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ロバート教授の幻獣生態調査記録  作者: ロバート・クロフト
第三章 一九七三年 河口湿地帯における夜間灯火の異常変調および水面反射異常の予備調査
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第二節

**一九七三年六月五日 ベルンハーフ東湿地縁、夜半の旧塩田水路**


日中のあいだ、私は港の東外れからさらに外へ出て、湿地と河口の境目を歩いた。

ベルンハーフの町は水に対して半ば勝ち、半ば負けたまま成り立っている。人間は堤を築き、水門をつけ、泥を浚い、杭を打つ。だが湿地の側も従ってはいない。使われなくなった塩田の溝へ新しい葦が生え、運河の縁は崩れ、昔の舟路が浅瀬になり、その隣に昨日まではなかった細い流れができる。こういう土地では、地図は場所より癖を記すものになる。


午前の観察で分かったことは二つあった。

一つは、例の滑り跡が単に水際へ不規則についているのではなく、流れの折れ返す場所を結ぶように現れていること。

もう一つは、魚の食い散らし方に偏りがあることだった。


湿地の鳥や普通の水獣が獲物を処理した痕には、たいてい鱗や内臓の散り方に癖がある。だがここで見つかる小魚の残骸は、頭部が比較的きれいに残り、胴の柔らかい部分だけが抜けることが多い。歯で噛み切ったというより、薄く裂いて舐め取ったか、吸い出したような痕である。

これだけで対象の口器まで決める気はない。だが少なくとも、ただの大型魚でも、よくいる水鳥でもなさそうだった。


昼過ぎ、私は再びセラの水門小屋を訪ねた。

彼女は前日と同じように、私の問いにすぐ答えず、水位板の泥を拭きながら聞いていた。滑り跡と魚の残骸の偏りを伝えると、ようやくうなずく。


「岸へ上がるのは、魚のためだけではありません」

「体を乾かす?」

「そういう言い方もできます。けれど本当には、流れの外で聞くためです」

「聞く?」

「水の中にいる時と、外へ出た時とでは、拾えるものが違うでしょう」


私はその言葉にすぐには返さなかった。

ここでもまた、対象は人間が気づきにくい境目の情報を利用しているのかもしれない。水の流れ、岸の泥、杭の軋み、舟の櫂が押し返す抵抗。もし彼らがそれらを合わせて読んでいるのなら、灯火の異常もまた、その知覚の一端に人間が偶然触れているだけなのだろう。


夕刻、最初の舟上観測の準備を行った。

同行者はマラと、その父のギデオン、それに私の三人である。ギデオンは無口な男で、若いころは沖へも出ていたらしいが、今は主に河口と湿地縁の運搬を請け負っている。学者を夜の水へ連れ出すことには明らかに乗り気でなかったが、その慎重さは信用できた。


「先生、ひとつだけ先に」

舟へ観測道具を積み込む時、ギデオンが言った。

「見えたからといって、すぐ名前を呼ばないことです」

「呼ぶと寄る?」

「逆です。名前をつけた気になって、こっちが近づく」


私はそれを聞いて、少しだけ笑った。

港でも山でも、長く土地と付き合う者の警戒はよく似る。分かったつもりになった瞬間がいちばん危ない、という感覚なのだろう。


観測は、潮が返り始める時刻を選んで始めた。

月は薄く、雲は高い。風は弱い。舟を旧塩田水路へ入れると、町の灯はすぐ背後へ遠のき、代わりに葦の擦れる音と、小魚が跳ねる微かな水音だけが残った。


最初の一時間、目立った変化はなかった。

私は水温、水位、流速の目安、灯火の反射の具合を順に記録し、マラは櫂で舟の向きを保ち、ギデオンはほとんど喋らず流れだけを見ていた。

水辺では、目より先に音や匂いのほうが変わることが多い。


変化は、灯火より先に水の音で始まった。

舟の右舷側、見た目には何もない暗がりで、細いものが続けて三度、水を切ったのである。跳ねる音ではない。魚が逃げる時の弾け方とも違う。刃の鈍いものを浅く引いたような、不思議に平たい音だった。

マラがすぐに櫂を止める。ギデオンも何も言わず、私の前のランタンへ手を伸ばしかけ、そこで止めた。まだ灯火は変わっていない。


「今のが?」

私が囁くと、マラが小さくうなずいた。

「声の前です」


私は手帳へ時刻を書き、右舷側の岸との距離を記した。葦は低く、水は浅い。古い杭の残りが二本、泥から傾いて出ている。


やがて、ランタンの火が変わった。

一気に痩せるのではなく、まず黄の縁が薄くなり、芯の青が妙に長く伸びたのである。風のせいではない。周囲の葦も水面も、ほとんど動いていない。

同時に、舟べりへ映っていたはずの光が、水面から半分ほど消えた。消えたというより、受け取られなくなったと言うほうが近い。水はある。波もない。なのに灯だけが途中から映るのをやめている。


私は身を乗り出しかけ、すぐ思い直した。

こういう時に観測者がまずやるべきなのは、自分の位置を変えないことだ。水辺では視点が一度ずれるだけで、反射も距離感もすぐ別のものになる。


次に聞こえたのは、人の呼び声に似た音だった。

言葉ではない。母音に近い長い息が二度、水路の奥から返ってくる。港の子どもの歌にあった「返す声」とはこれだろう。もっとも、声と呼ぶにはあまりに自然に近い。風が水門の隙間を抜けた音にも、水鳥の喉鳴りにも似ている。ただ、人間がそこへ自分の声を見つけやすいだけだ。

私はなるべく意味を足さず、息の長さと間隔だけを記録した。


「返事をしないでください」

ギデオンがごく低く言った。

ここでは実際に返答してしまう者がいるのだろう。暗い水辺で自分に似た音を聞くと、人は確かめたくなる。


その時、右舷側の岸の泥がわずかに動いた。

最初は葦の影と区別がつかなかった。だが濡れた泥の縁から、細長いものが一度だけ身を起こし、また伏せる。

魚ではない。蛇でもない。長い胴と、低い位置についた頭部。頭は平たく、前方へやや広がっている。体表は滑らかというより、泥と水草をまとった短毛のように見えた。四肢ははっきりしないが、身を起こした瞬間、前方に短い支えがあるのが分かる。大きさは子どもほどではない。水獺より細く、首はもっと短い。

見えたのは二秒か三秒だったが、そこには生きものの重さがあった。


「いた」

思わずそう漏らすと、マラがすぐ首を振った。

「まだ一つです」


その言い方の意味は次で分かった。

泥の縁のさらに奥、ほとんど同じ高さで、もう一つ小さな頭部が覗いたのである。こちらはさらに細く、落ち着きがない。成体の陰から出ては引っ込み、また出る。

家族単位か、少なくとも成体と若い個体が近くにいる。


幼い個体の位置を見た時点で、少なくともその瞬間、こちらは獲物ではなく障害として測られていると考えるほうが自然だった。


ランタンの火はなお青く細い。

成体と思しき個体が、ごく低い位置で喉を鳴らした。声というより、湿った木を擦り合わせたような短い響きである。それに応じるように、若い個体が泥へ腹をつけ、水際を滑って水へ戻った。成体はすぐには動かず、首だけをこちらへ向けている。

その目を見たとは書かない。夜の水辺で眼を見たと書きたがる記録は信用しにくい。だが、こちらの灯火と舟の位置と岸までの距離を、相手が測っていることだけは分かった。


次の瞬間、水面の反射がふっと戻った。

ランタンの火も黄を取り戻す。成体の姿はもうない。消えたというより、水路そのものへ溶けたような去り方だった。水音は残らない。ただ、少し遅れて、さきほどと同じ平たい切水音が二度、葦の向こうで続いた。


観測としては短い。

だが初夜としては十分だった。私はその場で、見たものを無理に整理しないことにした。何かに似ているという比較は便利だが、最初の印象を狭める危険もある。確かなのは、対象が岸と水の境目を強く利用していること、そして灯火の異常が対象の出現と時間的に密接していることだけだった。


帰路、舟の上でマラが珍しく先に口を開いた。

「先生、あれを捕まえたい人も前に来ました」

「大学の人間ですか」

「違います。商人みたいな人たち。火を売れると言ってた」


私はしばらく返答できなかった。

未知の灯火変調、反射異常、夜間水路での誘声現象。大学の側がそうしたものを喜びそうだと思ってしまったからである。


「どうなりました」

「セラが追い返しました」

「どうやって?」

マラは少しだけ笑った。

「潮の時刻を教えなかっただけです」


そのやり方はいかにもこの土地らしかった。

大げさな対立もいらない。水辺では、時刻と道筋を知っている者のほうが強い。


宿へ戻ってから、私は第一次観測の整理を行った。


一、対象は水陸両用の水辺性幻獣である可能性が高い。

二、成体と若い個体が同時に確認され、少なくとも小規模な家族単位で行動しているらしい。

三、活動地点は、流れの折れ返し、古い杭や水門の残骸、浅い泥縁など、境界条件の複雑な場所に偏る。

四、灯火の青化と水面反射の欠落は、対象の出現と時間的に近接している。

五、返す声と呼ばれる音響は、対象そのものの発声か、対象の移動と地形条件が組み合わさった二次現象か、現段階ではなお保留する。


この章でも、大学はおそらく火の変調ばかりを知りたがるだろう。

だが私にはすでに別のことが見え始めていた。

彼らは火へ寄っているのではない。人間の火が、水と泥と流れの折れる場所で営まれている彼らの生活へ、偶然触れてしまっているだけなのだ。


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