第七話 二階層の秘密
「順調順調!」
朝から俺はご機嫌だった。
配信も思った以上に反響が良く、登録者数も一日で千人を超えていた。流石に朝確認したときにはビビったが、どうやらSNSで拡散されたらしい。
うちの式神たちは可愛いからな。そうだろうそうだろう。
「蒼真、朝から機嫌いいね。気持ち悪い」
「ちょっと怖いね」
雷華たちからの辛辣な評価も今日は全く刺さらない。配信者が溢れるこの時代に、一日で千人だぞ?
俺は笑いを堪えることができず、終始ニヤついていた。
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「今日は二階層に行こうと思います!」
赤いランプの灯ったカメラに向かって俺が写ると、『雷華ちゃんは?』『女の子を見に来たのに、男が見えるんだが』というコメントが流れて行く。
「まぁまぁ、俺の式神たちが可愛いのも分かるけど、まずは俺の話を」
俺と言う単語を強調した俺の言葉に、面白いほど視聴者が踊る。
『うぜー』『チャンネル解除しまーす』
「お、チャンネル登録してくれてたの?ありがとう!」
『こいつ全然響いてなくて草w』『流石式神使いww』
配信を開始するなり来てくれた視聴者と話していると「蒼真まだー?」「配信来てくれて嬉しいのは分かるけど、早くしないと日が暮れるよ」と雷華たちが声をかけて来た。
「うちの子たちが煩いので、早速いきたいと思います!」
『こいつ、自分の式神だと主張し続けててうぜぇwww』
流れていくコメントを見て笑いながら、配信の画面から目の前のダンジョンへと視線を戻した。
「二階層行くぞーっ!」
勢いよく駆け出していく雷華を俺と風華で後を追う。時折襲いかかってくるゴブリンとスライムは例の如く瞬殺だった。
「雷華浮かれすぎ。怪我するよ?」
「私、神だよ?するわけないじゃ、あっ!」
ドテンという間抜けな音を響かせて、雷華が転けた。ダンジョンの地面は石だ。派手に擦りむいており、血が滲んでいる。かなり痛そうだ。
「痛いぃぃぃ」
「言わんこっちゃない……」
風華がはぁと顔を抑え、ため息をついた。俺は小型カメラを肩へと取り付け(昨晩、説明書を読んでいたら肩に取り付けられることが判明した。流石ダンジョン配信用カメラ)、雷華の足元に座り込んだ。
「こりゃ、また見事に転けたな」
「蒼真ぁ、治してぇ」
半泣きで見つめてくる雷華のおでこをピンッと弾く。
「気をつけろって風華に言われたろ?」
「そんなこと言ったってぇ」
俺は雷華の足に向かって手をかざし、集中する。掌に集まった霊力が雷華の細胞を活性化させ、あっという間に傷が塞がった。
「ん、これでよし」
「ありがとう」
「おう。報酬前貸しな」
「えぇー⁉︎」
「当たり前だろ、ちゃきちゃき働け」
ぽんっと頭を撫でて立ち上がる。ついでに霊力も少しだけ送ってやった。それを感じた雷華の顔がパッと明るくなったが、俺はすかさず釘を刺した。
「ダンジョンで油断したら死ぬぞ」
「……反省します」
しゅんとした雷華に手を差し伸べて立たせる。ばしんと背中を叩くと、面白いぐらいにぴんと背中が伸びる。
「ほら、早くいくぞ」
「はーい!気をつけます!」
「切り替えはや!」
そんな俺らのやり取りを見て、『俺たちは何を見せられている?』『リア充爆発しろ』『式神使いの顔が整ってるのがまたムカつく』というコメントが次々と書き込まれていく。
しかし、そんなコメントに紛れて『こいつ治癒師じゃなかったよな?』『なんで式神使いがヒール使えてんの?』という有識者による突っ込みも入っていたのだが、嫉妬に塗れた大量の怨嗟に押し流されていった。
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現在、俺たちは一階層と二階層の間にある階段で休憩をとっている。
階段はセーフティーゾーンとなっており、階下へ一歩踏み出したら戻れない。
ダンジョンの入口はどの階層も一箇所。そして、二階層以下は出口からしか上に戻れないらしい。
奥まで進むと階段が二つあって、上階への階段と下階への階段があると"誰でも分かるダンジョンの基礎"に書いてあった。
水分補給をしていると、そっと階下を覗き込んだ雷華が首を傾げた。
「ねぇ、なんか二階層暗くない?」
「二階層は真っ暗なんだよ。ライトの魔術がないと厳しい。電灯は何故か分かんないけど使えないんだってさ」
「えー……なら真っ暗のまま進むの?しかも配信できなくない?」
顔を歪めた雷華に、チッチッチッと俺は指を振った。
「雷華さんや、貴女はどなたでしょうか」
「雷神です……あ!」
「自分で電気を作れば問題なし!」
俺の言葉に、『本当か?』『いけんのか?』というコメントが流れる。
「行けるんじゃね?知らないけど。ダンジョンも神は止めれないだろ」
俺がコメントに答えている間に、「そっか!試してくる!」と目を輝かせた雷華が、「雷雲!」と言いながらビリビリと輝く雲を出し、二階層へと駆けて行ってしまった。
「ちょ、待て! 馬鹿!」という俺の言葉は雷と途端に埋め尽くされたゾンビの声で掻き消される。
「お゙お゙お゙ 」
ピカピカと光る雷に照らされ、光に反応したゾンビたちがこちらを向き、一斉に這い寄ってくる。
呻き声とぴちゃぴちゃと何かが落ちる音が辺りに満ちた。
「え、キモいんだけど!」
「ばか! 光と音に集まるに決まってるだろ!」
「そんなこと知らないよーぉ」
縋るように涙目で見られても、すでに雷華は二階層へと足を踏み入れてしまっている。雷華が戻って来られない以上、俺と風華が行くしかない。
「風華、行くぞ」
「うん」
俺たちは二階層へと足を踏み入れた。その瞬間、カメラの電源がプツンと切れてしまったが構っている余裕はない。
そうは言ったものの──どうしよう。あまりにもゾンビの数が多すぎる。次から次に集まってくるし、このままじゃ絶望的だ。
俺は周囲を見渡し、あることを思いついた。
「雷華! 左1キロ先、雷落とせるか?」
「え⁉︎ うん! 分かった!」
離れた場所でピカリと雷が光り、ドーンという轟音が響き渡る。その音に反応したゾンビたちは、ぞろぞろとそちらの方向へ方向転換し歩き出した。
こちらに向かってきた数体のみ、風華が風刃で切り刻んでくれる。
「あっぶなーい」
「お前……軽率すぎるぞ」
「ごめんなさい……」
何度目になるか分からないやり取りを繰り返す。配信のカメラも電源が落ちてしまっている。雷華の自家発電を試してみたかったが、今回は仕方ない。
俺の口元は緩んでいた。
何故なら、雷華のおかげで大発見もあったから。
「このまま左奥に進むぞ」
「ん? 出口は真っ直ぐじゃないの?」
「左奥に何か見えた気がすんだよ。ちょっと離れたところに定期的に雷落とせるか?それでゾンビを集めてくれ」
「分かった! 任せて!」
俺が頼むと、頼りにされた雷華が得意げに笑う。すぐに立て直すところが雷華のいいところだ。すぐに忘れるともいうけれど。
「この階層の攻撃は風華に頼んでもいいか? 雷華は目立ちすぎる」
「分かったわ」
カツカツという足音が響く。二階層はゾンビが這い回る音と、時折雷華が遠くに落とす雷の音しかしなくて少し不気味だ。
「ねぇ、何があるの?」とこそこそと話しかけてくる雷華に「ちょっとな」と笑う。
──おかしいと思ったんだよな。
ダンジョンといえば報酬。報酬といえば、モンスターを倒した時の魔石とごく稀に落ちるアイテムによるものがほとんど。
それなのに、この二階層では出てくるのはゾンビとスケルトンからは何も出て来ない。
つまり、それが意味することは──
「ねぇ、あれなに?」
「雷華の稲妻でぼんやり見えたんだ。お手柄だな?」
今までは広範囲で光を灯すやつがそもそもいなかったんだろう。
俺たちの目の前には、大きな洋館が建っていた。
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