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箱庭を紡ぐ夢物語 其の拾参

「……これは一体どういうことですかミカンさん」


 ワープゲートから現れた数多の倒木によって押しつぶされたモンスターを見たアランさんはその事実に目を釘付けにされながら私に問いかけた。


「別の世界で色々あった時に倒れた木を持ってきてみました。偶然にも同じような事をしてる人を見たことがあったのでもしかしたら、と」


 偶然とはいえウーティスさんを模したゴーストを見ていたことが功を奏しました。アルコンさんとの戦いを見てからどうしても引っかかっていたのですが……まさか私とウーティスさんの力に類似点があるとは……今の今まで気が付きませんでした。

 もしかしてアルコンさんを私の力で拉致してしまったのも……いや、今は考えないでおきましょう。


 首を振って余計な思考を飛ばし、改めて倒木に押しつぶされたモンスターの方に目を向ける。モンスターは既に落とした倒木を弾き飛ばして立ち上がっていた。やはりダメージとしては大したものではないだろう。

 改めて回復支援班の方々の場所に向かおうとするのなら、それをまた妨害するために意識を集中する。しかし、そのモンスターは立ち止まって私を見ていた。

 意図こそ読めませんが明確に敵として認識されたと思っておいた方がいいですね。心を落ち着かせつつモンスターに対して警戒しているとそのモンスターが私に話しかけてきた。


「貴様か。これを成したのは」


 そのモンスターは威圧的に、それでいて冷淡に私へ問いを投げかけた。竜の鱗に守られた瞳は宝石のようで不気味ながらもどこか綺麗だった。

 彼の問いかけに私は足がすくんだ。曵様と比べて怖くないとは言いつつも怖いことには変わりない。

だとしても、ここで私が怯えるわけにはいかない。小さく呼吸して心を落ち着かせ、彼の問いにはっきりと答える。


「はい、私です。先ほど奥の手があると言いましたよね?」


 私は手のひらを差し出し、その上に小さな石ころを呼び寄せた。彼に見せつけるように、大きく、綺麗な石ころを。


「そうか」


 彼は感情の起伏を見せることなく小さく呟いた。


「貴方にも何かしら理由があるのでしょう。なにかしらの目的、もしくは信念があって人類を殺そうとするのでしょう。それを私は否定しません、肯定しましょう」


「えっ」


 アランさんが驚いた表情でこちらを見ている気がしますが無視させてもらいます。

 私は意思や信念を否定したくはありません。例えそれが私達を害するものだとしても。


「……ならば、貴様は首を差し出すのか?」


「いえ、それはできません」


 それをしてしまうと私はアルコンさんやミコトさんを元の世界に帰せなくなってしまいます。それだけはダメです。それに私自身がまだまだ死にたくないです。こちとら推定二十歳の人生六年目なんですよ。死ぬにはまだまだ若すぎます。


「私は死ぬわけにはいきません、私達には帰らなければならない場所があります。そして私はここの世界の人にも死んで欲しくはありません、それは私が持ってる小さな願い。だから貴方の前に立ちふさがります、この世界の人達を守るために」


 私は可能な限り優しく微笑む。私は誰かの意思が何であれ否定はしません。しかし、それがだれかの意思と相反することもあるでしょう。その時は言葉にしても頭脳にしても、はたまた暴力にしろ、より力の強い者が意思を貫ける。

それは、とても残酷なことです。


「まぁ、何が言いたいかですが……」


「さっさとかかってきやがれ、です!」


 結局のところ、私達は交われない存在なのでしょう。ならば戦うしかありません。

お札はもうありませんが、以前と同じような指を二本突きつけるようなポーズをとり、私には戦う意志はあると竜の姿をしたモンスターさんに見せつける。


「あ、帰るというのなら止めはしませんよ?」


 もちろん争わないならそれに越したことはない。というか帰ってくれると私がありがたい。


 モンスターは私の言葉に答えることはなかった。私から視線を離し、転がっている倒木に目を向ける。そしてゆっくりと近づき、その中から何かの木の実を取り出した。おそらくは持ってきた木になっていたものだろう。

 彼はそれをじっと見つめ、この空間が静寂に包まれた。それが破られたのはその木の実が彼に握りつぶされ、果肉があたりに飛び散った時だった。


「……そうか、貴様は────」


 私は……。彼が私に対して何を思ったのか、私にはわからない。それでも私をにらみつけるその眼からは確かな意志が感じ取れた。私に対する、確かな敵意を。

 ならば私はそれに答えなければならない。気を引き締めてモンスターからの攻撃に備える。私は戦う力を得た、それでも私は戦い方を知らない。一瞬でも油断すると簡単に死んでしまうだろう。


「貴様のそれは────」


 一歩、距離を詰めてきたことに対して一歩後ろに下がる。アランさんが私を守るように体を割って入れる。

 先ほどまでとは明らかに雰囲気が違う。モンスターがなにをしてくるかわからない、意識をそらさず……。


「貴様だけは殺しておかねば」


「────え?」


 モンスターはいつの間にか私の目の前まで近づいていた。鋭い爪は今にも私の体を切り裂こうと振り下ろされていた。

 私は気を抜いた覚えはない。ずっとモンスターを注視し、いつ行動されても反応できるように身構えていたはずだった。それなのに私はその接近を気取ることが出来なかった。つまりは先ほどまでは全力ではなかったのだ。


 振り下ろされた爪をかわそうにも体が動かない。走馬灯を見るかのようにゆっくりとした時をただ感じながら爪で切り裂かれるのを待つしかなかった。

 つまりはどういうことかというと……


「あ、これ死ん────」






 ────懐かしい声が聞こえた気がした。重く、乾いた、優しい声が。

 本当に聞こえたかはわからない。助かりたい願望が幻聴を生んだのかもしれない。

 しかし、間違いなく、私の中から溢れてくるそれが私を守ってくれた。


「一度だけだ。よいな」


 優しく、そして厳しいお言葉が脳内をよぎった────





 ────私の体から黒い呪いがあふれ出た。その勢いは凄まじく、竜人の姿を模したモンスターを軽々と弾き飛ばしてしまうほどだった。

 それは曵様から受け取った呪い、そして祝福。私が死にそうになった時に一度だけ私を守り、降りかかる死の要因を呪い返す物騒な贈り物。

 それのおかげで私の命は守られた。紡いだ縁が私を助けてくれた。ならばあとは私がそれに答える番です。


「いたた……大丈夫ですかミカンさん?」


「大丈夫で……いや、アランさんの方が大丈夫ですか?」


 アランさんは吹き飛ばされたモンスターに巻き込まれたのか頭に怪我をしていた状態で倒れていた。血が流れていて起き上がれはしたものの少しふらついてしまっている。


「大丈夫です。それよりモンスターは……」


 アランさんは自身の怪我を気にすることなくモンスターを警戒する。モンスターには黒い靄……おそらく曵様の呪いが覆っており、立ち上がることすらままならないほど苦しんでいる。目から口からとあらゆるところから血が流れ出ている。はたから見るといつ死んでもおかしくはないようにも思える。

 それでもモンスターは私に強い眼差しを向けてくる。神の呪いに蝕まれようと私を殺す意思は衰えることがないようだ。


「……逃げましょう」


「そうですね、逃げましょう」


 呪いで動けないのであれば今のうちに逃げるべきである。強いモンスターが無防備である以上倒すには絶好の機会ではあるが私達には彼を倒しきる手段を持ち合わせていません。アランさんの武器も私のお札もありません。別の世界から何かを持ってくるにしても生半可なものでは鱗を貫けないしそれを考える時間もない。

 ならばさっさと逃げて援軍を呼んでホーロンさんを助けに行く、おそらくそれが最善でしょう。

 私達はそろってその結論にたどりついて走り出そうとモンスターから背を向けた。火球くらいなら対応できるから目を離しても問題ないと。


その時だった。思わず耳をふさぎたくなるような咆哮が森全体に響き渡った。

振り返るとそのモンスターは呪いに蝕まれながらも誰かになにかを伝えるように声を荒げていた。

 なにかよくないことがあるかもしれないと私達は急いで逃げた。倒れ伏したその姿が見えなくなる頃には咆哮も聞こえなくなっていた。


 足を止め、周囲の安全を確認したのち一息つく。走り続け、強大なモンスターと相対した疲れが急激に私を襲う。私のために周囲を警戒し続けてくれているアランさんも疲れを隠しきれていない。


「こ、これからどうしましょう」


「一度回復支援班に向かい状況報告、その後本隊と合流しましょう。まずは身の安全が第一です」


「わかりました」


 アランさんの提案を二つ返事で了承し、私達は回復支援班に向かおうとした。

しかし、それを遮るかのように地響きがした。嫌な予感がして耳を凝らすとモンスターのいた方角から、街の方角から、ホーロンさんと別れた方角から、様々な方角からなにかが近づいてくるような音が聞こえた。

考えるまでもなくモンスターの大群だろう。上位モンスターの咆哮は数多のモンスターを呼び寄せる合図だったのだ。


「走りましょう、今ならまだ逃げ切れるかもしれません!」


 アランさんは自身を鼓舞するかのように叫び、走り出した。

 しかし、私は走り出さずにアランさんとの間に倒木や大岩を降り注がせた。


「なっ……!」


「走ってください。おそらくですが狙いはあくまで私です。この大群を回復支援班まで連れていくわけにはいきません」


 驚愕するアランさんを突き放すように淡々と事実を突きつける。この大群を怪我人がいる場所まで連れてくことは出来ない。ならば私一人で逃げ回って時間を稼いだ方がいいはずだ。

 もちろんアランさんは止めようとするだろう。だから先に私とアランさんの間に壁を作って止められないようにした。ごめんなさい。


「……大丈夫。怖くない、怖くない」


 両手で頬を軽く叩き、邪念を吹き飛ばす。もちろん怖くないかと聞かれれば嘘になる。それでも私はやると決めたからにはやらなければならない。

 作った壁の裏で叫ぶアランさんの声が聞こえる。遮ってもまだ私を連れて逃げるつもりのようだ。だからこそ私は前に歩き出してアランさんから離れる。そうでもしないとあきらめてくれそうにないから。

 大丈夫、倒木や大岩以外にも他人の迷惑にならずに持ってこれそうなものの目途はつけてある。アルコンさん達が街を制圧して助けに来るまでくらい一人で耐えきって見せましょう!


「さて、どれくらいいるかはわかりませんが……やってやりましょう! かかってきやがれ、です!」


 私はモンスター達に聞かせるように、巫女として私が使える神様に願うように、声を張り上げて宣言する。


「世空様。私に────みんなを守れるだけの力を」

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