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ロバート教授の幻獣生態調査記録  作者: ロバート・クロフト
第十四章 一九六二年 北西山地における夜間視覚誤認および旅人の進路逸脱事例の調査
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第二節

**一九六二年十一月二十日 エール峠鞍部、石標と崩れた石垣のあいだ**


昨夜、石垣の縁で灯りが一つ増えたあと、私は宿へ戻ってから膝の泥を落とし、そのまま図を描き直した。

若者の持つ灯りの位置、余分に見えた冷たい光の位置、石垣、石標、道の外れた草地。

あの時は一瞬のことで、ただ道を外しかけたという事実だけが強く残ったが、紙へ置いてみると、光の出た位置はかなり限られていた。

峠全体で灯りが増えるのではない。

石標の少し手前、崩れた石垣の縁に沿ったわずかな帯だけで起こるらしい。

そうであれば、今夜見るべきものは現象そのものより、その帯の地面だった。


朝のうちに、私は鞍部までのぼり、石垣沿いの草を一本ずつ見るような気持ちで歩いた。

昨夜の冷えで草先には霜が残り、石の表面は乾いているように見えて、指で触るとまだ鈍い湿りを持っていた。

余分な灯りが出た位置の草には、やはり銀白色の細かな鱗片が薄くついている。

雪でも石灰でもない。

爪で軽く擦ると剥がれ、指の腹へ乗ると、すぐ色が鈍る。

その鱗片は、石垣の下の草だけでなく、低い石標の陰にも少し残っていた。

つまり対象は、石垣にぴたりと沿うだけでなく、灯りを返しやすい立ち物の周りも使っているらしかった。


石標の根元で、私は小さな糞を三つ見つけた。

前日に拾ったものと似ているが、今度は少し湿っていて、表面に銀白色の粉がより多く混じっている。

そのすぐ脇に、細い草の寝た線が道の外へ向いていた。

人が踏んだならもっと幅が広くなる。

鼠や鼬なら低すぎる。

草先が地面から少し上で撫でられているような倒れ方で、昨夜見た“低い影”の高さとよく合った。

私はそこを図へ移し、石垣の帯、石標の根元、糞の位置を一枚へまとめた。

峠で起きることは、どうやら道そのものより、道の脇にある細い縁の上で起きている。


昼過ぎ、宿へ戻る途中で、昨夜手伝ってくれた若者に会った。

彼は私が道を外しかけたことを、いくらか面白がっていた。

もっとも、笑い話にされても仕方のない動きである。

私はそれを受け流しながら、彼に昨夜の灯りの見え方を詳しく訊いた。

「別に見えましたか、それとも前の灯りがずれたようでしたか」

若者は少し考えてから、

「別です。でも、近づくと同じものになった気がします」

と言った。

宿の主や馬方と同じ答えだった。

消えるのではなく、同じものになる。

それはやはり、光の返りが旅人の灯りの位置へ収束して見えるからだろうと私は考えた。


夕方になる前に、私はもう一度鞍部の地形を見直した。

石垣は完全な壁ではない。

胸ほどの高さだったものが崩れ、今はところどころ腰の位置まで落ちている。

そのため、旅人の灯りが下から当たると、石の縁は強くは光らず、むしろ縁のすぐ脇にいる濡れたものだけが冷たく返る。

石標も同じで、白い面そのものより、陰の脇へ寄った湿りのほうが目につく。

つまり峠で増える灯りは、物が自ら光っているのではなく、人間の灯りを利用して、最も人間らしい位置へ別の小さな光を作っているのだろう。

それが偶然の屈折だけで繰り返し同じ場所に出るとは思えなかった。


今夜は若者ではなく、宿の古い馬方に頼んで先に歩いてもらった。

彼の灯りは低く安定しており、歩き方にも迷いが少ない。

錯視を見るには、むしろそのほうが都合がよい。

私は昨夜より距離を取って追い、決して灯りのほうへ寄りすぎないと決めていた。

自分にそう言い聞かせる必要がある時点で、まだ若いのだろうが、それでも昨日のような真似は繰り返したくなかった。


日が落ちると、峠の風はまた細くなった。

馬方の灯りが石標の手前で少し揺れ、石垣の縁へ細い影を落とす。

私はその少し後ろで立ち止まり、草地へは足を出さずに待った。

やがて、昨夜と同じ位置に、冷たい色の小さな灯りが現れた。

今夜はよく見ようとして目を凝らしすぎなかったのがよかったのか、灯りそのものより先に、その下の“動き方”が分かった。

光は歩いていない。

低い位置を滑り、時々止まり、また少しだけ先へ移る。

それに合わせて草先がほんのわずかに揺れる。

旅人の影に見えるのは、光の下に何かがいるからではなく、その何かが光の返りと同じ速度で石垣線を使っているからだった。


私はその動きを石垣の切れ目まで追った。

そこで初めて、本体らしいものが少しだけ見えた。

大きくはない。

狐ほどもない。

胴は細く長すぎず、頭部は低く、首は短い。

体表の一部が濡れているのか、あるいは鱗片のようなものを持つのか、灯りが当たるところだけが異様に冷たく返る。

背の線は丸く、耳に当たる部位ははっきりしない。

四肢はあるが、体の下へ短く収まり、走るより石の縁をなぞるのに向いた運びだった。

私はその姿を見ながら、峠で「旅人が一人多く見える」と言われる理由をようやく理解した。

この対象は、灯りだけでなく、灯りに添う影まで少しだけ作ってしまう。

それでいて、高さが人間の腰よりずっと低いから、見る側が勝手に“遠くの旅人”として解釈してしまうのだ。


馬方はそのまま進み、光は石垣の切れ目で一度だけ強く返ってから、すっと低く沈んだ。

消えたのではない。

道の正しい線から外れた草地のほうへ、こちらの目から抜けたのである。

私はそこで昨夜の自分の動きを思い出した。

あのまま追えば、たしかに道の外へ出る。

しかも落ちるほど急ではないから、しばらくは気づかない。

峠で起きる逸脱が、霧と疲労だけではなく、こうした小さな誘導で起きているなら、かなり厄介だった。


この晩は、もう一つ確かめられたことがある。

対象は灯りがない時には、ほとんど見えないということである。

馬方の灯りが石垣を離れ、鞍部の向こうへ下がると、銀白色の返りもすぐ消えた。

石垣の草や石標の根元を見ても、そこに何かいるとは分からない。

つまり、峠で“増える灯り”は、対象の発光ではなく、人間の灯りがあって初めて成立する現象だった。

大学がこれを魔法現象の側から気にしたのも理解できる。

だが、生きものを抜いてしまうと、この反復する位置の偏りは説明しにくいだろう。


宿へ戻ったあと、私は前夜より落ち着いて記録を書いた。

少なくとも今夜は、現象のあとを追って道を外すような真似はしていない。

そのことだけでも、峠では一つ進んだ気がした。


その夜の記録には、こう残した。


**石標および崩れた石垣沿いの“余分な灯り”は、銀白色の鱗片状物質を体表へ持つ小型動物候補が、人間の灯火を特定の角度で返すことで生じている可能性が高い。

対象は石垣線と草縁を低く移動し、その動きが灯りの返りと重なるため、遠い旅人に似た錯視を作る。

灯火のない条件では本体はほとんど視認できず、発光生物とは考えにくい。

次は昼の通路の続きと、夜の出現位置が峠のどこまで反復するかを見たい。**


峠の話は、ようやく現象から通路へ移り始めていた。

灯りが増える理由だけでなく、何がどこを使っているのかを押さえれば、もう少し落ち着いた記録になるはずだった。


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