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第38話『生存本能』

 やれ、潰せ、今やれないなら、私の気持ちはその程度だ。後悔しない人生を歩むんじゃなかったのか。何もせずに死ぬ事を許せるのか。でも、それでもやっぱり私には……。

「できないよ」




 地底の街ニェドラー、採掘場跡地。普段は光がほぼ差し込む事なく薄暗い採掘場に、どこから持ってきたのか、巨大な蓄光石が地面に突き刺さり、その光は採掘場を照らしていた。

 そこには私、狐火木ノ葉と、瀕死状態のエシ。そしてレヴィアの遺体と、事の元凶、悪魔族の女、アレウシア。

「死にたいらしいな?」

 エシの挑発に、アレウシアの殺意が一時的に私からエシへと流れる。エシは私を庇ってアレウシアと戦い、そして瀕死になった今も、私から注意を引いて寿命を引き伸ばしてくれた。一方の私は、心を打ちのめされて、何もできずにいた。目の前でエシが殺されそうな今も、何も出来ずにいる。

 私はずっと弱いままだ。戦闘の話じゃなく、心の話。心身ともに未熟で貧弱だ。ただ気取って勢いをままに自分らしくいたら良い。それが自分の長所で、それが良い方向に流れるものだと、そう思っていた。

 でも、それだけじゃ救えないものがあると分かった。だから、意志を貫ける程の強さを。でも、その信念は安っぽくて儚い。結果が今の惨状である。

 向こうでエシが親指を立て、弱々しい笑顔を向けて壁に持たれているのが見えた。アレウシアは拳を握り、エシにとどめを刺そうと走り出す。事はあっという間だ。既にもう手遅れであり、今の私にエシを守れる手段はない。目の前でエシも殺されてしまう。結局自分は、ここぞと言う時に決断のできない半端者だった。目を閉じる。




《大丈夫、できるよ》




 エシを捉えたアレウシアの拳は、インパクト寸前の所でピタリと停止する。私はハッとして目を見開いた。勝手に手袋型魔納具から展開された長筆、その筆毛が大蛇のように長く伸びてアレウシアの身体を取り巻き、拘束していた!

「こ、これは……!??」

 長筆の筆毛はアレウシアを引っ張ると、エシから距離を離し、そのまま身体を反対側の壁面へと叩きつけた。

「ようやく、やる気になったようだな!!」

 アレウシアは両腕で筆毛を引きちぎり、拘束から抜け出す。

 一体何が起きたのか、自分の意思ではなく勝手に長筆が展開されて、勝手に拘束した。そんな事はどうでも良かった。ただ一時的に危機を脱せたなら今はそれだけで良い。

 心の底から湧き出る根拠の無い自信。何が何だか理解はしていない。ただ、不思議と何でもできる気がする。

「生死を賭けた戦いに覚悟を決められないってホンーーットに情けないよ。でも、答えは決まった。……これが最後にする!!」

 筆毛が伸縮して元通りになった長筆を手に私は立ち上がり、構える。

「これで最期にしてやる、狐火木ノ葉!!」

 アレウシアは右拳を強く握り、ギリギリと擦れる音を鳴らし始める。右腕の甲殻が隆起して膨張すると、右腕は二倍ほどに巨大化した。

「重化葬!!」

「幻想色彩──」

 長筆に込めるは緑色のインク。素早く鋭く、風を切り裂いて!

 巨大な悪魔の右腕から繰り出される拳撃へ、収束した風の刃を放つ。しかし、振り払った長筆から出されたのは、鮮やかな翡翠のような色をした薄煙。幻想色彩・暴風(ウィンディ)を放ったはずだった、それは不発に終わる。次の瞬間、真横を巨大な腕が通過し、地面を削り取った。直撃を受けなかった疑問より先に、真横からの風圧で地面を転がる私。ふわりと草花の心地好い香りが漂った。

 すぐに体勢を直し、敵に向かい合う私。目の前には、明後日に攻撃を繰り出している悪魔の姿があった。はちゃめちゃに地面や空を殴り飛ばし、その度に轟音が唸る。

「え、何、何して……?」

「避けるのだけは一人前だな! いつまで耐えていられる?!」

 アレウシアは一人、私に向けて叫ぶ。そこに私はいない。

 その様が不気味で呆然としている私はふと、その姿に違和感を覚える。アレウシアの腹部の甲殻に反射する光がおかしい。良く観察すると分かった。腹部の甲殻に入った亀裂。それはエシが放った攻撃の証。一見、何の攻撃も効いていないように見えていたが、しっかりとダメージが響いていた。ならば、その部位は防御力が低下しているのではないのか?

「師匠、おはようございます。自分はもう少し寝ようかと思うんですが……」

 エシが採掘場の壁面に向かって一人で会話をしている。頭から流血、全身もズタズタで瀕死な中で、まるで緊張感のない日常会話。一体何が起きているのか、異質な不気味さが漂う。

 ただ、この状況、アレウシアには明らかな隙が生まれている。一人暴れ散らしているが、まるで標的を捉えないデタラメな動き。今が最大のチャンスだ。

 私は長筆を構え、インクを込める。アレウシアの位置と、その方角を確認。アレウシアの向こう側は採掘場跡地が続き、その先に移住区や人はいない。塗り漏れてしまっても、流れ弾が他者に害を及ぼす事はないだろう。全ては、採掘場の掘削跡が生み出す分厚い岩壁が受け止めてくれる。

 周辺から吹き込む風が筆先に集中していき、気流が生み出す耳鳴りのような摩擦音と共にインクは緑色の光を放ち始めた。準備が整う。

「第二景、幻想色彩・鎌鼬(サイクロン)!」

 私は構えた長筆を大きく薙ぎ払い、溜め込んだインクを前方へと放出する。それは空中で曲線を描くと風を取り巻き、鋭い刃物と化した。風の性質により、推進距離に比例して膨張。一言に、飛翔する斬撃である。緑の光とキンキンする高音を響かせながら飛翔する風の刃は、明後日を見るアレウシアの上と下を別つ。エシがヒビを入れた甲殻に、追加の衝撃が加わってアレウシアの防御限界を超えた。ズバッと切断された腹部からは血が流れ、半身が力なく地面に転がる。直後、膨張して巨大化した鎌鼬は岩壁に衝突し、破砕音を立てて石に切断痕を作った。

 アレウシアは全く何が起きたか理解できず、腹部の激痛に呻く。立ち上がろうとして、自分の下半身が転がっているのを確認し、ようやく切断された事を知った。そして顔を上げると、目の前に長筆を構えて立つ私。

「殺してやる、絶対に……仇を、先輩の、仇を……」

 弱々しく血を共に吐き出しながら、地面に手を伸ばして掴む。下半身を分離させられて尚、這ってでも仕留めようと地を進むも、ただただ地面に爪痕が付くだけだった。

 私はその頭上に長筆を構え、インクを込める。

「君の分も私は生きるから……じゃあね」

 そして長筆は振り下ろされる。




「立てるか、アレウシア?」

 随分と打ちのめされたアレウシアは、先輩の手を取って立ち上がる。手加減ありで何度目かの敗北。

「その強さの秘訣は何?」

「秘訣? 才能だな」

「……」

「はは、笑い所だぜ?」

 白けている、と言うよりはアレウシアは、その理由でも十分納得していた。

「冗談は抜きにして、俺は師匠に散々稽古を付けてもらったからな」

「先輩の……師匠?」

 それから先輩は、アレウシアに師匠についてを話し始める。

 昔、魔界で一・二を争う程、それはそれは強い悪魔がいた。彼女を前に、何者も身動き一つ取れずに死を迎える。どんな攻撃も受け止められ、霊器の一撃に葬られる。彼女の愛槌の様から『氷槌』と呼ばれて恐れられていた。

「思い出すだけで震えが止まらねぇ……」

 何を思い出したのか、青い顔で鳥肌を立てる先輩が新鮮だった。

「氷槌……先輩のそれがもしかして?」

 アレウシアは先輩が肩にかけている槌を見て訊ねる。

「こいつは槌だ。師匠の霊器はなくなっちまったのさ」

 引っかかる物言いに、アレウシアはモヤモヤとする。その顔を見た先輩が、ある話を始める。

「実は俺、師匠に聞かせてもらって知っているんだよ、真実を」

「真実?」

「あぁ、ここだけの話な……実は氷槌は──」




「そうか、これは……」

 赤い炎が燃え盛る長筆はアレウシアの頭を潰し、辺りに火花が散った。生命活動を終えた上半身は身動きを止める。

「……」

 なるべく痛まずに一撃で殺せるよう、高火力で一気に潰した。アレウシアはもう動かない。

 私は長筆を魔納具に収納する。

「師匠、朝から一体何をやってるんですか?」

 先から様子がおかしく、ずっと能天気なエシ。明らかにボロボロで流血してて無事では無いだろう。私は中身だけいつも通りなエシを引っ張り、病院に連れて行く事にした。何を話しても食い違う話。頭を強く打ったせいで、本格的に壊れてしまったのだろうか。

「…………」

 振り返り、少しずつ遠くなる採掘場の様を一瞥してから先を急ぐ。今ある生命を紡ぐ為に。




 水都市ラブカラク、津波到達から三十分が経過。ウィンディーネは、ラブカラクを中心に半径25キロをカバーする巨大な水の結界を沿岸に沿うように張り、本来は津波に飲まれている街を死守していた。

 バリアによって進路を絶たれた津波は左右へと広がる。それを考慮して、ウィンディーネはバリアの幅を50キロと、かなり余分に取っていた。それを可能とする為、独自に調合した魔法薬を盛っている。だが、その広大な範囲をただ一人の力で、それも三十分も持続して魔法を放ち続ける事は常軌を逸している。

 それ以前に、ウィンディーネは既にズタボロだ。服はあちこちが破れ、髪は彩度が下がってボサボサ、見ての通りにお粗末だが、精神面も同じく疲弊し、苦しげに顔をしかめていた。片目を閉じ、僅かにフラフラと左右に揺れている。今にも閉じそうな瞳は、薄膜越しの化け物を映していた。

 津波の中に、薄らと光る巨大な眼球。引く事を知らない津波を引き連れる、今災害の元凶。永久凍土に二千年封印されていた、全長100を越す長大な怪物、リルネである。その体表は銀白色で、頭部に紅色をしたパイプ状の長い鰭条がたてがみの様に数本並ぶ。まるで縦に平べったい蛇のように見える。ウィンディーネはこの怪物を三十分、抑え続けていた。

「お嬢ちゃん! まだ行けるか!?」

 背中から男の声が届く。朦朧としていた意識が戻って、聞き間違えを疑うウィンディーネは背後を見る。そこに、数十の人々の姿があった。

「あ、あなたたちは……?!」

「おじさんは情けねえよ。こんな子供が頑張っているのに、てんから逃げていたとはなあ」

「……こ、子供じゃ、じゃなくて、早く逃げてください! いつまで持つか分かりませんから!」

「だから来たんだ、嬢ちゃん!」

 皆、笑顔で男の言葉に相槌を打っている。彼らは避難勧告で扇央地区へ逃げ、次の送迎を待っていた者たちだ。津波到達に合わせ、突然張られたバリア、そしてそれが一人の人間によって張られていると知った人々が、力になろうと集まってきていたのだった。

 ある者はウィンディーネに魔法強化を、ある者はウィンディーネの魔力補助を、またある者は結界に合わせるように追加の防壁を。ラブカラクは観光地、様々な人間が行き交う。ダンジョン走者や業者関係の人々は、こういった戦闘に携わるような能力、魔法、波動を持っていてもおかしくはない。

「できることは限られている、こんな事しかしてやれない。嬢ちゃんの力に乗っかってすまねえが、頼むぞ、頑張れ!」

「皆さん……!」

 じわっとした瞳から気づくと涙が伝っていた。体の底から力が湧いてくる。

「頑張って!」「あんなんに負けんじゃねぇぞ!」「気ぃ張ってけ!」

 泣いてしまうウィンディーネを見て、人々が鼓舞する。

「助けに来たつもりだったんだけど、これなら僕はお役御免だったかな、へへへ」

「ティア?!」

 右足を引きずりながら、苦笑いでウィンディーネの所に現れるティア。

「無事で良かったよ、ウィンディーネ! 心配したよ、もう!」

「ティア、その足、怪我……?」

「ちょーっと失敗しちゃってね。そんなことより! あれ!」

 ビシッと怪物を指すティア。

「リルネだよね!?」

 心做しか、はしゃいでいるように見えるティア。

「たた、倒す? 倒せる、の? あれぇ?」

 急にぎこちなくなったティア。その質問を聞いて、改めて自分の考えを直さないといけない事に気づく。当初、ウィンディーネは時間稼ぎができたら良いと思っていた。その後の事なんて考えもしなかった。ただ、避難が終われば後はどうでも良い、そう考えていた。しかし、皆が力を貸してくれて、協力して津波を防いでいる今、これはただの時間稼ぎじゃなくなった。いつまでもバリアを張っていられる訳ではないし、避難が終わろうとも相手が引いてくれる訳ではない。目の前の元凶をどうするかが、今の課題となった訳だ。

「……考えてませんでした。どうしましょう……」

 そこに一人の住民が口を挟む。

「大丈夫、応援を呼んでる! 次の魔昇船で戦える奴らを連れてきてもらうと!」

 この人は、事態の原因が化け物にある事を言伝で知り、沿岸部に来る前に、隣街のウルル二に避難済みの仲間へと遠感魔法で応援要請をしたらしい。次のウルルニから戻ってくる船に乗ってくるとの事。

「それまでの辛抱だ、まだいけるか?!」

「はい、頑張ります!!」

 ウィンディーネは涙を拭い、決意を固める。




《射出》




「ッ?! ウィンディーネ!!」

「な──」

 ティアが突然、ウィンディーネに体当たりをかました! 何事か理解するより先に、バリアの奥から猛スピードで何かが突っ込んで、張っていたバリアを貫いた! それは水の塊、高出力で放たれた海水によるウォータージェットだった。レーザーのように細く鋭い水が、ウィンディーネがいた位置を穿つ。それは、ウィンディーネを庇ったティアの脇腹を捉え、抉り飛ばした。

「ティア──」

 スローに流れる景色に、ティアの顔と血飛沫。飛び込んできたティアを受け止めようとしたウィンディーネ。手を伸ばすより先に、視界が膨大な水に覆われた。

 水都市ラブカラク、推定津波到達時刻より三十分、結界陥落。

 どうも、星野夜です。全てのやる気を失い『そうか、これが戦意喪失か』と納得して敗北の味を一人噛み締めていました。噛めば噛むほど味が染みます。敗北の味ってアタリメだったんだな。


 さて、本日も一話お送り致しました。次も一話お送りします。

 何? そんな事、言わずとも分かる? はは、言ったじゃないか、やる気が亡くなったんだ。輪廻転生するまで、我が後書きは文字通りの後書きだ。転生するなら、来世はクソゲーじゃなくて神ゲーに転生を願います。強くてニューゲーム、転生したら俺強過ぎて草、ステータスカンストしてる件について。


 次の次話の予告はありません。予告をすると次の話の一部が分かるからね。睡魔で眠たくなってきた。思考の考えが回らなくなって意味不明な事を書き出し始めた所で、そろそろ幕引きを下ろす事にします。

 それでは以上、小説の執筆をする小説作家の星野夜でした。良い子はこんなクソみたいな文章を読まずにぐっすりおねんねしてね。

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