表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死者の記憶を食べる検屍官、自分を殺した犯人を追ううちに七つの未解決事件の真相に辿り着く  作者: ぽんぽこライフ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/75

七本の糸

 四人が集まったのは、薫の大学病院の研究室だった。神崎の監視を避けるためだ。


 冴、嶋田、安西、薫。ホワイトボードに七つの事件が時系列で並べられている。安西が持ち込んだノートパソコンに、仲村が残した暗号化ファイルのデータが展開されていた。


「全部繋げよう」


 冴が言った。


 嶋田がホワイトボードの前に立ち、マーカーを取った。


「第一。藤原美咲。二十三歳。東栄製薬の元インターン。臨床試験部門に配属されていた。被験者データに触れた可能性がある。交通事故死に偽装されたが、実際は車内で首を絞められた後に道路に飛び出し轢かれた」


「第二」


 安西が引き継ぐ。


「柏木亮太。二十八歳。IT企業のセキュリティエンジニア。東栄製薬のシステム保守を外注で担当。作業中に鏡花プロジェクトのサーバーに残っていたデータを偶然発見した。検索履歴に『鏡花』『残留記憶』『被験者リスト』。ビルの屋上から転落死」


「第三。園部真司。東栄製薬の創薬研究部、神経系の研究員。プロジェクトの周辺データにアクセスし、大容量ファイルを送信しようとしていた。鎮静剤で眠らされた後に溺死、河川に遺棄」


 薫が続ける。


「第四。関口義人。元警察官の私立探偵。退職後に鏡花プロジェクトの調査に着手。御堂孝之を調査対象としていた。刺殺。手帳に『能力者は二人いる。一人は朽木冴』」


「第五。水野遥。フリージャーナリスト。鏡花プロジェクトの取材を進めていた。御堂の研究室で面会後に毒殺。東栄製薬開発のトリカルバゾン系鎮静剤を使用」


「第六。仲村明日香。東栄製薬広報部。元臨床試験部門。被験者データを持ち出そうとして社内で制裁を受けた後、鎮静スプレーで意識を奪われ放火。ただし暗号化ファイルをクラウドに退避させていた」


「第七。高梨昇。ノンフィクション作家。関口の調査を引き継ぎ、鏡花プロジェクトの暴露原稿を執筆中。鎮静剤吸入後に絞殺。記憶に能力者による干渉の痕跡」


 嶋田がマーカーを置いた。


 七つの名前がホワイトボードに並んでいる。その全てから、一本の赤い線が中央の一点に収束している。


「鏡花プロジェクト」


 冴が言った。


「全員が、鏡花プロジェクトの存在に触れた。インターンとして。エンジニアとして。研究員として。探偵として。記者として。内部告発者として。作家として。七人の方法は違うが、辿り着いた場所は同じだ」


 安西がノートパソコンの画面を見せた。


「事件の日付を並べます。第一が十年前。第二が七ヶ月後。第三が五ヶ月後。第四が十一ヶ月後。第五が十三ヶ月後。第六が七ヶ月後。第七が五ヶ月後。間隔は――」


「七、五、十一、十三、七、五」


 嶋田が眉を寄せた。


「素数だ。全部素数。だが規則性がない」


 冴が首を振った。


「規則性はある。これは犯人の精神状態の周期だ」


 三人が冴を見た。


「鈴音の能力は冴より三倍から五倍強い。だが制御できない。能力が暴走すると精神が崩壊し、一定期間は行動不能になる。殺人を実行すること自体が能力の暴走を引き起こす。回復に素数月かかるのは、彼女の脳の処理周期がそうなっているからだ」


 薫が口を開いた。


「鏡花プロジェクトの被験者データを見たわ。被験者02の脳波パターンには素数に対応する特異な周期性がある。通常の人間の脳波にはない特徴。実験で植え付けられたものなのか、元々の特性なのかは分からないけれど」


「それで、間隔が短くなっている点は」


 安西が画面を指差した。


「最初の三件は七、五、十一。十一ヶ月の長い回復期間がありました。でも後半は十三、七、五。最後の二件の間隔が七ヶ月、五ヶ月と急速に短くなっています。そして冴先生が刺されたのは第七の事件から三ヶ月後。三も素数ですが、過去最短です」


 沈黙が落ちた。


 冴が言った。


「鈴音の制御が効かなくなっている。回復に必要な時間が短くなっているのではなく、回復しきる前に次の行動に移っている。精神の崩壊が加速している」


 嶋田がホワイトボードに新しい線を引いた。七つの事件の間隔を時間軸上にプロットする。右に行くほど間隔が狭まり、最後はほとんど圧縮されている。


「このまま行くと、どうなる」


「制御不能になる。次の行動が素数月を待たずに起きる。あるいは、能力そのものが暴走して鈴音の身体を壊す」


 薫が冴の腕に触れた。


「冴。鈴音さんがあなたに会いに来たのは、時間がないからなのね」


 冴は頷いた。


「鈴音は自分の限界を知っている。だから今、急いでいる。記憶を渡したい。全てを私に託したい。壊れる前に」


 四人は黙ってホワイトボードを見つめた。七本の糸が一点に収束し、その先に鈴音という名前がある。加害者であり被害者である女性。二十五年間、白い部屋から出られなかった子ども。


 嶋田が腕を組んだ。


「俺たちに残された時間も長くない。神崎は包囲網を狭めている。安西への行動記録要求、俺の左遷、朽木先生への精神鑑定の噂。全部、証拠を潰すための布石だ」


「だからこそ今、全てを繋ぐ」


 冴はホワイトボードの中央に大きく円を描いた。その中に二つの名前を書いた。


「実行者、高宮鈴音。指示者、神崎怜司」


「この構図を証明するには何が要る」


「鈴音の証言。神崎との通信記録。仲村が残した内部資料。七つの事件の法医学的再鑑定。そして――」


 冴は自分の胸に手を当てた。


「私が食べた記憶。七人分の死の記録」


 窓の外が暗くなっていた。薫の研究室の蛍光灯が四人の顔を白く照らしている。


 安西がパソコンを閉じた。


「仲村のデータの精査を急ぎます。神崎に気づかれる前に、全ての物的証拠を安全な場所に複製します」


「俺は警察内部の協力者を探す。神崎に疑問を持っている人間は必ずいる」


 薫が立ち上がった。


「法医学的再鑑定の報告書を、第一から第七まで全て揃えるわ。裁判で使えるレベルのものを」


 冴は三人を見回した。


「ありがとう」


 嶋田が肩をすくめた。


「礼を言うのは全部終わってからだ、朽木先生」


 四人が部屋を出た。廊下は静かだった。冴は最後に出て、振り返ってホワイトボードを見た。


 七つの名前。七つの死。そして、一つの名前に収束する全ての糸。


 間隔は短くなっている。時間は残されていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ