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ロバート教授の幻獣生態調査記録  作者: ロバート・クロフト
第十四章 一九六二年 北西山地における夜間視覚誤認および旅人の進路逸脱事例の調査
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第一節

**一九六二年十一月十九日 北西山地、エール峠旧道入口**


峠道の話は、たいてい足ではなく目の失敗として語られる。

石を踏み外した、ぬかるみに取られた、雪庇が崩れた――そういう事故であっても、後から人の口へ残る時には「灯りが一つ多く見えた」「前を行く影が二人に分かれた」「道標がいつまで経っても近づかなかった」という言い方になる。

人は道で死ぬ時、最後に見たもののせいにしたがるのだろう。

それが本当に見え方の問題である場合もあるし、単に疲れと寒さと恐怖がひとまとめにされているだけのこともある。

若い私は、その違いをまだあまりうまく扱えなかった。


エール峠は、街道としてはすでに半ば役目を終えた古道だった。

新しい荷路が南へ切られてから、北へ抜けるのは行商か、急ぐ旅人か、あるいは道そのものに用のある人間だけになったという。

それでも完全に捨てられてはいない。

石畳の残る箇所もあり、古い道標も立っている。

ただ、峠へ上がるにつれて風が細く、霧が低く、道の縁が急に浅くなる。

人の通る頻度が落ちたぶん、山の側が少しずつ道を取り返しているような具合だった。


今回の書類名は、

**「北西山地における夜間視覚誤認および旅人の進路逸脱事例の調査」**

である。

まるで幻獣ではなく、眼科医か気象学者へ回すべき仕事のようだが、大学が私へ渡したということは、少なくとも誰かがそこへ生きものの関与を疑っているのだろう。

実際、宿場役人の添え書きには、峠で見える“余分な灯り”が、必ず同じ石標の近くで出ること、馬がそのあたりで妙に足を止めること、そして霧の夜ほど事故が多いことが、かなり雑な文で並べられていた。

私はその書類を読みながら、最初は半ば現象調査のつもりでいた。

灯りの反射か、霧の屈折か、濡れた石の問題か。

少なくとも、最初から何か小型の幻獣を想定していたわけではなかった。


峠の下の宿場は、山道にしては妙に乾いた匂いのする場所だった。

薪、馬具、冷えた革、長く使われた石の粉。

泊まり客は少なく、私が入った昼にも、馬方が二人、奥の卓で黙って食事をしているだけだった。

宿の主は、私の紹介状を見ると、すぐに峠の話へ入った。

「灯りが増えるんです」

「どう増える?」

「前の灯りの横か、少し上に。近い時もあれば、遠い時もある」

「旅人自身の灯りではなく?」

「それなら皆そう思います。思って、近づいて、道を外れる」


この説明は、予想より具体だった。

私はまず、見える場所の偏りを訊いた。

すると宿の主は、古い石標の立つ鞍部と、その少し手前の崩れた石垣のあたりを指した。

さらに、「見た」と言う者のうち、無事に帰ってきた者は皆、灯りそのものより、「灯りの持ち主らしい影」が少しおかしいと言うのだと付け加えた。

そこが面白かった。

灯りだけなら霧と反射で済む。

だが、そのそばに“旅人めいた影”まで見えるというなら、見え方のほうが少し複雑になる。


午後、私は峠道の入口から鞍部までを一度歩いた。

石畳は途中で切れ、あとは土と砕けた石の道になる。

両側には低木と古い杭の残骸があり、ところどころで白い石標が霧に濡れて立っていた。

道そのものは、昼にはさほど難しくない。

だが昼に難しくない道ほど、夜には人を油断させる。

特にこの峠は、正しい道と外れた草地との境が、場所によって急に曖昧になる。

一歩外れてもすぐ谷へ落ちるわけではない。

だからこそ、気づかぬままじわじわ外れるのだろう。


鞍部の手前、崩れた石垣の脇で、私は最初の手掛かりらしいものを見つけた。

石の上に、薄い銀白色の粉がこすれたように残っていたのである。

雪ではない。

石灰でもない。

指で触れると、粉というより細かな鱗片に近く、湿るとすぐ色が鈍る。

この峠の岩質から自然に出るものとも思えなかった。

しかも、その銀白色は、石垣の同じ高さに細く帯になって続いている。

ちょうど何か小さな体が、そこを繰り返し横切ってきたような高さだった。


私はその帯をしばらく追った。

すると石垣の切れ目から先の低木の根元に、小さな丸い糞がいくつかまとまっていた。

獣の糞としては乾きすぎている。

鳥のものにしては粘りがない。

表面に同じ銀白色の粉が混じっているのが妙だった。

私はそこを袋へ採り、位置を書き留めた。

いま思えば、この時点でもう、現象だけの調査ではなくなっていたのである。

だが若い私は、そこへすぐ“生きもの”を置くより先に、「発光鉱物を体表へ付着させる小動物」などという少し回りくどい仮説を立てていた。

対象が目の前へ出る前ほど、人は言葉で周りを固めたがる。


さらに上、石標の立つ鞍部では、道の縁の草が不自然に寝ていた。

馬や人の通り道そのものではない。

むしろ、道のすぐ脇をなぞるように細く倒れている。

そこへ近づくと、濡れた草の先にだけ、さっきと同じ銀白色がごく薄くついていた。

私はしゃがみ込み、その幅を測った。

細い。

狐や犬では太すぎ、鼬では長さが足りない。

何か小型のものが、地面より少し上で草先を撫でているような帯だった。


その夕方、宿へ戻ってから、古い馬方の一人と少し話をした。

彼は酒気のない、乾いた声の男で、峠では灯りを増やしてはいけないと言った。

「なぜです」

「灯りが二つになるからだ」

「前の灯りが割れるのか、別に見えるのか」

彼は少し考え、

「別に見える。だが、近づくと前と同じになる」

と答えた。

これはかなり重要だった。

別の灯りが見えるのに、距離が詰まると“前と同じになる”。

ただの反射なら、消えるか位置がずれる。

同じになる、という言い方には、追う側の視線のほうが誘導されている感じがある。

私はその夜、これを確かめたくてならなかった。


日没後、私は宿の手伝いの若者に頼んで、先に峠の鞍部を越えてもらい、自分は少し遅れて追う形を取った。

危険は大きくない。

峠道そのものは知れた長さで、霧も今夜は重すぎない。

だが、こうした仕掛けは、本来あまり好きではない。

現象に寄りすぎるからである。

それでも若い私は、見え方を試すならこれが早いと考えた。


若者の灯りは、最初は普通だった。

石標の下で一度揺れ、またまっすぐ進む。

私も自分の灯りを低く持ち、そのあとを追った。

ところが、崩れた石垣のあたりへ来た時、若者の灯りの少し右上に、もう一つ小さな灯りが現れた。

私は立ち止まった。

幻ではない。

確かに見える。

ただし色が少し違う。

若者の灯りは黄で、新しく見えたほうはもっと冷たく、濡れた銀を透かしたような色をしている。

しかも、その灯りの下に、ごく低い影がついているように見えた。

子どもほどの背丈の旅人が、道の脇を並んで歩いているようでもある。


私はそこで、実に若い判断をした。

追ったのである。

若者に声をかけるより先に、その“余分な灯り”のほうへ足を向けた。

数歩で足元の草が道を外れ、石の粉が増えた。

灯りはなお前にある。

若者の本来の灯りより近い気すらした。

私はさらに一歩出て、そこでようやく、灯りの下の影が、歩いているのではなく、石垣の縁に低く沿って滑っているのだと気づいた。

人の歩き方ではない。

その瞬間、足元の土が少し崩れ、私は膝をついて止まった。

大した斜面ではない。

だが、あと二歩で道を完全に外していた。


灯りはその瞬間に消えた。

消えたというより、若者の灯りの光の中へ吸われるように薄れた。

若者本人は十歩ほど先で立ち止まり、私が道を外したことにもまだ気づいていなかった。

私は泥のついた膝を払いながら、石垣の縁を見た。

そこに、銀白色の細い帯が、確かに濡れて光っていた。

灯りが増えたのではない。

何かが旅人の灯火を別の位置へ返し、人の影に似た高さを一瞬作っていたのだろう。

私はその場で、現象だけを追う危うさを身をもって知った。

もっとも、その直後の手記では、そんなふうに格好よくは書いていない。

ただ「道を外しかけた」とだけ残している。


宿へ戻ったあと、私はかなり長く記録をまとめた。

銀白色の鱗片、細い草の倒れ、糞、灯りの二重化、石垣の縁を滑る低い影。

まだ姿の実体までは取れていない。

だが、この峠で起きていることが単なる霧の悪戯でも、旅人の疲れだけでもないことは確かになった。

石垣と石標の近くに、小型の何かがいる。

それは濡れた体表か体毛か何かで灯りを強く返し、人の目に“もう一人の旅人”めいたものを作る。

そこまでなら、今夜の観測で十分だった。


その夜の記録には、こう残した。


**峠の鞍部および石垣沿いで見られる“余分な灯り”は、霧だけでなく、銀白色の鱗片状物質を体表にもつ小型動物候補の関与を疑うに足る。

当該対象は道の脇の石垣線と草縁を反復利用しているらしく、灯火の角度に応じて人影様の錯視を生じさせる。

観察者は追って道を外しかけた。今後、現象確認の際は必ず同行者との位置関係を保ち、単独で灯りを追わないこと。

次は昼の石垣線と夜の錯視位置を重ね、対象の通路そのものを押さえたい。**


エール峠の記録は、まだようやく入口に立ったところだった。

だが、この夜の膝の泥だけでも、この峠の話が単なる旅人の与太でないことは十分に分かった。


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