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ロバート教授の幻獣生態調査記録  作者: ロバート・クロフト
第六章 一九七六年 海食断崖帯における局所風向差および観測旗挙動の不一致事例に関する予備調査
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第二節

**一九七六年五月十九日 アウレイン岬内側斜面、海霧の薄い日**


海霧のある日の断崖は、晴天の日よりむしろ物が見えやすいことがある。

輪郭が消えるのではなく、遠くの余計な光が削がれるからだろう。晴れた日の海は、空と水と岩の反射が互いを曖昧にし、影の大きさも高さも当てにならなくする。

それに比べると、薄く霧の入った日は、断崖の近くで起きていることだけが静かに残る。もちろん遠くは見えにくい。だが近い帯の風の筋や、海鳥の迷い方や、岩棚の縁の出方は、かえって読みやすい。


朝から海は白く、しかし閉じてはいなかった。

岬の先は見える。沖の半ばから先だけが薄く溶け、波頭も昨日ほどは光を返さない。

ブラナーは小屋の前で空を見上げ、

「今日は上へは行かん」

と言った。

「若いのがですか」

「そうだ。高く取ると戻れない」

その断言のしかたがあまりに自然だったので、私はそれ以上の説明を求めなかった。

地元の者が、見た回数ではなく季節と風の組み合わせで語る時、その判断はたいてい観察として信用できる。


この日の観測点は、塔ではなく、断崖の内側へ少し入った斜面の中腹に取った。

塔からだと沖へ抜ける線は見やすいが、断崖沿いの低い帯へ入るものはかえって見失いやすい。

昨日の記録から、若い個体は強い上昇へ正面から乗るより、断崖の面に沿った横流れを使っていた。

ならば今日は、空ではなく岩のすぐ外側、海鳥がいったん高さをやめる帯を見るべきだろう。


同行はブラナーと私だけだった。

老人は観測そのものを手伝うというより、そこへ立つべき場所を間違えないために来たようなものだった。

人間の足場として安全な場所と、観測者として無用に目立たぬ場所とは少し違う。

彼は崩れた石垣の残る斜面の陰を選び、そこなら風も素直に当たらず、断崖の縁を斜めに見下ろせると言った。

私はそこへ腰を落ち着け、双眼鏡ではなく、まず裸眼で海鳥の線を追った。


午前のうち、目立った変化はなかった。

海鳥は低く、多く、断崖の面を擦るように飛ぶ。昨日見た高さまでは上がらない。

だが鳥の群れ方に、ひとつ奇妙な癖があった。

断崖の中腹を横切るある帯だけ、群れが細く伸びるのである。

ふつうなら、餌の密度や風の支え方で、群れはもっと塊のまま流れる。

ところがそこでは、先頭が進み、後続が少し遅れて同じ線へ入る。

まるで広い空の中に、その高さだけ見えない溝があるようだった。


「そこです」とブラナーが言った。

彼は指を差さない。海の男はしばしばそうである。指先で教えると、かえって相手の目を狭くすると知っているのだろう。

私はその帯を見続けた。

しばらくして、海鳥の先頭がふいに崩れた。

崩れると言っても、散るのではない。

進みながら、一羽ずつ少し下へ落ちる。

その上を、灰色の影が横切った。


今度は昨日より近かった。

まず成体が見えた。

翼は広いが、鳥のそれほど一枚ではない。前縁は張っていて、後縁に沿って細い裂け、あるいは長い羽枝のようなものが見える。

だが羽毛か膜かは、なお断定できない。

体の中心は意外なほど細く、胸の厚みより、肩から翼根へかけての張りのほうが目につく。

尾の分かれは昨日よりはっきりし、左右を微妙に別々へ使っているのが見えた。

これにより、成体は断崖へ寄りすぎることなく、風の縁を横へ長く引けるのだろう。


成体のあとを、小さい個体が追った。

今日はそれがよく分かった。

若い個体は、まだ風へ身体を預ける時間が短い。

一度、翼端をわずかに震わせ、空気を掴み直すような動きをする。

その不安定さが出るたび、成体は前を飛びながらも線を少しだけ広げ、断崖面からの距離を変える。

上へ引き上げるのではない。

昨日と同じく、外側へ、あるいは断崖の内側の弱い流れへと、若い個体が乗りやすい帯を残すような飛び方だった。


この時、私ははっきり一つ理解した。

成体は若い個体を「導いている」というより、風の中に「失敗しにくい線」を先に描いているのだ。

若いものはそれを追う。

もし地上の言葉へ置き換えるなら、手を引いているのではなく、滑りやすい坂へ先に足跡をつけているに近い。

風を読む生きものの教え方とは、そういうものなのかもしれない。


二頭は岬の張り出しへ近づくと、一度だけ高さを失った。

ここは昨日、成体が斜めに落ちるように抜けた場所である。

だが今日は海霧の薄い帯がそこへ重なり、風の立ち上がりが弱いらしい。

若い個体がそこで明らかに迷い、翼の後縁を大きくぶらした。

私は思わず身を乗り出した。

落ちるほどではない。

だが、自分の線を失いかけている。


成体はすぐには戻らなかった。

まず自身の高度を保ち、断崖の内側へ半身ほど寄せる。

そのあとで、尾を深く切り、横へ滑るように若い個体の前を斜めに横切った。

すると若い個体は、その切られた線へ吸い込まれるように安定し、断崖のやや内側の帯へ入り直した。

この一連の動きは、美しいというより、非常に実際的だった。

若いものを庇うために自分が無理をするのではなく、風の中でいちばん無駄の少ない修正を取る。

飛行を生活として身につけた生きものだけが持つ、冷静なやり方に見えた。


「昨日のより若いな」

ブラナーが低く言った。

私はその意味を考えた。

「別個体ですか」

「昨日のは、もう少し腹が決まっていた。今日はまだ、風へ聞き返してる」


この表現も良かった。

風へ聞き返している。

それはまさに、今の若い個体の飛び方そのものだった。

自分で線を持つのではなく、一度ごとに空へ問い、返事を待ちながら進む。

飛行を「できる/できない」で分けるより、はるかに正確な言い方だと思えた。


二頭はそのあと、沖へは出ず、断崖の内側を南へ流れた。

そこでは海鳥の群れが一度だけ大きく開き、また閉じた。

そして崩れた岩棚の下、昨日より低い休止棚へ、若い個体が先に入るのが見えた。

成体はすぐ降りない。

一度だけ大きく外を回り、海から戻る風へ身体を預けてから、ようやく同じ棚へ降りた。

見張りか、周囲の確認か。

少なくとも単なる随伴ではない。

つがい、あるいは親子のうち、成体側が最後に休止へ入る習性を持つ可能性がある。


私たちは午後いっぱい、そこを離れず見ていた。

再び飛び立つかと思ったが、霧が厚くなり、海鳥の高度も下がると、対象は棚から出なかった。

休止棚の上部には、白い糞の筋とは別に、少し暗い擦れ跡がいくつかある。

長く使われている場所なのだろう。

巣材のようなものは見えない。

つまり、ここは営巣ではなく、風待ち、あるいは若い個体へ飛行の段階を覚えさせる中継棚かもしれない。


観測を終えて戻る途中、ブラナーが修道院跡の古い鐘楼を見上げながら言った。

「昔の連中は、あれを鳥だとは思わなかった」

「なぜでしょう」

「戻り方が違う」


この言葉は、あとになって効いてきた。

鳥は羽ばたきで戻る。

あるいは上がってから降りる。

だが今日見た成体は、戻る時にもまず風の筋を選び、その上で休止棚へ降りた。

空を切って移動するというより、空にある道をそのまま行き来している。

人間がそれを鳥と思わなかったのは、形より先に、その「戻り方」を見ていたからかもしれない。


この日の記録を整理して、私は次のように追記した。


一、若い個体は成体に比して風帯の選択が未熟であり、上昇・横流れ・下降の継ぎ目で不安定さを示す。

二、成体は若い個体を直接押し上げるのではなく、より失敗の少ない外側または内側の流れへ誘導する線を先行して描く。

三、したがって本種の飛行学習は、身体接触ではなく、風帯共有による追従学習として理解すべきである。

四、海霧の薄い日には若い個体の飛行高度が下がり、内側の休止棚利用が増える可能性がある。

五、休止棚は単なる中継点ではなく、若い個体の飛行段階に応じた利用差を持つ公算が高い。


岬の調査は、これでかなり輪郭を持った。

まだ正式な名を与える段階ではない。

だが少なくとも、ここで見ているものが「風向異常」などという括りに収まらぬことだけは明らかだった。

風は異常ではない。

異常に見えるのは、人間が地面の風だけで空を理解しようとしているからだ。

彼らはその少し先で、別の地図を使っている。


明日は、可能であれば下の海食棚へ回り、休止棚の周辺に落ちる痕跡を確かめたい。

高みから見た飛行線と、実際に棚の縁へ残る擦れや落羽が一致すれば、この章の記録はかなり強くなる。

空を使う生きものの観察は、姿だけではいつまでも風景に負ける。

どこへ降り、何を残し、どこからまた出るかまでつながって、ようやく生きものの話になる。


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