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ロミオvs.ジュリエット To be, or not to be:As You Like It!  作者: 境康隆
第四幕、モンタギュー・激昂
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第四章、モンタギュー・激昂4

「ああ、しばらく警部と二人にしてくれ。衛藤ジュリも、もう少し預かる」

 数人の足音が執務室でした。そしてその指示の声が聞こえるや、やはり幾人の足音が外に出ていく気配がした。声の主はモンタギュー本部長で間違いないようだ。

 ジュリと澪が壁に耳を着け、その様子を探ろうとする。

「お前には、失望したぞ。ティバルト」

「け……」

 弱々しい声で応えたのは、ティバルトのようだ。

「それと……もう起きているのだろう? 衛藤ジュリ、入ってきたらどうだ?」

 そのモンタギューの声は、明らかに控え室に向かって発せられていた。控え室の中でジュリと澪が互いに目配せする。ジュリが頷き、澪が扉から身を離した。

「こんにちは。モンタギュー本部長」

 ジュリ一人で自然に、控え室の扉から本部長の広い執務室に出ていく。見るとイスに縛られ、ティバルトが机の前に座らされていた。その前に悠然とモンタギューが立っている。

「ふん。やはり狸寝入りだったか、衛藤ジュリ?」

「てめぇ? 衛藤ジュリ! 生きてやがったか?」

「まぁ? 本部長様は、そこの下衆のように、驚いて下さらないの? 文字通り心臓も止まるような、命懸けのショーでしたのに?」

「現場の刑事は誤魔化せても、このワシの目は誤魔化せん」

 ゆっくりと近づいてくるジュリを、モンタギューが無骨な顔で自慢げに笑って迎えた。

「それは失礼を。少々見くびっておりましたわ」

「さて、衛藤ジュリ。何を企んでいる? 吐いてもらおう」

 モンタギューが己の左手で指を鳴らした。その瞬間に部屋の四方から甲高い音がする。

「金属音? カギをかけましたわね」

 ジュリが辺りを見回した。音がしたのは、窓とドアのカギ付近だった。

「その通り。もう一人こそこそと隠れているようだが。どの道これでは逃げられはせんだろう」

「内側にいる人間に、カギが何の役に立つというのでしょう?」

「鉄の呪術使いであるこのワシに、この距離で意のままにならない金具などない」

 控え室の方からがちゃがちゃと音が聞こえてきた。

 モンタギューの言葉通りなのか、澪が開かなくなったドアノブを廻しているようだ。

「砂鉄も――という訳ですわね」

「砂鉄? 確かに砂鉄など、雑作もないが。はて、何の話かな?」

「おとぼけを」

「まぁ、いい。その話も後で聞かせてもらおう……」

 モンタギューがおもむろに、己の事務机に手を置いた。

 手を置いた瞬間から、めりめりと机の天板がめくり上がる。

 弾けとんだ天板の下から現れたのは、机の引き出しとその足だ。机の金属の部品が捩じれながら浮き上がってくる。中身をこぼしながら、めりめりと音を立てて机が捩れていった。

「大紋宮の名に懸けて――」

 机は雑巾でも絞るかのように、鋭利な尖端を作りながら空中で捩じれていく。

「キャピキャピレッド団とやらは、今日で解散だ」

 巨大なドリル状となった机の塊を空中で軽がると掴み、モンタギューが不敵に笑った。



 その男は鋭い顔つきをしていた。

 身の丈にあったダークスーツ。そのスーツから垣間見える眩しい程の白いシャツ。奇麗に整えられた髪。胸ポケットに刺した薄い紫の――享の都のシンボルカラーのハンカチ。同じ色で揃えたネクタイ。丹念に磨かれた革靴――

 装いにまるで隙がない。外見からして人望を集めるだろう。

 特にその顔。刃物とも捉えられそうな印象的な鋭い顔の作りながら、意識して笑みを浮かべていているようだ。そしてそれが決して無理をしている訳でも嫌みになっている訳でもない。むしろ前向きに努力していることを人々に無意識に知らしめている。

 第一印象でその鋭さに怖じ気づかされる分、そのことが誰しもに好印象を与えていた。そしてその微笑みに笑みを返したくなる。

 だからその鋭い顔つきにかかわらず、誰もがその男に抱く印象は――柔和だった。

 実際今も廊下を歩いていると、すれ違う誰もがその身を尊敬に固くして立ち止まった。それでいながら会えたことに頬を緩めてしまう。

 特に女性職員は頬を軽く染める者すらいる。中には胸に痛みでも走ったのか、思わず心臓を押さえてしまう者もいた。まるで心臓に雷でも落ちたかのようだ。

「あのどちらへ……」

 話のきっかけが欲しかったのか、それとも己の職務を思い出したのか、一人の女性職員が顔を赤らめながらも思い切って声をかけた。

 そう、その男がここにいるのは不自然だったからだ。しかもそれは今日二度目だった。

「ああ、忘れ物さ。さっきのね」

 男はそう言うと、ウィンクまでしてみせる。立ち止まったエレベータ前で、ボタンを押しながらにこやかに振り返った。

 この女性職員もやはりとっさに胸を押さえてしまう。背筋に電気でも走ったかのように、身を縮めて強ばらせた。

「……は、はい……」

 女性職員の熱に浮かされたようなその返事に、

「ああ、それと。誰もフロアに立ち入らないようにと、言っておいてくれないかい。大事な話もあるんでね」

 鋭く柔和な男は最上階へと、享都府警本部のエレベータの向こうに消えた。

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