第四章、モンタギュー・激昂6
「――ッ! ぐ……」
突然の閃光が上がり、モンタギューがその場で膝を着いた。背中から煙が立ち上がっている。モンタギューは痛みに負けて、とっさに右手を背中にやっていた。
「貴様! 何を!」
「何? どうして……」
驚きに声を上げるモンタギューとジュリ。その二人の視線を涼しげに受け止め、
「おや、流石。一撃だと思ったんですがね」
モンタギューを後ろから攻撃した男は澄ました顔で応えた。
パリスだ。パリスが左手を――呪術者の利き手をモンタギューに向けていた。
「ははっ! パリスの旦那! やっぱ、そうでなくっちゃ! やっちまえ! 俺も手伝うぜ! このヒモ外してくれ!」
ティバルトが俄に元気を取り戻し、長い足を床に何度も叩きつける。
「役立たずは、そこで黙って見ていたまえ。ティバルトくん」
「貴様! ティバルトと繋がっていたか? パリス!」
モンタギューが震える膝を押さえながら立ち上がった。おぼつかない足取りで、パリスに向き直る。それは見ようによっては、ジュリを背中にかばったかのようにも見えた。
「昔からうるさい男だ。君は」
パリスが更に左手をふるった。
「――ッ!」
モンタギューが宙を舞った。ジュリの足下に背中から落ちてくる。
「モンタギュー!」
「……本部長? どうなってんの……ジュリ……」
ジュリが思わず声を上げ、その声に壁の向こうの澪も声を張り上げる。
「パリスが裏切ったわ。てか、モンタギューは騙されていたみたい」
「……だから言ったじゃない……当てにならないわね……てか、本部長は大丈夫なの……」
「そうね。モンタギュー! 立てまして?」
「……」
だがジュリの声にモンタギューは応えない。背中から落ちて肺を打ったのだろう。乾いた音を喉から漏らしながら、モンタギューはそれでも直ぐさま立ち上がろうとする。
「……どうやら……騙されていたようだな、ワシは……」
声を絞り出そうとしてか、懸命に喉に力を入れてモンタギューは口を開いた。
「モンタギュー……」
ジュリの呼びかけを背にして、モンタギューはゆっくりとパリスに向かって歩いていく。
「クスリの元締めはあなたの方でしたか? パリス知事?」
ジュリはモンタギューの肩越しにパリスに問いかける。
「そうだよ」
そのジュリの燃えるような赤い瞳に射抜かれながらも、何処までもにこやかに享の都の主は答える。己に迫りくるモンタギューにはまるで関心を払っているように見えない。
「随分あっさりと、お認めで……」
「ここで執拗に言い逃れたり、無様に誤魔化したりしたら、君に嫌われるだろ? それに全ての始末をつけにきたんでね。今更知られても何ともないよ」
「……全て貴様の仕業だったか……」
無視される形になっていたモンタギューが、パリスの肩を掴んだ。相手を押さえたというよりは、そうしないと立っていられないようだ。
「そうですよ。君は単純だからね、モンタギューくん。利用しやすかったよ」
「利用だと……」
「ええ。利用しましたよ。最初から――禁呪法の制定の時からね」
「最初からだと? 人々の精神の健康を害する呪術……それを禁ずる法律を作ったのは……」
「呪術に対する人々の飢餓感をあおる為ですね。君の賛同のおかげで、法整備が楽にできたよ。改めて礼を言うよ。ありがとう、モンタギューくん」
「禁呪法で心ならずも痛めてしまったこの享の都……人々の祈りという栄養素のような力を吸い上げられなくなったこの享都。成長の力をなくしたこの古の呪術都市。それを呪術なしでも繁栄するように……知事と警察で力を合わそう……そう言っていたのは嘘だったか……」
「ええ、嘘ですね。ですが、享の都を愛しているのは、嘘じゃないですよ。その表現の仕方が、あなたと違うだけでね」
「――ッ! ワシの享都を、好きにはさせん!」
モンタギューが不意に鉄の得物を振り上げた。
「ふん」
だがパリスの左の掌の一突きでモンタギューの動きが止まる。
「……」
モンタギューが無言で膝から崩れていった。
モンタギューの背中に隠れていたパリスの表情。それがジュリの目に飛び込んでくる。
パリスのその表情は、もはや柔和とは程遠い――
「彼の無事を祈りたまえ、衛藤ジュリくん」
残虐な程の笑みを浮かべていた。




