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ワシントン17

クリスの案内で、工場の見学が始まった。

白井は、銃器に詳しく、文治は、車の中でジョーンズやクリスから色々な情報を得たので、工場に入った途端、質問が飛び出した。

文治は、薄板に洗濯ばさみを使って画板にし、その内容を記録していった。

銃身を削る工程では、落ちている削り屑を拾って、持ち帰る許可を申し出た。


藤神は、銃に関する知識が、二人に対して少なかったので、工場の中を、手持ち無沙汰に、何をするでも無く見て回るだけだった。


「文治君。あそこで、山に積んである、弾を入れる部分の部品だが、何だか不安定だな。時折、床に落としてしまっている。

どう思うかね。」

藤神は、文治に問い掛けた。

「そうですね。その他にも、撃鉄部の部品が、箱の中に大量に入っていたり、発条が絡まっていたり、油の塗り方が多かったり少なかったり、どこの部分が大切に扱うべきなのか、組み付ける人は、分っていないのではないかと思われます。

あの机に座っている人が最後の動きの確認をされている様ですが、足元の箱には問題の有るものを入れている様ですが、かなり溜まっていますね。」

白井が、クリスと組み立ての責任者から説明を受けている間に、藤神と文治は、組立作業での疑問を話し合った。


文治は、クリスの方に歩いて行った。

「文治さん。組付けは、言った通り、難しくは無い。部品の精度が出来上がりを左右するのだよ。」

クリスは、近寄ってきた文治に感想を求めた。


「クリスさん。銃の組付け工程は良く分かりました。

そこで、幾つか質問があります。良いでしょうか。」

そう言って、文治は、藤神と話していた質問を述べた。


その質問に、クリスは、一つとして答える事ができなかった。

クリスは、工程の責任者を呼び寄せた。

「マーチン。ちょっと来てくれ。」

責任者のマーチンに、クリスは文治の質問をぶつけた。


マーチンは、面倒臭そうな顔をして、言い訳の様な回答をする。

そうしているうちに、作業台から、回転式弾倉が何個か床に落ちて、転がってきた。

慌てた作業者が、拾う為に立ち上がった際に、組立中の銃も床に落ち、その部品も散乱した。

散乱する時に、組み込まれていた発条が飛んで、マーチンの尻に当たった。

「痛っ。」

マーチンは、尻を押さえて飛び上がった。


作業者は、マーチンが激怒すると思って、口に手を当てて立ち止まった。

マーチンは、客が目の前に居るので、怒る事もできずに、作業者を睨め付けた。

周りの作業者は、手を止めて見守っている。


文治は、床に転がった弾倉を2つ、3つと拾い上げ、作業者の所へ持って行って、手渡した。

立ち尽くしていた作業者は、文治に礼を言って、受け取った弾倉を作業台に置き、床に散らばった部品を拾い集め始めた。


マーチンは、尻を擦りながら、クリスや藤神に、愛想笑いをして詫びを言った。

「マーチンさん。今の様な事は、珍しくは無いのではないですか。」

作業台から戻ってきた文治が、マーチンに話し掛けた。

「そんな事は無い。組み立て中の銃を、床に落とすなんて事は、月に1回有るか無いかだよ。」

マーチンは全力で否定した。


「いえ、そうでは無くて、弾倉や発条を床に落としてしまう事です。」

「あゝ、そんな事か。それなら、よく有る事だな。」

マーチンは、当たり前の事だと、答えた。


「おい、マーチン。彼が、落とした銃を、そのまま組み付けているぞ。」

クリスが、マーチンの肩を引いて言った。

マーチンは、そう言われて、作業者の所へ行って、少し話をして、戻ってきた。

「大丈夫。部品の組付け忘れは無い。」

マーチンは、クリスに報告した。


「そうじゃない。床に落ちた部品に汚れが付いている可能性が有るのだから、掃除をしてから組み付けるべきだと言っているのだ。」

「汚れ程度は、大丈夫だろう。それに、組み付けた後で、動きを確認しているから、不良品になったら判る。」

マーチンが、そう答えている間に、先程の作業者は、組み上げ、確認をして、足元に置かれた箱に放り込んだ。

そして、何事も無かったかの様に、次の組付けに取り掛かった。


「ほら、結局不良になった。」

クリスは、作業の様子を見て、マーチンに言った。

マーチンは、舌打ちをして、作業者の所へ行って、話をした。

そして、足元に放り込まれた不良品を取り出し、数回、操作をして、自分でも確認をした。

作業者に作業を続ける様に支持をして、不良品の銃を持って、クリスの所に戻ってきた。


「クリス。これが不良の銃だ。6回転のうち1か所のダブルアクションに引っ掛かりが有るだけだ。

この不良は、珍しくない。弾倉の芯棒にバリが出ている。手直し班に渡せば、直ぐに出荷できる。

床に落とした汚れなど、そんなに気にする事は無い。」

マーチンは、自信満々にクリスに言った。


クリスは、首を横に振った。

「そうじゃ無い。床に落ちた程度で故障する事は無い事は分かっている。

だが、その汚れが、長い仕様によって、動作不良に繋がる。だから、組付け工程では、細心の配慮をすべきだと、言っているのだ。」

クリスの話には、一貫性は無いが、床に落とした部品を、そのまま使う事を嫌っている意図は分かる。


クリスが、そう言った矢先、作業者は次の一丁を組み終え、そして、再び足元の箱へ放り込んだ。

放り込んだ時の音に、クリスもマーチンも作業者の方を見た。

マーチンは、再び、舌打ちをして、作業者の所へ行った。


マーチンは、不良の内容を聞いて、不良の銃を操作し頷いた。

作業者に作業を続ける指示をして、戻って来た。

「こいつは、回転に引っ掛かりがある。多分、芯棒が歪んでいる。・・・」

そこ迄言って、マーチンは黙った。

撃鉄を起こして、弾倉を回しながら、口を開いた。

「恐らく、床に落とした時に曲がったのだろう。」

マーチンは、上目遣いで、クリスと文治を見た。


「転がる物を・・・安定に・・・置くのは、・・難しい。」

と、途切れ途切れに言う。

マーチンは、クリスが指摘した通り、いや、それ以上に床に落とす事の問題を自覚した。


マーチンは、弾倉を回して、考え込んでいる。

そんなマーチンを見て、文治は、一つの提案をした。

「マーチンさん。厨房では、転がってしまう卵を、転がらない様にするために、卵立てを使います。弾倉とは形状が違いますので、そのままの活用はできないと思いますが、考え方は同じです。

木に穴を空け、座りが良い寸法にしておけば、簡単には転がりません。

具体的な形状は、私にはわかりませんが、そうした事を参考にされたら、如何でしょうか。」

「うーん。」

文治の発言に、マーチンは唸っただけだった。


「マーチン。検査には、油粘土が有る。試してみるか。」

クリスは、助け船のつもりで声を掛けた。

「クリス。駄目だ。粘土が付いたら余計に不良になってしまう。文治さんの提案の様に、木で作るべきだ。

だが、どうすれば良いのか案が出ない。」

マーチンは、必死になって考えている事がうかがえる。


「マーチンさん。どうしました。」

通りがかった、つなぎ服の男が声を掛けた。

「何だ、マヒか。何でもない。

昨日の不良品の数は何台だった。」

「えーっと、53丁ですね。いつもと同じ位です。」

「そうか。5%程だな。少しも良くならん。やはり、弾倉の落下対策をしなくては、ならんな。」

「何ですか、落下対策とは。」

「弾倉が不安定に置かれているので、組み付けの途中で作業台から落ちるので、卵立ての様な物で、安定させる台を作るというものだ。・・・マヒ、お前には関係無い。早々と不良品回収をしろ。」

そう言って、マーチンは、顔を不良品の銃に落とした。


「旦那、その卵立てを作る作業を、やらせてください。それで、不良の手直しが減るのなら、俺の仕事です。」

マーチンは、顔を上げ、その男を見た。

そして、ため息をついて、頷いた。

「分かった。お前にも作らせてやる。」

その様子を、文治は微笑して見ていた。


再び、ゴトリと不良品箱に銃が入れられる音がした。


「旦那。卵立てというのは、どんな事を考えているのですか。」

マーチンは、首を横に振って答えた。

「儂には、具体的な案が思い浮かばない。ここに居る文治さんが提案してくれた言葉を、そのまま言っただけだ。」

マーチンは、来客の東洋人を指差した。


3人の東洋人が、来客のカードを胸に着けている。

「あの。文治さんは、どなたですか。」

男は、来客の東洋人に向かって尋ねた。

藤神と白井が、文治を見たので、直ぐに分かった。来客の中で、最も若く、少年と言っても良い者である。


微笑をして、様子を見ていた文治は、握手を求めながら言った。

「初めまして、文治です。」

「あ。初めまして、マヒンドラです。」

求められた握手に応えて自己紹介をした。


「マヒンドラさん。私にも具体的な案は無いのです。

単に、不安定なものを座らせれば良いということで、卵立てが、その目的で作られていますので、事例として申し上げただけなのです。

あの様に、箱に山盛りでは、取り出す時に転がってしまいます。立てるにも、芯棒が組み付いてしまっていますので、難しいですし。」

「うん、そうだね。芯棒は、あそこの機械でしか加工できないので、毎回、あそこまで行く訳にもいかないし。」

「卵立ての応用としては、木版に穴を空けて並べて置くだけでも、多少の安定はしますよね。」

「・・・そう言う事か。成程、分かった。マーチンさん。直ぐに手配します。」

マヒンドラは、そう言って、大急ぎで各作業台から不良品を回収して、小走りで去っていった。


「マヒが、あんなに活発に動くのを初めて見た。いつもは、蝸牛の様に鈍いのに。」

マーチンは、独り言を呟いた。


「マーチン。発条の絡まりや注油の量についても考える必要が有るな。」

クリスは、マーチンの肩を叩いて言った。

マーチンは、肩をそびやかすだけだった。


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