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ロバート教授の幻獣生態調査記録  作者: ロバート・クロフト
第十八章 一九六五年 山地採石・炭焼き地帯における資材移動および坑道再開放事例の確認
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第二節

**一九六五年四月十七日 グラウ石切谷上手、封鎖坑道口から沢筋へ**


夜に火のそばを動く低い影を一度見てしまうと、翌朝には、谷の中の離れた痕が急に近く見えてくる。

封鎖した坑道口の石組み、炭焼き窯跡の選り分けられた炭、沢筋へ寄せられた丸い礫。

前日まで、それぞれは別の問題として並んでいた。

だが、火のそばで炭を拾い、石の前で手元を使う影を見たあとでは、それらが同じ夜の仕事の別々の端に見え始める。

そう見え始めると、今度はかえって危ない。

人は、つながったと思った線の上へ、まだ見ていない部分まで乗せたくなる。

私はその誘惑を知っていたので、この日はあえて、見えた火の場所から順番に、近いところだけを追うことにした。


朝の最初に、前夜火の立った炭焼き窯跡へ入った。

灰はまだ薄く温かみを残し、炭の細片がいくつか新しく割れている。

大きな火ではない。

ほんの短く、火種を確かめるか、炭の質を見た程度の使い方だった。

窯の脇に、前日に置いた折れた楔はなくなっていた。

炭の小塊も二つ減っている。

露骨な持ち去りではない。

置いた量の全部ではなく、使えそうなものだけが抜かれていた。

私はそれを見て、前日のハルドの言葉を思い出した。

「試されるのを嫌う」

たしかに、こちらが置いたもの全部をさらうような子どもじみた応じ方はしていない。

選んでいる。

その選び方のほうが、かえって相手の手つきらしかった。


坑道口では、石組みの前の土に、新しい細かな擦れが増えていた。

足跡としてはまだ掴みにくい。

だが、軽い石が脇へ寄せられ、太い木片だけがさらに奥へ引かれている。

昨夜、火のそばの影の一つが、別の影の置いたものを横へ避けるように見えたが、その動きとよく似ていた。

私はここでようやく、谷の上の者たちが、ただ人間の廃坑を荒らしているのでなく、坑道口を自分たちなりに“直して”いるのではないかと考えた。

人間にとっては再開放であり、危険の増加である。

だが相手の側では、石と木を使って通れる形へ戻しているだけかもしれない。


沢筋へ下ると、赤い鉄気の水の脇に、前日よりはっきりした痕が出ていた。

丸い礫の寄せられた場所の近くに、小さな足跡が三つほど、湿った砂の上へきちんと残っている。

人間の靴ではない。

裸足にも見えるが、足指は人間ほど長くなく、全体に幅がある。

踵は浅く、前へ重心が抜ける。

谷のゴブリンの足跡にも少し似ていたが、もっと短く詰まり、重心が低い。

その足跡が、沢の石を踏まず、あえて砂の溜まる縁だけを使っているのも気になった。

濡れた石より、滑らぬ砂のほうを知っている足の運びだった。


私は沢筋の少し上で、思わぬものを見つけた。

石と石のあいだに、細い鉄片が一本、半ば差し込まれていたのである。

捨てられた釘か、鍛冶場で折れた細い鑿の欠片か、その程度のものだが、自然にここへ落ちる位置ではない。

しかもそのすぐ脇の石の表面が、黒く擦れている。

金属を研いだ跡、とまでは言い切れない。

だが、ただ拾っただけの鉄片を、ここへ仮置きしていたようには見えた。

炭、礫、古材、鉄片。

この谷の上の共同体は、人間の仕事場を盗むのでなく、人間の仕事場から漏れたものを選り直して、自分たちの素材線へ組み込み直しているのかもしれなかった。


昼、私はハルドの鍛冶場へ戻り、拾った鉄片を見せた。

彼は一目で、

「これは鍛冶場の正規の品じゃない」

と言った。

「徒弟が折ったものです。投げ捨てるような端鉄だ」

「それでも使えますか」

「こちらでは使わん。だが細工の当て物か、火床の脇に挟むなら使えなくもない」

その答えは、私が欲しかったものに近かった。

人間の側で価値の薄いものが、谷の上の側では十分使われる。

それなら“盗難”の多くが、実際には価値判断の違いにすぎないということにもなる。


午後、私は一つだけ早合点をした。

鍛冶場の裏の小さな石積み棚に、子どもの手ほどの打ち跡を見つけ、それを相手側の鍛造痕と考えかけたのである。

ところがハルドに見せると、彼はすぐ、

「それはうちの見習いが三年前に遊んだ跡だ」

と言った。

山地では、人工的な痕があるからといって、すぐ相手側のものとは限らない。

むしろ人間の放棄地と再利用地が重なっているぶん、その区別はいっそう面倒になる。

私はそのことを、その日のうちに痛いほど覚えた。

技術痕が見える対象では、こちらの解釈のほうが先に走りやすい。


夕方、私は前夜より少し上の岩場へ入った。

そこからなら、窯跡と坑道口と沢筋の一部が、一度に見下ろせる。

全部を見るには遠すぎるが、少なくとも夜の動きが一つの連なりを持つかどうかは分かるだろうと思った。

春先の山は、日が落ちると急に冷える。

谷口では鍛冶場の火がまだ赤く見えたが、上手はもう風と石の色しか残っていない。

私は灯りを極力使わず、最後の明るさが残るうちに位置を覚え込んだ。


最初に動いたのは沢筋だった。

赤い鉄気の水の脇で、低い影が二つ、丸い礫の寄せられた場所へ寄る。

ついで、窯跡の脇に小さな火が立つ。

火はすぐには強くならず、むしろ沢筋のほうの影が遅れてその光へ寄っていく。

つまり、窯跡が出発点なのではなく、沢筋と窯跡が一晩のうちに繋がっているのだ。

そこが見えただけで、この日の観測にはかなり意味があった。


やがて火のそばへ、前夜より少しはっきりした姿が出た。

低身で、肩幅があり、胴は短い。

ただ、物語にあるような大きな髭も、極端にずんぐりした脚も、この距離では見えない。

目立つのは、腰を落として手元だけを使う姿勢と、火の位置に対して無駄に身体を晒さぬ動きだった。

一体が炭を拾い、もう一体が窯の縁で何かを砕く。

さらに少し離れたところで、別の影が坑道口の石の前にしゃがんでいる。

この配置は偶然には見えない。

私はそこで初めて、谷の上の共同体を「火の周りにいる者たち」としてではなく、**複数の作業点を持つ小規模な夜の作業単位**として見た。


ここで、私は少し危ういことも考えた。

同じドワーフ系なら、火と鉄の扱いに対して、何か共通の所作があるのではないか、と。

街の鍛冶場で見たハルドの手元と、窯跡のそばの影の動きとを、つい重ねたくなったのである。

だが、すぐにそれをやめた。

共通しているのは、火と素材を無駄にしない手つきだけで、そこから先を同じ文化の証拠とするには、まだ何も足りない。

若い私は、その程度のところでどうにか踏みとどまったらしい。


夜の終わり近く、窯跡の火が消える前に、一つだけ小さな音が谷へ響いた。

金属の澄んだ打音ではない。

もっと鈍く、短く、石へ鉄を軽く当てたような音である。

鍛造というより確認の音に近かった。

それに応じるように、沢筋のほうの影が一つ引き、坑道口の前の影も立った。

谷の上の作業には、少なくとも終わりを知らせる合図のようなものがあるのかもしれない。

もちろん、ただ偶然そう重なっただけとも言える。

だが、夜の中で三つの場所が連動して見えると、人はどうしても順序を考え始める。


その夜の記録には、こう残した。


**窯跡・坑道口・沢筋の素材線は、同一夜の活動として連続している可能性が高い。

沢筋での礫利用、窯跡での炭選別、坑道口での石組み操作が、少なくとも複数の低身亜人候補のあいだで分担されていた。

人間側で価値の低い端鉄・小炭・古材が、谷上手の共同体では有用素材として再利用されているらしい。

ただし、街のドワーフ系との文化的一致を現段階で想定すべきではない。

次は、発つ前に人間側の“盗まれた物”と相手側の“必要な物”の対応を整理して、この遠征を閉じたい。**


谷の上の者たちは、少なくとも山の放棄地を人間より丁寧に使っていた。


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