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ロバート教授の幻獣生態調査記録  作者: ロバート・クロフト
第十八章 一九六五年 山地採石・炭焼き地帯における資材移動および坑道再開放事例の確認
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第一節

**一九六五年四月十六日 北部山地、グラウ石切谷入口**


山の小人という呼び名は、平地の人間がつけたにおいを強く残している。

小さい、地の下にいる、火や金属を扱う、夜に石のあいだから出る。

そういう印象をまとめるには都合がよい。

だが現地へ行くと、その呼び名の便利さがそのまま観察の邪魔になることもある。

人は一つの名を覚えると、その中へ見たものを急いで押し込めたがる。

同じ系統のドワーフが街の鍛冶屋や案内人として人間社会にいるのならなおさらで、山地の共同体もその延長だと思いやすい。

今回の遠征で私が最初に気をつけたのは、まさにその点だった。


グラウ石切谷は、古い採石場と小さな鉄鉱脈の試掘跡、それに炭焼き窯の残骸が点々と残る山間の谷だった。

今も人が全く使っていないわけではない。

谷口には二つほど鍛冶場があり、春から夏にかけては木炭の焼き手も入る。

だが谷の上手へ行くほど、放棄された坑道と崩れた石積みが増え、人間の仕事と山の仕事との境が曖昧になる。

こういう土地では、夜のうちに道端の鉄具が消えたり、封じたはずの坑道口が朝には組み替わっていたりすると、すぐ「山の小人」の話になる。

実際、この谷でもそうだった。


大学からの書類名は、

**「山地採石・炭焼き地帯における資材移動および坑道再開放事例の確認」**

となっていた。

露骨に言えば、道具と資材が勝手に動くので見てこい、という話である。

地元の鍛冶師は、炭が減る、鉄片が消える、支保工の木が抜かれる、と不満を並べ、谷口の役人は事故防止のため塞いだ坑道口がまた開いていることを問題にしていた。

一方で、同じ話の中に「夜に炉の火が谷の上で二つ見える」「朝になると石積みの並びが少し変わる」といった伝承めいた部分も混じる。

私は最初から、それらが全部同じ原因だとは考えていなかった。

ただ、少なくとも何かが山の放棄地を反復して使っている可能性は高いと思われた。


谷口の鍛冶場で、私は最初に人間社会へ入っているドワーフの職人と会った。

名をハルドという。

背は低いが、町場で見かける同系の者と特に変わらず、言葉も人間の職人と同じように交わす。

彼は私の紹介状を読んで、少し苦い顔をした。

「先生方は、山の向こうにいる連中を、すぐこっちと同じ話にしたがる」

「同じ系統ではあるのでしょう」

「系統はそうだ。だが、谷の上の連中は、こちらの帳面や売り買いの都合では動かん」

私はその返しを、そのまま手帳へ書き留めた。

これ以上よい前置きはないと思ったからである。


ハルドは、谷の上手の者たちと直接の付き合いはないと言った。

ただ、炭の減る時期と、上で炉火が見える時期が重なること、壊れた楔や鉄片が翌朝にはなくなること、封じた坑道口の石組みが、人間の崩れ方ではなく「外して積み直した」ように見えることだけははっきりしているという。

それは重要だった。

人間社会にいるドワーフ系が、山地共同体の行動をすぐ説明できるわけではない。

同じ系統であっても、生活圏が違えば、相手のやり方もまた別に読まねばならない。


昼前、谷口の役人と鍛冶師の徒弟を案内にして、最初の採石跡を見た。

崖の下に石を割った棚があり、その脇に古い炭焼き窯が半分崩れて残っている。

問題はその少し上、数年前に封じたとされる試掘坑の入口だった。

表から見ると確かに石と土で塞がれている。

だが、近づくと石の並びが妙である。

崩れたのではない。

大きい石は脇へ避けられ、軽いものだけが前へ押し出されている。

さらに、脇の支保工に使った古材が二本なくなり、代わりに、谷の別の場所で取れそうな硬い木が一本差し込まれていた。

偶然や風雨ではこうならない。

少なくとも、重いものを少しずつずらし、役に立つ材だけを選んで持ち出す手がある。


坑道口の前の土には、はっきりした足跡はなかった。

山の斜面は乾いているようで、実際には石が多く、痕を残しにくい。

そのかわり、細かな石粉の乱れと、腰より低い位置の擦れがあった。

壁際の白い粉に、薄く灰色の膜のようなこすれが走っている。

人間の肩の高さではない。

山羊の体の高さにしては低く、犬の背で届くには少し高い。

私はそこで、坑道口を出入りするものが、四足でも二足でもなく、低い重心のまま壁際を使っている可能性を考えた。

もっとも、まだその時点では、それをドワーフ系と決めてはいなかった。


炭焼き窯の跡では、もっと分かりやすい痕が出た。

窯の脇に置いた炭の欠片が選り分けられているのである。

大きい塊はそのまま、小さく締まったものだけがなくなっている。

しかも、その近くには細い金属片を拾った跡もあった。

鍛冶師の徒弟はそれを見て、

「泥棒ならもっとごっそり持っていきます」

と言った。

私は同意した。

人間の盗人は量を取る。

ここで起きているのは、量ではなく選別だった。

山の上の者たちが本当に炭や鉄片を使うなら、この選び方のほうがずっと現実的である。


谷を少し上がると、沢に赤い鉄気が出る小さな流れがあった。

その脇の石の下に、丸く削ったような礫がいくつか寄せてある。

自然にそうなったとも言えるが、同じ大きさの石が片側へ集まりすぎている。

私はそこで、谷の上の共同体が坑道や石積みだけでなく、沢筋からも素材を拾っているのではないかと考えた。

炭、鉄片、硬木、丸い礫。

どれもそれ自体は些細だが、まとめると「ただの盗み」よりはずっと生活の匂いが強い。


午後、ハルドに頼んで、谷口の鍛冶場の裏で、わざと折れた楔と炭の小塊を少しだけ置いてもらった。

露骨な罠にはしたくない。

ただ、人間側が“使える端材”として捨てたものを、相手がどう扱うかを見たかったのである。

ハルドは渋い顔をしながらも、

「量は少なくしろ。山の上の連中は、試されるのを嫌う」

と言った。

私はその言葉を、半分忠告として、半分は山地にいる同系統の者への感覚として受け取った。

こちらが相手を観察しているつもりでも、相手から見ればこちらの手つきのほうがよほど見えやすいのかもしれない。


夕方、私は谷口から一つ目の採石棚を見下ろせる低い岩場へ入った。

夜の炉火が見えるというなら、まずは火そのものより、どこへ小さな灯りが出るかを押さえるべきだと思ったからである。

この谷では、ゴブリンのように草をかき分ける低い影とも、峠のように灯りを返す小型種とも、また違う観察になる。

技術痕はある。

だが本体がどの程度まで見えるかは分からない。

見える痕跡が多い対象ほど、かえって実体を早く分かった気になりやすい。

私はその点を自分で少し警戒していた。


日が落ちきる少し前、採石棚の脇の窯跡で、低い火が一度だけ赤く立った。

大きい火ではない。

峠の返灯獣のような錯視でも、交易路の大型草食のような大きな影でもない。

もっと静かで、意図のある火だった。

私はそこへ目を凝らした。

すると火のそばを、低く短い影が横切る。

一つではない。

二つ、三つ。

背は人間の子どもほどか、それよりやや低い。

ただ、動きは子どもに似ない。

腰を落とし、肩を前へ入れ、必要な分だけ早く動き、止まる時は急に止まる。

私はその時点で、山の小人という呼び名が、少なくとも単なる平地人の想像だけではないことを認めざるを得なかった。


もっとも、彼らは物語のドワーフのようには見えない。

髭も顔も、この距離では分からない。

目立つのは、肩の厚みと、低い重心と、火の周りで手元だけを短く使う動きだった。

一つの影が炭の小塊を拾い、別の影が脇の石へそれを置く。

さらにもう一つが、坑道口の石の前で何かを確かめている。

その順序は、無駄なうろつきではない。

だが、それを見た瞬間に「交渉可能な亜人共同体」と書くのは早すぎる、と私はかろうじて思いとどまった。

技術が見えることと、こちらが相手を理解したこととは別である。


夜の記録には、こう残した。


**グラウ石切谷にて、炭焼き窯跡および封鎖坑道口周辺を反復利用する低身・低重心の亜人候補を短時間視認。

炭、鉄片、古材、礫の選別利用があり、人間側の“盗難”報告の少なくとも一部は、山地共同体による資材再利用として読むべきである。

ただし、技術痕が明瞭であることをもって、直ちに人間社会との交渉可能性を前提とすべきではない。

次は、坑道口・窯跡・沢筋の素材線が、同一の夜の動きとしてどう繋がるかを押さえたい。**


谷の上の者たちは、少なくとも火の周りにいた。

そのことだけで、この遠征は少し面倒になり、同時に面白くもなった。


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