13.寂しそうな人
その日、庭で花の手入れをしていたリーゼが顔を上げると、見知らぬ青年と話しているヴィンセントの姿が見えた。
背が高い。
銀色の髪が、光を受けてきらりと光っていた。
リーゼは立ち上がり、土のついた手をエプロンで軽く拭った。
「リーゼ、こちらへ」
呼ばれて近づくと、青年の顔がはっきり見えた。
知らない人——のはずだった。
青い瞳。銀色の髪。
どこかで見たことがある気がした。
でもどこで、いつ——靄がかかって、それ以上は思い出せなかった。
「甥のアシュリードだ」とヴィンセントが紹介した。
アシュリードとリーゼの視線が合う。
「リーゼです。ヴィンセント様の娘です」
青年は少し目を細めた。
それからやわらかく「アシュリードだ。よろしく」と言った。
笑っていた。
でも、どうしてだろう。
その笑顔が、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。
夕食は四人で食卓を囲んだ。
エレナが腕によりをかけた料理が並び、ヴィンセントとアシュリードが静かに話をしている。
難しい話が多かったけれど、リーゼはその横顔をぼんやりと見つめていた。
よく笑う人だと思った。
理由は分からないが、彼から視線を外すことができなかった。
ふと、アシュリードの目から涙がこぼれ、その涙を見て悲しくなった。
気づけばリーゼはハンカチを手にし、そっとアシュリードの頬に流れた涙をぬぐう。
アシュリードは驚いたように目を見開き、それからゆっくりと微笑んだ。
さっきまでとは違う、どこか張り詰めていたものがほどけたような、柔らかくて暖かい笑顔。
アシュリードが少しでも楽になってくれたらいいのに、そう思うだけで胸がいっぱいになった。
食事が終わると、アシュリードが「庭を見てもいいか」と言った。
ヴィンセントに案内を促されたため、リーゼは頷いて席を立った。
「この黄色いの、レンギョウって言うんです。春になると一番に咲くんですよ」
リーゼが話すと、アシュリードは黙ってついてきた。
大きな木の下に来た時、アシュリードがふと立ち止まった。
庭を見渡しながら、何も言わない。
「お花が、好きなんですか?」とリーゼは聞いた。
「……昔、よく見ていたから」
それだけ言って、また黙った。
昔。どこで。
リーゼは聞こうとして、やめた。
アシュリードの目が、少しだけ遠くを見ていたから。
しばらく二人で庭を眺めた。
なんだか懐かしい気がしたが、何が懐かしいのかわからなかった。
「この花は、あなたがお世話をしているんですか」とアシュリードが聞いた。
「ヴィンセント様と一緒に」とリーゼは答えた。
「最初は枯らしてばかりだったけど、今はだいぶ上手になりました」
「そうか」とアシュリードは言った。
それから小さな声で「変わらないな」と呟いた。
どういう意味だろうか。
リーゼにはよくわからなかったが、なんとなく頬が温かくなった。
帰り際、アシュリードがリーゼの方へ来た。
「手紙を書いていいか」
唐突な言葉にリーゼは少し驚いたが、すぐに頷いた。
「叔父上への手紙に、一言添えるが……返事はいらない」
そう言ってアシュリードは扉の方へ向かった。
数日後、ヴィンセントへの手紙の中に、短い一文が添えられていた。
===========
庭の花、きれいでした。
リーゼ殿によろしくお伝えください。——アシュリード
===========
リーゼはその一文を何度も読み返した。
きれいな文字だった。丁寧で、整っていて、書いた人の誠実さが滲み出るような文字。
返事はいらないと言っていたけれど、返事を書きたいと思った。
何を書こうか考えながら、リーゼはペンを手に取った。




