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13/24

13.寂しそうな人

その日、庭で花の手入れをしていたリーゼが顔を上げると、見知らぬ青年と話しているヴィンセントの姿が見えた。



背が高い。

銀色の髪が、光を受けてきらりと光っていた。


リーゼは立ち上がり、土のついた手をエプロンで軽く拭った。



「リーゼ、こちらへ」

呼ばれて近づくと、青年の顔がはっきり見えた。


知らない人——のはずだった。


青い瞳。銀色の髪。

どこかで見たことがある気がした。

でもどこで、いつ——靄がかかって、それ以上は思い出せなかった。



「甥のアシュリードだ」とヴィンセントが紹介した。



アシュリードとリーゼの視線が合う。


「リーゼです。ヴィンセント様の娘です」


青年は少し目を細めた。

それからやわらかく「アシュリードだ。よろしく」と言った。


笑っていた。

でも、どうしてだろう。

その笑顔が、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。



夕食は四人で食卓を囲んだ。

エレナが腕によりをかけた料理が並び、ヴィンセントとアシュリードが静かに話をしている。


難しい話が多かったけれど、リーゼはその横顔をぼんやりと見つめていた。


よく笑う人だと思った。

理由は分からないが、彼から視線を外すことができなかった。


ふと、アシュリードの目から涙がこぼれ、その涙を見て悲しくなった。

気づけばリーゼはハンカチを手にし、そっとアシュリードの頬に流れた涙をぬぐう。


アシュリードは驚いたように目を見開き、それからゆっくりと微笑んだ。

さっきまでとは違う、どこか張り詰めていたものがほどけたような、柔らかくて暖かい笑顔。


アシュリードが少しでも楽になってくれたらいいのに、そう思うだけで胸がいっぱいになった。




食事が終わると、アシュリードが「庭を見てもいいか」と言った。

ヴィンセントに案内を促されたため、リーゼは頷いて席を立った。



「この黄色いの、レンギョウって言うんです。春になると一番に咲くんですよ」


リーゼが話すと、アシュリードは黙ってついてきた。


大きな木の下に来た時、アシュリードがふと立ち止まった。

庭を見渡しながら、何も言わない。


「お花が、好きなんですか?」とリーゼは聞いた。


「……昔、よく見ていたから」


それだけ言って、また黙った。


昔。どこで。

リーゼは聞こうとして、やめた。

アシュリードの目が、少しだけ遠くを見ていたから。



しばらく二人で庭を眺めた。

なんだか懐かしい気がしたが、何が懐かしいのかわからなかった。



「この花は、あなたがお世話をしているんですか」とアシュリードが聞いた。


「ヴィンセント様と一緒に」とリーゼは答えた。

「最初は枯らしてばかりだったけど、今はだいぶ上手になりました」


「そうか」とアシュリードは言った。

それから小さな声で「変わらないな」と呟いた。


どういう意味だろうか。

リーゼにはよくわからなかったが、なんとなく頬が温かくなった。



帰り際、アシュリードがリーゼの方へ来た。


「手紙を書いていいか」


唐突な言葉にリーゼは少し驚いたが、すぐに頷いた。


「叔父上への手紙に、一言添えるが……返事はいらない」


そう言ってアシュリードは扉の方へ向かった。



数日後、ヴィンセントへの手紙の中に、短い一文が添えられていた。


===========

庭の花、きれいでした。

リーゼ殿によろしくお伝えください。——アシュリード

===========


リーゼはその一文を何度も読み返した。

きれいな文字だった。丁寧で、整っていて、書いた人の誠実さが滲み出るような文字。


返事はいらないと言っていたけれど、返事を書きたいと思った。

何を書こうか考えながら、リーゼはペンを手に取った。




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