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第十話 白狐の案内人

⸻⸻⸻⸻⸻⸻


 【速報】式神使いが配信デビュー 2


23:名無しの探索者

 ちょ、俺の雷華様に触んな式神使い

 

24:名無しの探索者

 霊力吸われたって言った?霊力って何?


25:名無しの探索者

>>24

 知らない。ダンジョンに潜って得る力とは別?


26:名無しの探索者

 ダンジョンにレベルはなし、いつのなにかスキルを習得。これ常識。霊力とか聞いたことないわ。


27:名無しの探索者

 風華様ブチギレでない?大丈夫こいつ


28:名無しの探索者

>>27

 この式神使いわざとやってんのか?うざいな

 

29:名無しの探索者

 地下の扉?なんだ?

 

30:名無しの探索者

 今鳥居が見えたよな?なんでダンジョンに鳥居?

 

31:名無しの探索者

 は? これ放送事故では? 消えたが?


 ⸻⸻⸻⸻⸻⸻


 漆黒の闇に浮かび上がる真っ赤な鳥居。

 血を吸ったような紅だった。

 

 俺は、その鳥居の前で一人立ち尽くしていた。


「なんだ? ここ……」


 周囲を見渡しても何も見えない。

 

 一寸先は闇とはこのことか——。


 ごくりと唾を飲み込んだ。


 その瞬間だった。


「はーい! 白狐(びゃっこ)白夜(びゃくや)です!」

「こんにちは。同じく白狐の白雪です」


 どこからか、この場には似つかわしくない幼い子供の声が聞こえた。片方は楽しげに声を弾ませ、もう片方は礼儀正しく落ち着いた声だ。


「……は?」


 緊迫感とのギャップが甚だしい。


 明らかに異常な状況だ。警戒を怠るべきではないのに、不思議と気が緩んでしまいそうになる。


 ──しっかりしろ、俺。


 息を詰め、周囲を伺った。


 確かに声は近くから聞こえる。それなのに、白狐と名乗った妖の姿は闇に阻まれ、どこにいるのかまるで分からなかった。


 ──どこだ、どこにいる。


 意味のないことだと分かりながらも、腰を低くし辺りを見渡した。


 護符を使おうかとポケットに手を突っ込んだときだった。


 ——シャン


 柔らかな鈴の音が響いた。

 ここにくる前に聞いた音ではない鈴の音。


「姉さま、ありがとー!」

「ありがとうございます」


 ——姉さまって誰だ?


 そう思った瞬間だった。


 先ほどまで全身を包み込んでいた漆黒の闇が、まるで最初から存在しなかったかのように霧散する。

 代わりに溢れ出したのは、目を開けていられないほど眩い光だった。


「眩しっ!」


 恐る恐る目を開こうとした、その時。

 間近で、衣擦れにも似た布が擦れる音が静かに耳へ届いた。


「どこだ、どこにいるっ!」


 思わず霊力を練り、周囲へと展開する。

 霊力は確かに何かを捉えた。だが次の瞬間、何者かに弾かれるように霧散した。

 

 辺りは水を打ったように静まり返り、キーンとした耳鳴りだけが嫌に大きく響く。

 その静寂を切り裂いたのは、不機嫌そうな声だった。


「何? いきなり。失格でいい?」

「失礼ですね」


 しばらくすると、ようやく目が明るさに慣れ、ぼやけていた視界が少しずつ輪郭を取り戻していく。目の前にいたのは、二匹の小さな狐だった。


 艶やかな白銀の毛並みは光を受けてきらりと輝いた。小さな身体を寄せ合う姿は愛らしく、ぬいぐるみのようだ。


——だが。


 二匹は全身の毛を逆立て、鋭い金色の瞳で俺を睨みつけていた。


「……すみません」


 思わず謝ってしまった。


 子供の妖狐。


 それは分かっている。


 妖狐とはいえまだまだ子供。本来であれば、俺の霊力で怯えるような相手ではない。


 それなのに──逆らうな。

 理屈ではなく、本能がそう告げていた。

 

 俺が展開させた霊力を二匹は触れた瞬間に霧散させた。それはつまり、俺よりも二匹の方が圧倒的に上ということで。


 こんなにも可愛らしい姿なのに——。


「分かればよろしい」

「いいでしょう」


 よろしいといいながらも、冷や汗が滲んでくるような威圧感は変わらない。


「あの、お二人は」

「白夜と白雪。言葉崩していいよ、っていうか崩して。聞いてるのめんどくさい」


 ——無茶言うなよ。


 そう思いながらも、そう言われて断る権利などこちらにはない。


「……白夜と白雪はなんでここに来たんですか……来たんだ?」


 語尾が敬語になった瞬間、白夜の鋭い視線が俺を射抜いた。慌てて言い直すと、白夜は満足そうに頷く。

 白雪は退屈そうに視線を逸らしているようでいて、その実、一挙手一投足を逃さぬよう俺を見極めていた。


 俺の問いかけに白夜が嬉し気に笑う。


「ふふん。知りたい? 知りたいよね?」


『ほら、早く知りたいと言え』とでも言いたげに催促する白夜に、俺は苦笑しながら「知りたい」と頷いた。


 それを見た白夜は、得意げに笑みを浮かべる。


「僕たちはね、挑戦者の案内人だよ」

「大事なお役目なの」


 それまでそっぽを向いていた白雪も、ようやくこちらへ顔を向けた。


「挑戦者……って何?」

「だから今から説明するんだって。せっかちだなぁ」


 ——理不尽だ。


 喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込む。白夜は「やれやれ」と呆れたように首を振ると、「まぁ座りなよ」と俺を促した。


 ——座りなってどこに?

 

 思わず首を傾げる。


 辺りを見回すと、真っ赤な敷物をしいた長椅子がいつのまにか現れていた。

 まるで時代劇に出てくる茶店のような長椅子だ。


「いつの間に……」

「気づいてなかったんですか? まだまだ甘いですね」


 コロコロとした高い声で、それでいて子供らしからぬ落ち着きを放ちながら、白雪が笑った。


「どんくさいなぁ。死ななきゃいいね?」

「そうね。せっかく来たお客様だもの」


 不穏なことを言った二匹は、ちらりと俺を見たあと、顔を見合わせてくすくすと笑いあった。


 真っ白な空間。

 浮かび上がる真っ赤な鳥居。

 場違いのように並べられた昔ながらの長椅子。


 そして——圧倒的な存在感を放つ、真っ白な二匹の小狐。


 俺に向けて、次々と非日常が襲いかかってくる。


 理解の範疇をとうに超えた光景に、俺は小狐たちに促されるまで、ただ呆然と立ちすくんでいた。


 

 

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