セレスティアの彫刻の真下にある入口から私達は侵入し、そこでアルコンさんやユーナさん、アッシュさん、マリーさんと合流した。


「あ、ディナ! 予想はしてたけどやっぱり抜け出してきてた!」


「ユーナ! なんで僕を置いていったの!?」


「怪我人なんだから置いていくわよ。当たり前でしょ? それよりもディナ、なんか浮いてない?」


「空を飛ぶ魔法なんてこの世界にはなかった、つまりディナが作ったってことよね」


「うむ! さすがディナだ!」


「ふっふーん!」


「アッシュ、褒めるな」


 勇者一行のフルメンバーが勢揃い、いつにもまして賑やかなユーナさん達に思わず心が温まる。いつもはこうやって各地を旅してモンスター達と戦っていたのだろう。それはそうと、こう見るとアッシュさんしか男の人がいない。まさにハーレムですね、多分一途でしょうけど。

 この光景をもう少し見ていたかったが、アルコンさんがそれに水を差した。


「で、結局なにしに来たんだ? ここは水没しててもう入れんぞ」


 アルコンさんにはもう少し雰囲気を読み取ってもらいたいと思いつつもこのままだと話が進まないのもまた事実。アルコンさんに話を進めてもらいましょう。

 そう思っていた矢先、ディナさんが浮いた杖を巧みに操りながらアルコンさんに近づいていく。


「あんたが僕の代わり?」


「そうだが?」


 二人は最小限の言葉だけを交わし、にらみ合う。私は意図が読めず、二人に対してどう声をかけるべきかわからなかった。

 少しばかりの苦笑いが迷宮に響いたあと、ディナさんが口を開いた。


「僕の方が強い」


 まさかの勝利宣言、どうやら先ほどのにらみ合いは実力を測っていたようだ。

 堂々と宣言するディナさんだがアルコンさんが黙っていないのではないかと恐る恐る様子を伺う。


「……だろうな」


「あれ?」


 意外にもあっさり認めた。


「俺は強さにそこまで拘りがねぇ、お前が強いかどうかなんでどうでもいい」


 頭を掻きながら心底面倒くさそうに対応する。そういえば本物のウーティスさんには勝ったことがないと言っていた。そういう点からしても強さに誇りは持てていないのかもしれない。


「それに、俺は道具屋だ。個人の強さに大した意味はない、考え方が違うんだ」


 それを聞いてミコトさんが苦い顔をした。おそらくはアルコンさんに負けた事を思い出したのだろう。

 しかし、アレはアルコンさんが私を使って卑劣な真似をした結果です。あの結果だからこそ今こうして和解してる面もありますがそれはそれとして私達はいつかアルコンさんに怒るべきですよ。


「で、ここで何をするつもりだ?」


 話を戻して、アルコンさんは私達がここに来た理由を問う。メルルさんがディナさんの為にとここに案内したは良いものの私はその目的を知りません。


「ディナが力を誇示したいって言ったんだ。この周辺にモンスターはもういない以上やれることと言えばこれだろう、な?」


「ふふーん」


 ディナさんは浮遊する杖から降り立ち、アッシュさんに肩車をしてもらっていた。そして杖を手に持ち、掲げて魔法を唱えた。


「『僕の意に従い印を辿れ。そして繰り返せ』」


 杖が光ると同時に私達が歩いてきた道筋に光が灯る。それは迷宮の外までつながっている。


「『オートフロー:リピート』!」


 水没した迷宮の中に光が灯ると、突如として水が噴水のように噴きあがった。そしてそれは光の道を辿りながら私達の上を通り過ぎて迷宮の外まで流れていく。

 目的はわかった。迷宮を水没させるほどの大量の水をすべて抜こうとしているのだろう。全貌はわからないが大きそうな迷宮だ、これを全て一人でこなせるとするならばとても凄い事なのだろう。


「ふふーん、これを見れば僕に逆らおうなんて思えなくなるでしょ?」


 ディナさんはアッシュさんの上で自信満々にミコトさんを睨みつけるが、ミコトさんはあまり恐れおののいているようには見えない。もしかしたらとてつもなく高度なことをしているのかもしれないが、あいにく魔法に関する知識がない。故に凄さを理解できないのかもしれない。少なくとも私はそう。

 もしかしたらメルルさんがディナさんを上手い事利用しているだけなのかもしれないと思ってちらりと表情を確認する。その意図を察したのか私に話してくれた。


「いや、リピートはディナにしか出来ん凄い事なんだぞ?」


「道具を介さない魔法の自動制御か……確かにこっちでもそれをやってる奴は見た事ない。まだ空を飛ぶ奴の方が多い」


 アルコンさんの補足もあり、なんとか私達はそのすごさを実感する。アルコンさんでも知らないほどの高度な魔法、それを行使する実力を誇示できるならこの行為にも意味があったのだろう。


「リピートしてても他の魔法は使えるし僕の意思で制御できる。その魔法をリピートし続けることもできるしそれを扱うだけの魔力もある。つまり僕が攻撃魔法を使えば君なんてこっぱみじんに────」


「お、反応がこっちに来たな」


「アッシュ! 準備はいい?」


「うむ、任せろ」


「皆さん、ディナさんの話を聞いてあげてください」


 元からここにいた方々が話を聞かずに水位が下がっていく水面を眺めている。本来の目的を遂行しようとしてるのは理解しますがディナさんを放置しないで上げてください。また涙目になってますよ。


「……大丈夫?」


「ぐすっ、大丈夫」


 あまりの扱いにミコトさんがディナさんを慰める。本来の目的は叶わなかったものの様子からしてもう大丈夫かな?


「ところで皆さんは何をしてるんです?」


 二人の事はメルルさんに任せ、アルコンさん達の目的を訪ねる。どうやら水面の下に何かがあるらしい。おそらくは私達が来たのも都合がよかったのかもしれません。


「今日の朝、急にこの下から大きな魔力反応があったのよ。もう完全に水没したはずの迷宮からね」


「……見えて来たぞ」


「アッシュ! モンスターだから倒しちゃってよね!」


「うむ!」


 そうして水面から飛び出したモンスターをアッシュさんが聖剣を振り下ろして一刀両断。魚型のモンスターは真っ二つに斬りさかれた。


「さすがね!」


 マリーさんの話を聞いた後だとこの光景も違って見える。色々思うところはあるがここでいう訳にはいかないので口を紡ぐ。


「あれ? 何か持ってない?」


「うむ、なにやら袋を持っているな」


 倒れたモンスターには大きな袋が括り付けられていた。アルコンさんが袋を持ち上げて口を緩めると、金銀財宝があふれ出て来た。その量はとても多く、私にはそれの価値の総額を想像できなかった。


「うわ、なんだこれ」


「すごい、こんな財宝の山初めて見た」


「うむ、これだけあれば遊んで暮らせそうだな!」


「貴方は勇者なのよ! 思ってもないこと言わないでよね!」


 それぞれが思い思いの言葉を口にする中、私はひらひらと舞う小さな紙に気づいた。それを手に取ってみてみると、文字が書かれていた。


「『ありがとうね 異界の長命種より』」


 それは女神様からの手紙だった。簡潔に記されたそれは私達異世界から来た者がこの世界の人類に手を貸してくれたお礼なのだろう。人の手に有り余りそうな財宝の山はちょっと困りますが……。

 その手紙をユーナさんにそっと手渡し、内容を確認してもらう。少し考えたのち、ユーナさんは妙案を思いついた表情で口を開く。


「せっかくだしこれをブランリー奪還の報酬として受け取って?」


 私達が勇者一行から受けたブランリー奪還への同行依頼。その報酬がまだブランリーに届いていなかったので受け取っていなかったのだ。


「うむ、それがいいかもな」


「いいのか? 本来の報酬より多いと思うが?」


「きっと女神セレスティアも許してくださるでしょう!」


 女神様の真意に気づいているであろうアルコンさんはユーナさんの意図を理解したのか不機嫌そうに沈黙している。とは言え報酬が増えたこともあり、思っていることを飲み込んで袋の口を縛った。


「なら、もうこの世界に留まり続ける理由はないな」


 アルコンさんは立ち上がりながら宣言した。それは次の世界へ進む宣言であり、勇者一行との別れの宣言だった。

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