第十三話 バラされた真実
そうしてティザー王国の刺客たちはすべて捕らえられ、大広間の騒動はようやく鎮火しようとしていた。
ティザー王国からは王太子とその妃がパーティーに出席していて、騒動が始まってすぐに逃げようとしていたのを、裏口にいた我が国の第三王子、ロナード王子とその護衛や兵士たちが取り押さえていた。
わたくしがこっそり閉じていた正面扉も、今は中から開かれているわ。
「キャスティーヌさま、他にお怪我は?」
アネリに手を貸してもらいながら、わたくしはようやく立ち上がった。
死ぬ前にと色々ぶっちゃけてしまったから、とても恥ずかしいわ。
でも普段は運動不足なのに広間内を走りまくったせいか、膝がガクガクしてしまってぜんぜん立てなくって。
「キャスティーヌ、お前は……」
複雑そうな顔でこちらを見ているのは、ライネス王子だった。
気のせいかもしれないけれど、その金の瞳がいくらか潤んでいるようにすら見える。
わたくしはなんて声をかければいいのか分からない。
その苦悩に満ちた瞳に見つめられていると、秘めたままでいようと決めた恋心で、胸の奥が切なくなってきてしまって。
「あの、ライネスさま、わたくしをクビにしたあとは、是非このアネリを護衛に……」
「ああいや、その件はっ……」
ライネス王子が手を上げてわたくしの言葉を遮ったとき、兵士たちに拘束された一人の召喚士が連れてこられた。
服装からするとティザー王国の宮廷召喚士だった。
「ライネスさま、この者が話があると」
「なんだ、申してみよ」
するとその召喚士がうなだれていた顔をサッと上げる。
「あっ!」
それは先日、真夜中にわたくしの部屋を訪れた女だった。
「ライネス王子、良いのですか? その女を許して……」
怒気をはらんだ、振り絞るような声だった。
そしてその上目づかいの目線は、わたくしに向けられている。
な、まさか……その女って、わたくしのこと!?
「この大広間の正面扉に閂をかけたのはその女です。今回の奇襲を成功させようと、外の召喚士や兵士が加勢に来るのを少しでも遅らせるために」
なななな、なんでそんなことをバラすのよぉぉぉ!
「正面扉に閂、だと……? キャスティーヌが?」
そのライネス王子のつぶやきを聞きながら、わたくしは目をつむった。
やっぱりね。
所詮、わたくしは主人公じゃない、脇役の悪役令嬢なの。
最後は断罪されるって決まっているのよ……。
すべてを諦めきったわたくしの耳に、鋭い声が届いた。
「今よ!」
目を開けるとテーブルがひっくり返る音と共に、ライネス王子の後方から緑の大きな影が飛びだしてきた。
なっ、えっ、ワイバーン!?
とっさに背後を振り返り、鞘に戻していた剣を抜こうとするライネス王子。
そしてその足元に、白っぽい何かが転がり出る。
いえ、白でなくクリーム色の……マロン!?
「なっ、マロン、ダメよ! 逃げなさい!」
マロンは何を考えたのかライネス王子の前に立ちはだかり、そしてワイバーンに向かって飛びかかっていった。
そんな、ワイバーン相手に無茶だわ!
あのキマイラだって傷をつけるのがやっとだったのよ!?
「キャンッ!」
恐れていたとおり、ワイバーンが腕を一振りしただけで、マロンの小さな身体はボールのように飛ばされてしまった。
「ああっ、マロン!」
なんてこと、わたくしの可愛いマロンが!
わたくしは怒りで頭の中が真っ白になった。
そして気がつけば、すぐそばに転がっていたワインボトルを片手に、ワイバーンの前に立っていた。
「わたくしのマロンに何すんのよ!」
その恐ろしく鋭い牙を見せるワイバーンの鼻先に向かって、思い切りワインボトルを振り下ろす。
バッキーン!
ワインボトルは鈍い音と共に砕け散った。
その振動で腕が激しく痛む……けれども、よりダメージを受けたのはワイバーンの方よ。
そう、わたくしは知っているの、ワイバーンの弱点が鼻先だってことを。
なにせゲームの中では剣を手放してしまったライネス王子が、素手でワイバーンの鼻先を殴って撃退しちゃったんだから。
「ギャギャッ!」
ワイバーンは身体を丸め、後ずさる。
わたくしはそのワイバーンに向かって、割れたワインボトルの先をつきつけた。
「いい? 今度またわたくしのマロンに手を出してみなさい、ただじゃおかないわよ! マロンを本気にさせたら大変なんだから。おぞましくもすさまじい本来の姿を取り戻して、この大広間どころか城全体をメチャクチャにしてしまうのよっ!」
ワイバーンは唸りながらわたくしをにらみつけたものの、わたくしも負けずと睨み返す。
すると背後からあの女の「もういいわ……」という敗北のつぶやきが聞こえ、ワイバーンはおずおずと退いた。
それを確認してから、わたくしは急いで吹っ飛ばされたマロンを探す。
するとマロンは飛ばされた先の床にふせたまま、ビックリしたように耳をピンと立ててわたくしを見つめていた。
「マロン!」
駆け寄って抱き上げる。
マロンは嬉しそうに尻尾を振ってわたくしの頬を舐めてきた。
ああ良かった……これなら大きな怪我はなさそう。
わたくしは毅然とした顔を作って、ライネス王子を振り返った。
「その女の言うとおり、正面扉の閂を締めたのはわたくしですわ」
ライネス王子はなぜかビックリした顔をしていたけれど、わたくしの一言を聞いて鋭い眼差しを取り戻した。
「けれどもティザー王国に手を貸すつもりはありませんでした。クビは決まっていようとも、わたくしはライネスさまの護衛を務める宮廷召喚士に他なりませんから」
「……では、なぜだ?」
「それは先ほど申したことと同じです。万が一、このマロンが本気を出してしまったら、敵味方関係なく、そりゃもうこのお城全体に甚大な被害がでます。その被害を少しでもおさえるべく、正面扉を閉じておいたのです」
「それは……しかし各国の国賓や私の弟たちが逃げ遅れるとは考えなかったのか?」
ライネス王子の問いに、私は同意するようにうなづいてから口を開く。
「ですからわたくしはカインさまたちに裏口から逃げるよう誘導させていただきました。確かにリスクはありましたが、各王子に付いている護衛の宮廷召喚士はみな、非常に優秀ですから。ですのでマロンが本来の凶暴さで城内をメチャクチャにしてしまうリスクと天秤にかけ、大広間内で収めることを選んだのです」
毅然とした態度は崩さずにそこまで言い切る。
ああ、やっぱりわたくしは主演女優賞、間違いなしだわ!
一人では抱えきれない苦悩を抱えた、女召喚士ってところかしら?
……あら、わたしとしたことが、うっかりしていたわ。
主演女優賞ではないわよね。
わたくしは所詮、悪役令嬢ですもの。
最優秀助演女優賞で我慢してあげる。
そんなわたくしの迫真の演技で、ライネス王子の表情も険を含んだものから、当惑のそれへと変わっていった。
「なるほどな……確かにお前はアネリを、そして私を助けてくれた。ティザー王国に手を貸すつもりなら、そんなことをするはずがない」
そのライネス王子の言葉が終わるか終わらないかというところで、わたくしの胸元からマロンが飛び降り、どこかに走って行ってしまう。
行き先は……またもやワイバーン!?
「マ、マロン!?」
マロンは身体をふせて降参ポーズをとっていたワイバーンの前に走って行くと、何を思ったのか、そのワイバーンの鼻先をチロチロと舐め始めた。
えっ、そこ……わたくしがワインボトルで殴ったところじゃない?
「おお、なんと寛大な! チワワがワイバーンを許すと言っておるぞ」
誰かが感心した声をあげ、感動を含んだようなどよめきが周囲に広がっていく。
そしてあのティザー王国の召喚士であるフードの女は、悔しげに顔を伏せると「なんと懐深い……完膚なきまでに私たちの負けでございます」と完全降参したのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
本編はあと二話で終わる見込みですが、明日は番外編としてライネス王子視点の話を投稿予定です。
ただ一話にするには長くなってしまいまして……上下編で2回に分けて投稿するかもしれません。
とりあえず土曜日には完結させようと思ってます。
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どうぞ最後までよろしくお願いします。




