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ロバート教授の幻獣生態調査記録  作者: ロバート・クロフト
第十三章 一九六一年 北東辺境における小規模集落被害と夜間火光現象の実地確認
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第五節

**一九六一年十月六日 ラーデン谷、古道下の空地にて**


尾根筋で火の扱いを見たことで、谷の中の幾つかの痕がようやく一つの広がりを持ち始めた。

焼畑跡、炭焼き小屋跡、沢筋の浅い火床、古道の枝束。

それぞれを別の晩の出来事として並べれば、ただの断片にすぎない。

だが、火が短く運ばれ、道具が粗くとも使われ、採集と移動がひと続きであると考えると、谷の使われ方は急に地図らしくなる。

私はその朝、前日に見た古道の先をもう一度歩き、夜の線がどこへ下りていくのかを確かめることにした。


尾根筋の古道は、谷を横切るように見えて、実際には何度か折れながら下の沢筋へ落ちていく。

人間の荷馬にとっては使いにくい道だが、軽い足で移るものには都合がよい。

陽が高くなる前の時間にそこを辿ると、昨夜の火の跡はほとんど残っていなかった。

焦げた枝先がひとつ、古道の石の脇に落ちているだけである。

火種を持って移るものは、焚火のような見やすい痕を残さない。

この点だけでも、谷の者が「火が動く」と言った理由はよく分かった。


古道の折れを二つほど下ると、低い空地へ出た。

伐採の際に一時的に木を集めた場所らしく、周囲より土が締まり、中央だけ草が薄い。

そこに、粗く編まれた小さな袋の破れが落ちていた。

樹皮繊維と毛を撚ったものに、乾いた泥がついている。

谷で拾った編み屑と同じ類だが、これはもう少し大きい。

中に何を入れていたかは分からない。

ただ、根菜でも木の実でも、手で抱えるよりこうした袋へ入れたほうが運びやすいことは確かだった。

私はそこで、谷の小屋から持ち去られたものと、沢筋や尾根で得たものとが、同じ運び方の中にあるかもしれないと考えた。


空地の縁の柔らかい土には、足跡がいくつか重なっていた。

人間の靴跡もある。

それに交じって、例の裸足に近い足跡が三種ほど見える。

大きいものが一つ、中くらいが二つ、小さいものが二つ。

どれも踵が浅く、足指が開く。

私はそこで初めて、谷の対象をただ「複数個体」と書くだけでは足りぬ気がした。

少なくとも大きさに明瞭な幅がある。

年齢差か、性差か、それとも別の群れが同じ空地を使っただけか。

そこまでは分からない。

だが、前夜の大きい影と、小さい影の動きが、地面の上でもきちんと差を持って残っていることは、かなり大きかった。


昼過ぎ、私はベッカーを村へ返し、一人で空地の下に残った。

本当のところ、老人を帰したのは観察のためだけではない。

数日一緒に歩いて、私は彼に少し意地を張っていたのだと思う。

老人の見方は役に立つ。

だが役に立つだけに、若い人間には時々その存在が煩わしい。

自分一人で線を掴んだと思いたくなる。

そういう感情が、現地では案外足元を危うくする。


空地の南縁には、斜面の下へ抜ける浅い窪みがあり、その先で沢筋に続いている。

私はそこを見下ろせる切株の陰へ身を伏せた。

谷底の村は見えない。

風は斜面を斜めに上がり、昼にはほとんど音を運ばない。

こういう場所は、夕方の気配がいちばんよく分かる。

鳥が先に黙り、沢の音だけが逆にはっきりしてくるからである。


日が傾きはじめたころ、まず空地の北側で草が一度揺れた。

私はそこへ視線を向けたが、何も出ない。

次いで、南の窪みのほうから、小石を軽く転がしたような音がした。

そのあとで、最初の個体が現れた。

昨夜見た先頭の影と同じかどうかは分からない。

だが、体格は近い。

低い肩、前へやや突き出た頭部、子どもほどの背丈。

ただし人間の子どもより胴が短く、脚はやや曲がりがちで、立っていてもすぐ動ける姿勢をしている。

皮膚の色までは、この距離では取れない。

衣服らしいものがあるのかどうかも、まだ分からなかった。

だが腰のところに、小さな袋か編み籠のようなものを提げているのは見えた。


一体だけではなかった。

少し遅れて、中くらいの個体が二つ、窪みから出て空地の縁へ散る。

そして最後に、さらに小さい影が一つ、沢筋寄りの草を押し分けて出た。

私はその瞬間、前夜まで曖昧だったものが一つはっきりしたのを感じた。

これは夜の作業に偶然集まった同種個体ではない。

少なくとも、この場にいるものどうしは、互いの位置を前提に動いている。

“群れ”と書くにはまだ粗いが、ばらばらの単独個体ではなかった。


彼らは火をすぐ使わなかった。

まず空地の中央の薄い地面へ、持ってきたものを置いているように見えた。

大きい個体が腰の袋から何かを出し、中くらいの一つがそれを受ける。

小さい個体は縁のほうでしゃがみ、草の根元をいじっていた。

私はこの時、ようやく彼らの動きを“盗人の分け前”ではなく、もっと日常に近い手つきとして見た。

持ってきたものを置く。

受け渡す。

火を使う前に位置を整える。

どれも小さいことだが、小さいからこそ生活に見える。


やがて火種が使われた。

前夜と同じく、立ち上がる焚火ではない。

地面へ伏せた赤を二度、三度と確かめるだけである。

その火のそばへ小さい個体が寄ろうとすると、大きい個体が短く声を出して止めた。

叱責か、注意か、単に熱を避けさせたのか、その意味は分からない。

だが動きの流れとしては明白だった。

小さい個体はすぐに手を引き、少し離れた。

私はここで初めて、谷の対象に大きさの違いだけでなく、役の違いもあるのではないかと考えた。

若い私は、それをほとんど反射的に「家族」と結びつけかけた。

しかしそこは紙には書かなかった。

根拠がまだ足りなかったからである。

この一点については、自分でも少し辛抱が効いたらしい。


ただ、そのあとの私はあまり辛抱強くなかった。

小さい個体の一つが空地の縁から外れ、私のいる切株に近い側へ回ってきたのである。

距離はそう遠くない。

あと十歩も詰めれば、顔立ちの線くらいは取れそうだった。

私はそこで、伏せたまま半身を動かした。

ほんの少しだけ、風下へ身をずらしたつもりだった。

だが、乾いた枝が一つ、肘の下で鳴った。

音は小さかった。

それでも十分だった。


空地の中央の火が、ぱっと潰れた。

前夜と同じく、素早かった。

大きい個体が振り向き、次の瞬間には、中くらいの二つが小さい個体を押し出すように窪みへ下がっていく。

私の近くへ来ていた小さい影も、草の陰へ消えた。

その動きには混乱より手順があった。

逃走というより、離脱の順序が決まっているように見えた。

私はそこでようやく、自分がまた余計な一歩を踏みかけたことを悟った。

若い頃の私は、こうして見える寸前で自分から場を壊す。


だが今夜は、壊れ方が前夜と少し違った。

火も影も消えたあと、空地の北側の草から、短い低音が一つ返ってきたのである。

残された合図か、遠くの別個体への知らせか、意味は分からない。

ただ、その音を境に、沢筋の向こうで別の草が一度だけ揺れた。

私はそこに何かがいたとは書かない。

見えたのは揺れだけで、姿はなかった。

それでも、谷の利用が空地と沢筋とで一続きであることは、ますます疑いにくくなった。


夜が戻ってから、私はしばらく動かなかった。

追うべきか少し迷ったが、窪みの下は暗く、地形もまだ十分に読めていない。

そのまま待って、風が落ち着いてから村へ下りた。

空地には、朝になればまた何かが残っているだろうと考えたからである。

見えたものそのものより、去ったあとの地面のほうが、翌日にはよほど多くを教えることがある。


その夜の記録には、こう残した。


**尾根下の空地において、体格差のある複数個体の同所行動を確認。

袋状の運搬具、短い火種の使用、物の受け渡し、小個体への制止らしき動きが見られた。

対象を単なる夜間盗取の集団としてではなく、一定の役分担と反復行動を持つ小規模単位として扱う必要がある。

ただし、生活単位の性格(家族・齢差集団・一時的集合など)はなお保留する。

観察者の接近により場を早く崩した可能性あり。明朝、空地と沢筋の痕を必ず再確認すること。**


ラーデン谷の記録は、ここでようやく人間の被害報告を越え始めた。

それでも、まだ相手の言葉も顔も知らない。

見えてきたのは、火と運搬と、消え方の手順だけである。

その程度で足りるかどうかは、翌朝の地面を見てから決めるほかなかった。


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