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ロバート教授の幻獣生態調査記録  作者: ロバート・クロフト
第六章 一九七六年 海食断崖帯における局所風向差および観測旗挙動の不一致事例に関する予備調査
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第三節

**一九七六年五月二十日 下海食棚への下降路、休止棚下縁にて**


空を使うものの記録は、どうしても遠くからの観察に偏る。

こちらが地上に縛られている以上、それは避けがたい。だが、生きものとして記すためには、飛んでいる姿だけでは足りない。どこへ降り、どこで休み、何を落とし、何を擦らせ、どの程度その場所を繰り返し使っているか。そうした「地に残る部分」が揃って、ようやく飛行も生活の一部として読めるようになる。


そのため、この日の調査では下海食棚へ下りることにした。

ブラナーは、足場そのものは昔の修道士の巡路が残っているから何とかなるが、潮と落石の時間を間違えるなと言った。断崖の観察では、空ばかり見ているとすぐ海へ足を取られる。

同行は私とブラナーだけである。若い助手や町の人間をむやみに連れていく場所ではなかったし、何より、棚の縁で余計な音や匂いを増やしたくなかった。


下降路は、回廊跡の裏手から始まっていた。

人ひとりがやっと通れるほどの細い道が、岩の亀裂と古い石段の名残を伝って下へ折れていく。海側へ開けた箇所では、風が壁を舐めるように上がってくる。高みに立っていた時は「上へ落ちる」と感じた流れが、ここではむしろ下から擦り上げてくる。

空を使うものにとって、断崖は面ではなく層なのだろう。人間はその層を横切りながら歩いているにすぎない。


休止棚の真下へ回り込む前に、ブラナーが手を挙げて私を止めた。

彼は顎で岩肌の一点を示した。

最初はただの白い筋に見えたが、近づくとそれが糞の乾いた流れと、擦れた岩の光沢とでできているのが分かった。

海鳥の棚ならもっと雑然としているはずだが、ここは違う。糞の量は多すぎず、しかし全く新しくもない。長く使われているが、常時群れている場所ではない。

つまり、営巣の大集落ではなく、限られた個体が反復して使う休止棚という見立てに合っていた。


さらに数歩進んだところで、私は初めて明瞭な落羽を見つけた。

羽と呼んでよいかはまだ少し迷う。

形は細長く、中心に硬い軸があり、その左右に短い枝がある。だが海鳥の風切りほど平面的ではなく、むしろしなりと厚みが強い。色は灰白を基調にしつつ、軸に近い側だけ鈍い銀色を返した。

私は手袋をしたままそれを拾い、紙包みへ収めた。

これが本種由来であれば、少なくとも翼の後縁に通常の鳥類とは異なる構造が混じっていることになる。滑空時に見えた「裂けた後縁」の印象ともよく一致した。


「前にも落ちていましたか」

と訊くと、ブラナーは首を振った。

「探した者はいなかったでしょう」

それはその通りだろう。

海鳥の羽はそこらじゅうにある。わざわざ違いを見ようとする者でなければ、こうした一本を拾い上げる理由もない。


棚の下縁に着くと、そこでようやく、対象がここをどう使っているかの感触が出た。

岩棚そのものは広くない。成獣が翼を大きく広げれば持て余すだろう。

だが縁は少し内側へえぐれ、その上に風をやわらげる張り出しがある。若い個体が一度落ち着いて姿勢を戻すには都合がよい。

さらに棚の奥には、爪か何かで軽く掴んだような細い傷が、一定の高さへ繰り返し入っていた。海鳥の足だけではこうはならない。

着地の時、後肢か前縁の一部を一瞬岩へ当て、滑りを殺しているのかもしれない。


私はそこで、空から棚へ降りる線を頭の中で逆算してみた。

高みから見たとき、成体は休止棚へ最後に入り、若い個体は先にそこへ収まった。

ならば若いものは「降りる」より「受け止められる」棚として使っているのだろう。

成体にとっては一時的な足場でも、若い個体にとっては飛行の節目そのものになっている。

風の学習という点では、きわめて重要な場所である可能性が高い。


岩の奥まった箇所を調べていると、ブラナーが足元の細かな骨を拾った。

小魚ではない。海鳥の雛か、小型の海鳥の骨に見える。

だが散乱は少なく、食い散らされた感じもない。

同じ場所に、小さな魚鱗と、細い甲殻の殻も混じっている。

対象がここで食事をしているのか、それとも運び込んだ獲物の残りを一時的に落としているのか、現段階では判断しにくい。

ただ、少なくとも魚だけを追う滑空獣ではなさそうだった。海鳥の利用圏と一部重なり、時にその幼鳥や弱った個体も取るのかもしれない。

大型滑空種としては、無理のない食性である。


私は棚の縁の風をしばらく手で測った。

おかしな表現だが、他に言い方がない。

風速計を出してもよかったが、この場所では瞬間の向きのほうが重要だった。

棚の上では風が落ちる。

縁では横へ流れる。

そのすぐ外側では、再び上へ持ち上がる。

つまりここは、飛び続けるための場所ではなく、飛び方を切り替える場所なのだろう。

若い個体が海霧の日にこの低い棚を使った理由も、そのほうが説明しやすい。

強い上昇に乗れぬ日は、いったん風の節へ降り、もう一度出直す。

空を行く生きものにとっての「足場」は、地上の足場とは違う条件で決まる。


その時、上で海鳥の群れが一度だけざわめいた。

私は反射的に身を低くした。

ブラナーもすぐ壁へ寄る。

棚そのものは空から直接見えにくいはずだが、飛び込んでくる個体があれば、こちらの位置は余計な情報になる。

ざわめきは長く続かなかった。

それでも、次の瞬間に通った影は、昨日までよりずっと近く、そして速かった。


成体だった。

棚そのものへ降りるのではなく、その外を一度だけ大きく掠め、風の状態を測るように過ぎたのである。

私はその腹側を初めて比較的はっきり見た。

白くはない。

むしろ鈍い灰の下地に、風を受ける面だけが淡く明るく、胸の中央には暗い帯が入る。

翼の下面には、通常の鳥のような均一な風切りの並びではなく、長短のある列が何段か重なっているように見えた。

これが後縁の「裂け」に見えていた部分なのだろう。

羽毛と膜の中間、とまではまだ言わない。だが少なくとも、一般的な海鳥と同じ構造ではなかった。


個体は棚へ降りず、そのまま外へ抜けた。

休止棚が安全かどうか、あるいは若い個体が中にいるかどうかを確かめたのかもしれない。

私はこの時、親個体が棚へ先に入らず、外から一度確認する習性を持つ可能性を考えた。

そうであれば、前日に成体が最後に棚へ入ったこととも合う。

若いものを先に収め、自分は最後まで風を見る。

飛行性の家族群として、非常に合理的な配置である。


影が去ってしばらくすると、棚の奥からごく短い、掠れた音がした。

若い個体の発声だろうか。

高く、まだ定まらない響きで、昨日海霧の日に見た小型個体の未熟さを思い出させた。

私はすぐには動かなかった。

ここで無理に覗き込めば、今後この棚を使わなくなる危険がある。

研究のために習性を壊してしまっては、本末転倒である。


結局、この日はそれ以上棚へ近づかず、下降路を戻った。

上へ出る途中で私は何度も振り返り、岩棚の位置と、上から見た飛行線の重なりを頭へ入れ直した。

高みから見たときは単なる影の出入りだったものが、下から見ると生活の節目そのものだった。

飛行の学習、風待ち、若い個体の保護、そしておそらく小規模な採食も、あの狭い棚を中心に組み立てられている。


岬の上へ戻ってから、私はこの章の記録へ次の追記を行った。


一、海食棚上部には本種が反復利用する休止棚が存在し、若い個体の飛行調整に関与している可能性が高い。

二、棚周辺からは本種由来と思われる落羽、岩面擦過痕、小型海鳥・魚類由来とみられる残渣が確認され、休止のみならず軽度の採食利用も示唆される。

三、成体は棚へ直接入る前に外側を一度掠める行動を示し、風の状態または棚内の安全確認を行っている公算が高い。

四、若い個体は海霧や気流条件の悪い日に低い棚を使用し、成体はその上位または外側の風帯を維持して支援する。

五、したがって本種の生活史を理解するうえでは、飛行観察とともに「棚の機能」を中心概念として扱う必要がある。


私は仮称の**風棚滑空獣**をそのまま残した。

まだ粗い名ではあるが、少なくとも現象ではなく生活の側から見た呼び方になっている。

大学の報告書では、風向異常や観測旗との不一致を主題にしたがるだろう。

だが私の記録において本質なのは、断崖そのものが彼らの住処ではなく、風の棚、休む棚、学ぶ棚の集まりとして使われている点にある。


明日は岬を離れる前に、修道院の古記録をもう少し見直すつもりでいる。

若い個体が上がれない日、成体が横へ導く日、それが季節としてどの程度固定しているのかを確かめたい。

飛行種の調査は、見えた姿が鮮やかなぶん、ついその一瞬だけで分かった気になる。

だが実際には、風の読み方も、棚の使い方も、年ごとの反復の中でしか見えてこない。


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