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ロバート教授の幻獣生態調査記録  作者: ロバート・クロフト
第九章 一九七九年 高山帯湖面上における局所放電および尾根風異常の予備調査
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第一節

**一九七九年八月二十六日 北西山系、ラーン氷河湖観測所着**


山の上では、伝承が最後まで伝承のまま残ることがある。

平地の町なら、奇妙な話の大半は何らかの実利へ削られる。害獣、珍獣、崩落の前触れ、迷信、旅人向けの与太話。そのどれかへ落ち着く。

だが高山では、そうした整理そのものが追いつかない。人間の滞在時間が短く、天候は急変し、同じ場所を同じ条件で見ることが難しいからだ。

そのため、ひとたび「竜がいる」と言われた山は、百年たっても竜の山であり続ける。

私はそういう土地をいくつか知っている。ラーン氷河湖も、その一つだった。


大学から今回渡された依頼は、例によって別の名前をしていた。

**「高山帯湖面上における局所放電および尾根風異常の予備調査」**

書面としてはそれでよいのだろう。

実際、近年この一帯では、晴天時にもかかわらず尾根沿いで小規模な放電が見られたという報告が複数あり、山岳観測所の金属器具にも一時的な異常が出ている。

だが観測所へ着いてみれば、誰もその現象だけを話題にはしなかった。

荷揚げ小屋の番人も、観測員も、夏の放牧を終えて下りてきた山羊飼いも、結局は同じことを言う。

**湖を見に下りるやつの年だ。**

あるいはもっと簡潔に、**竜だ。**


私は、山へ入る前からその言葉を疑っていたわけではない。

ただ、信用もしすぎなかった。

竜という言葉は便利すぎる。

大きすぎる影、説明のつかぬ風、崖の高所に残る骨、稀な放電、そうしたものが一括でそこへ投げ込まれてしまう。

研究者としては、まずそれをほどく必要がある。

飛行種なのか。

滑空種なのか。

崖棲みの大型獣なのか。

それとも、複数の現象が長い年月のうちに一つの名へまとめられただけなのか。

そのくらいの疑いは持って山へ入るべきだった。


ラーン氷河湖は、想像していたよりも狭く、そして暗かった。

湖そのものは氷河の舌の下にできた細長い水溜まりに近く、水面は深い青ではなく、曇った鋼の色をしている。

その周囲を、砕けた岩と古い雪渓と、草のほとんどない斜面が取り囲んでいた。

下から見れば空は広いはずなのに、この湖畔ではむしろ空が切り取られて感じられる。

四方の尾根が高く、しかも風が一様に回らないせいだろう。

観測所は湖の南西側、崩れた修道院避難小屋の基礎を使って建て直された小さな石舎で、壁の内側には湿りと鉄の匂いが染みついていた。


私を迎えた観測員は、二人とも疲れた顔をしていた。

一人は気象観測の技師で、人間の男、名をホルスト。もう一人は地質観測を任されているドワーフ系の女で、ミレナという。

どちらも理性的で、話を必要以上に膨らませる癖はなさそうだったが、それでも「竜」の話を完全には笑わなかった。

ホルストは計器の記録を見せながら言った。

「放電だけなら、異常気象で片づけてもよかった」

「片づかない理由が?」

「出る位置が寄りすぎています。尾根のこの帯と、この湖面の上だけです」

ミレナは横から付け加えた。

「それに、骨が高すぎる」


私はそこで顔を上げた。

「何の骨です」

「山羊が多い。あと、鹿に似た高地獣が少し。鳥ではない」

「落ちたのではなく?」

「落ちたにしては集まり方がいいです」


この「集まり方がいい」という言い方も悪くなかった。

獣の遺骸は、ただ高所で見つかったからといってすぐ異常とは言えない。滑落もあれば、雪崩もある。

だが同じような棚や岩陰へ、同じ種類の骨が繰り返し残るなら、それは採食場か休止場の存在を疑うに足る。

竜と呼ばれたものの多くは、こうした高所の骨から逆算されてきたのだろう。


着いたその日の午後、私は湖畔の南側を半刻ほど歩いた。

本来なら初日にあまり無理をしたくなかったが、高山では天気の都合がある。

歩ける時に歩いておかねば、翌日から二日三日、何もできぬことも珍しくない。

湖畔の石は安定して見えても、踏むと下の氷がわずかに鳴るところがあり、尾根へ近づくほど風は細く鋭くなる。

私は歩きながら、まず湖面だけを見ていた。

放電の有無ではなく、風が湖にどう触れているかを知りたかったのである。

ところがその途中で、最初の失敗をした。


尾根の上に、大きな影を見たのである。

雲ではない。

明らかに空を切る形をしていた。

私はほとんど反射的に双眼鏡を上げ、足元の礫をひとつ転がした。

影は二度、羽ばたくように見えた。

その瞬間、私は竜ではなく、ひどく大きい高山鷲か、あるいは滑空性の崖棲み種を想定した。

ところが数秒後、影は分かれた。

一つに見えたものが、実際には二羽の大型猛禽だったのである。

光の角度と尾根の重なりで、ちょうど一体に見えていただけだった。

私はその場で、自分が着いて半日で伝承へ引っぱられかけたことを認めざるを得なかった。

高山では、観察者の期待そのものが、空の大きさに容易に拡大される。


観測所へ戻ってから、その失敗もノートへ書いた。

書かないほうが体裁はよい。

だが、こういう勘違いを残しておかないと、あとで「最初から見抜いていた」ような顔をしたくなる。

私はそういう記録を信じない。

山では、最初の一日はたいてい半分くらい間違うものだ。


夕方近く、空が少し曇った。

ホルストが外へ出て、尾根上の金属風向計を双眼鏡で見ていたが、やがて舌打ちをした。

「また合わない」

彼に言われて私も見ると、風向計は西からの風を示している。

だがそのさらに上、尾根筋の雪粉は明らかに北へ引かれていた。

しかも、引かれている帯が狭い。

尾根全体ではなく、ある一点を中心に、薄い雪粉だけが横へ抜かれる。

これは確かに、ただの「山の風」で片づけるには寄りすぎていた。


「毎回ここですか」

「毎回ではないですが、強く出る時はここに集まります」

ホルストはそう言って、湖の東端と尾根の肩を直線で結んだ。

その線は、古くから「湖を見に下りる」と言われる方角と同じらしい。

私はその一致を、まだ深読みしないよう自分へ言い聞かせた。

地元の言い伝えは、しばしば観測結果を後から飲み込んでしまう。

だが、だからといって無視すべきとも思わない。

長く同じ山にいる者の雑な言い方の中に、意外と座標だけは正しいことがある。


この日は結局、それ以上の観測は得られなかった。

夕刻ののち、湖面の一部で小さな放電が二度走ったが、距離が遠く、しかも時間が短すぎて、尾根のどの風帯と結びついているのかまでは掴めなかった。

雷鳴もない。

匂いも届かない。

ただ、水面の上に青白い筋が一瞬だけ立って、すぐ消える。

湖がこちらを拒んでいるようにも見えたし、ただ乾いた空気が癇癪を起こしただけにも見えた。


私は寝る前に、手帳へこう記した。


**現段階では、竜種と断ずるには証拠が足りない。

しかし、尾根風異常、湖面放電、高所骨集積の三者が一帯へ寄っていることは確かである。

問題は、これらが一個の大型生物の生活圏として繋がっているのか、それとも山が別々の現象を同じ場所へ重ねて見せているだけなのかにある。

山では、この区別がいちばん遅れて立ち上がる。**


今のところ、私は半信半疑のままだった。

それでよいとも思っていた。

高山に入って二日も経たずに「竜を見た」と書けるほど、私はもう若くない。


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