1 変化
「よぉ、お嬢さん」
彼はまた見知らぬ路地裏に現れた。煉瓦の石畳に立て膝をつき、私を見つめる。漆黒の瞳がきらりと煌めいた気がした。
私もその場に尻を着くと彼と視線を合わせる。そう言えば名前を聞いていなかった。
「私は不知火紅葉です。貴方の御名前は?」
「霊界堂要智。“霊界堂”はあの世のお堂って書いて、“要智”は要に知識の方じゃない智って書く。まぁ気軽に“要智”って読んでくれりゃあいいよ」
分かんねぇか……。と彼は苦笑いした。
霊界堂と要智の要は分かったが、知識のチが分からない。だが呼び名があると言うことは便利である。流石にずっと“あの人”呼びは失礼だろうから。
「貴方は誰かの“記憶の断片”と言いましたが、“記憶の断片”ってこう……しょっちゅう夢に出て来れるようなものなんですか?」
改めてこの、“霊界堂要智”について考えて見ることにした。
恐らく彼はこの世に存在していない。していたらある意味で凄い超能力かもしれないが。
それに“記憶の断片”。誰かの記憶にあるものが夢に現れたら、この世の人類はほぼ毎日何かしら夢を見る。だが現実はそうではない。
だから……知りたい。“記憶の断片”について。
「いや……? そう簡単には現れられない。俺はかなりレアケースだな」
顎を下に引く。其れには同意出来る。
何だかレアケースとはいえ、一度あることは二度あるというように、三度目もありそうだな……。
私は真っ直ぐに要智さんを見つめ、しげしげと観察。断片と言いつつはっきりとした人の形を保っている。
……そう言えばこれは私の夢だった。ある程度は私の想像で補われているのかもしれない。
「おっと……。そろそろ目覚めの時間だ」
その言葉を合図に私は現実に引き戻された。カーテンの隙間から朝日が漏れている。どうやら起床時刻のようだ。
私は体を引きずるように起き上がると、隣で眠る塊を見た。『眠る』と言っても寝たふりだろうが。
「塊……?」




