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ワシントン16

その後も、文治は、航空機の中で白井から聞いた内容について、次々とジョーンズに質問をしていった。

中には、ジョーンズもクリスも応えられない様な火薬の話や機械加工に関する話も出て、ジョーンズは文治の畳掛ける質問に舌を巻いた。

答えられない質問が出始めた頃、車はコルト社に到着した。


先頭を行く藤神達が乗った車から、ユージンが降りてきて、藤神と白井を降ろした。

後に続く文治の乗った車が停まり、ジョーンズが文治を降ろすと直ぐに、ジョーンズはユージンに一声掛けて建物の中に駆け込んでいった。


ユージンは呆気に取られて、暫し、立ち尽くした。

それでも、気を取り直して、日本人3人を案内して、建物に入っていった。


「済みません。ここで、暫く待ってください。」

ユージンは、3人を会議室に案内すると、部屋を出ていった。


「文治君。車の中で何か有ったのかね。君と一緒に乗っていた者が、慌てて建物に入っていった。」

藤神は、文治が原因だと、信じて疑わなかった。

「さあ、特に何もしていません。白井さんの様に彼の銃を取り上げた訳でもありませんし、それに類した事もしていません。

単に、お話を伺っていただけです。」


「文治君。君が話をするというのは、結構、強烈な影響が有るからな。

一体、どんな話をしていたのかね。」

白井は、自分がザビエルの銃を取り上げた事を引き合いに出されたので、皮肉として言った。


「はい。航空機の中で、白井さんがユージンさんに投げ掛けた質問について、関連する疑問を伺っただけです。

彼、ジョーンズさんは、コルト社の技術課長という事で、御存知の事が多いのではないかと期待したのです。」

「そうか。色々な事が訊けたかね。」

白井は、事細かく訊く文治の姿を思い浮かべながら、尋ねた。

「はい。結構、多方面に幅広い知識を持っていらっしゃったので、大半の質問について、御答頂く事ができました。」

「ほう。文治君の質問に対して、大半の内容を答えられるとは、凄い知識の持ち主だな。」

藤神は、文治の大半の質問に答えられたジョーンズを素直に高評価した。普通は、自分も含めて、半分も答えられない者が少なくないからである。


ユージンが戻ってきて、女性が飲み物を運んできた。

「藤神さん、申し訳無い。ジョーンズの奴が、研究室に入ったまま出てこない。

予定していた見学の案内の者を変更するので、もう暫く待って欲しいのです。」

ユージンは、困った顔をして、申し訳なさそうに言った。


女性が、飲み物を配り終え、一旦、扉を出たが、再び入ってきた。

白い布を敷いた2段の台車を押してきている。食事が乗っている。

大皿にトマトで和えた麺類やパンの皿を机の中央に置き、個々には、焼いた牛肉の皿が置かれた。


「技術部の責任者が、1時間程で帰ってきます。その者に案内をさせようと思います。

それ迄、食事でもしましょ。」

ユージンは、懐中時計を見ながら言った。


会議に5つの席が用意された。日本人3名とユージンの他に1つの席がある。

「では、食べましょうか。どうぞ。」

ユージンも席に着いて、注がれた飲み物を口にした。


藤神達が、肉にナイフを入れたところで、一人の男が入ってきた。

「やあ、遅れた。おう、食事を始めているな。よし、私も頂こう。」

男は、そう言って空いた席に着いて、飲み物を手に取った。


「あっ、皆さん。彼は、工場担当役員のエリックです。」

ユージンは、3人に男を紹介した。

「ああ、そうか。皆さん、宜しく。」

エリックは、飲み物を顔の高さに掲げ、挨拶をした。


「あの。ユージンさんの職位は何ですか。」

文治は、ユージンとは話をしていなかったので、気になっていた事を訊いた。

「ん、そうか。文治さんには挨拶をしていなかったね。

営業担当役員のユージンだ。ついでに、エリックに日本人の方々の紹介をしておこう。白井殿、藤神殿、文治殿だ。

今夜には、ワシントンへ戻らなくてはならんから、あまり、時間が無いのだよ。」

エリックは、紹介された順に、微笑して頷いて見せた。

「何、そうか。社長からも、丁寧に対応する様に言われているのに、残念だな。

今日の案内は、ジョンだったな。彼なら十分に対応できるだろう。」

「エリック。ところが、ジョンの奴、空港から帰ってきて直ぐに、研究室に籠ってしまったのだよ。

ボックスマガジンを拳銃に応用するとか言ってな。」

「そうかあ。一応、連絡を貰った内容については、説明出来る様に各箇所の準備はしておいたが、そんな状況では、ジョンに案内させる訳にはいかないな。

代わりの者に案内をさせねばなるまい。」

二人は、そう言いながらも、牛肉を口に運んでいる。


「白井殿、済まんな。個々の内容は、各々の部署の責任者に説明させるが、全体を通して案内できる者としてジョンが適任だと予定しておったのだよ。

だが、ジョンは、研究に没頭すると、誰も相手にしなくなるのだよ。今朝は、普通だったのにな。」

「エリック。戻りの航空機の中でも、ジョンは変わった様子は無かったんだ。多分、帰りの車の中で、何か思いついたのだろう。

・・・そう言えば、文治さんと一緒でしたよね。何か変わった事は有りませんでしたか。」

ユージンは、そう言いながら文治を見た。

「さあ。私は普段のジョーンズさんを知りませんので、変わった事が有ったかどうかは分かりません。」

文治は、付け合わせの林檎を食べていたので、左の頬を膨らませながら言った。


藤神と白井は、顔を見合わせて、含み笑いをした。

それを見ていたエリックは藤神に尋ねた。

「藤神殿は、何か思い当たる事が有るのかね。」


藤神は、水を一口飲んでから答えた。

「いや、な。誰もが文治君と暫く一緒に居ると、忘れていた事を思い出したり、悩んでいた事に対する解決案が思いついたりするのだよ。

ジョーンズ殿も同じ様な事が起きたのかも知れないと思ったのだ。白井も同じ意見なのだから、顔を見合わせて笑ったという訳だ。」

エリックも、ユージンも何の事なのか分からなかった。


「先程、ボックスマガジンと言われましたが、車の中で、その話題が出ていました。

他の会社から、特許を手に入れたとかいうことでした。

長銃に使うものという事で、ジョーンズさんは、拳銃には無関係という言われ方をしました。

私は、拳銃に使えない理由を尋ねましたら、色々銃器の構造について説明を頂きました。残念ながら、私には理解できませんでしたが。

そこで、クリスさんが、ジョーズさんの説明に、何点かの指摘をされて、ジョーンズさんは黙ってしまわれました。

その後は、別の話をしました。ボックスマガジンについては、そこ迄でした。」

文治は、車の中で話をした内容を紹介した。


「クリスか。そう言えば、クリスが案内に適任じゃないか。」

エリックは、文治の話の内容には、興味を示さなかったが、クリスという名前が出てきて、案内者を決めた様であった。

「よし、クリスを呼ぼう。」

エリックは、部屋を出ていった。


「文治さんと接すると、そんな事が起きるのですか。不思議ですね。」

ユージンは、繁々と文治を見た。

「いえ。私は、そんなつもりはありません。藤神さんや白井さんの買い被りです。」

文治は、ユージンに手を振って否定した。


「文治君。君が誰彼と無く話をするが、その事が相手に気付きを与えておるのだよ。」

藤神は、文治が謙遜で否定しているのでは無い事を知っているので、今更ながら文治に自覚させる発言となった。

「そうですか。お喋りが過ぎますかね。」

文治には、藤神の発言が、お喋りを控えるべきと聞こえた。

「いや。文治君は、そのままで良い。誰も君から迷惑を受けてはおらん。むしろ、君の言葉が、人々を動かしておる。

字恐らく、ジョーンズ氏も、君との会話で、悩みを解決する糸口を見つけたのだろう。」


エリックが、クリスを連れて戻ってきた。

「やあ、文治さん。何故か、今日の案内役を任される事になってしまいました。

車の中で、殆どの内容を話しましたので、現地を見てもらうだけになると思います。」

クリスは、文治を見つけて、そう言った。


「何だ、クリス。今日は、だんまりのクリスじゃ無いのか。珍しいな。」

ユージンは、クリスが自分から喋り始めたので、驚いていた。

「えっ、俺って、そんなに無口ですか。」

クリスが、ユージンの言葉に応えた事を見て、エリックも目を丸くした。

「おい。今日は、ジョンといい、クリスといい、どうなってるんだ。」

エリックは、思わず驚きを口にした。


日本人3人はには、エリックとユージンが驚いている意味が分からなかった。

クリスは、普段は無口なのだろうという想像はできた。


エリックは、ユージンから受けた連絡を書き留めた一覧を取り出し、クリスに渡し、案内順を指示した。

クリスは、エリックの指示に頷いた。そして、言った。

「エリック。順路は分かったが、何箇所か追加をしたい。文治さんに説明した内容で、漏れている箇所が有る。良いだろうか。」

「何を見せるつもりだ。」

エリックは、自分が決めた案内不足が有ると言われて不満顔で言った。


「ここの後に検査、この後に信頼性評価を案内したい。この後の検査についても、案内をしたい。追加する箇所の案内は私がするという事でどうだろう。」

エリックは、そう言うクリスの顔を見回し、本気で言っている事を確認した。

「良いだろう。検査など、見ても面白くないと思うが、特に支障が出る訳でも無い。好きにしたまえ。」

エリックは、自分の計画を否定された訳でも無いので、承諾をした。


ユージン、エリックは、午後に予定が入っているという事で、クリスに任せて、部屋を出ていった。


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