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EP 9

「ギルド本部に『突撃取材』してみた 〜隠し部屋の扉、全部開けますSP〜」

 翌日、正午。

 王都の中心にある冒険者ギルド本部前は、異様な熱気に包まれていた。

「おい、昨日の配信見たか?」

「ギルマスの音声流出だろ? マジで暗殺者雇ったのかよ」

「今日、アノニマスが来るって予告してたけど……」

 野次馬と冒険者たちでごった返す広場。

 ギルドの正面玄関は固く閉ざされ、武装した警備兵がずらりと並んでいる。

 その厳戒態勢の中――

「あー、テステス。……どうも、視聴者の皆様。ランチタイムに失礼するぜ」

 上空から、聞き覚えのある声が降ってきた。

 全員が見上げる。

 ギルドの時計塔の針の上に、黒衣の男と、銀髪の少女が立っていた。

「アノニマスだ!!」

「本物だぞ!」

 歓声とどよめきが起きる。

 俺はカメラに向かって手を振った。

「今日は予告通り、こちらの『ブラック企業』に労働環境の改善を訴えに来た。……アポイントメント? もちろん取ってない」

 俺は隣のリズに合図を送る。

「リズ、玄関の鍵(物理)を開けてくれ」

「はい、ボス! ……あそこですね!」

 リズが時計塔から飛び降りた。

 重力を無視した加速。銀色の流星となって、警備兵たちの頭上を飛び越える。

「邪魔ですぅぅぅ!!」

 ドォォォォン!!

 リズの『月狼の爪(ガントレット)』が、ギルドの巨大な鉄扉を粉砕した。

 爆風で警備兵たちが吹き飛ぶ。

 砂煙の中から、無傷のリズが「開きました!」とピースサインをする。

「ナイスだ。……さあ、『大人の社会科見学』の始まりだ」

          ◇

 ギルド内部はパニック状態だった。

「ひいぃぃ! 入ってきたぞ!」

「止めろ! 魔法部隊、撃てぇぇ!」

 職員たちが叫び、魔法使いが炎の矢を放つ。

 だが、リズはそれを素手で払い落とし、カウンターで職員を壁に磔(はりつけ)にしていく。殺しはしない。あくまで「無力化」だ。

 俺はその背後を悠々と歩きながら、次々と『暴露』を行っていく。

「さて、まずは受付カウンターだ」

 俺は端末を操作し、ギルドのホストコンピュータ(魔導サーバー)をハッキング。

 ロビーにある巨大モニターをジャックした。

「みんな、この『Sランク指定依頼』を見てくれ」

 画面に映し出されたのは、裏帳簿のデータ。

【依頼内容:スラム街の孤児誘拐】

【報酬:金貨50枚】

【発注者:バロン男爵(カジノオーナー)】

【承認印:ギルドマスター・ジェイムズ】

「うわ、エグいな。……これ、ギルドが組織的に人身売買を斡旋してたって証拠だ」

 ロビーにいた一般の冒険者たちが騒然となる。

「おい、マジかよ……」

「俺たちが命がけで魔物狩ってる間に、ギルドはこんなことやってたのか!?」

「ふざけんなジェイムズ!!」

 疑念が確信に変わり、怒号へと変わる。

 コメント欄もヒートアップ。

『最低すぎる』

『解体しろこんな組織!』

『証拠保全した! 拡散する!』

『スパチャで応援するからもっと暴け!』

 魔力(スパチャ)がガンガン貯まる。

 俺はその魔力を使って、さらに奥の扉――『資料室』のセキュリティを強制解除した。

「次はここだ。S級パーティ『王の剣』の不正記録があるはずだ」

 中に入ると、そこには血相を変えたギルド職員たちが、必死に書類を焼却炉に放り込んでいた。

 証拠隠滅だ。

「おっと、遅かったな」

 俺は指を鳴らす。

『スキル【瞬間凍結(フリーズ)】(ショップ購入:50,000pt)』

 カチン!

 部屋中の空気が凍りつき、燃えかけていた書類の火が消える。職員たちも腰まで氷漬けだ。

「リズ、回収だ」

「はい! ……ボス、これ見てください。『勇者グレンの討伐水増し報告書』って書いてあります!」

「ビンゴ。……実際の討伐数は報告の半分以下。残りは部下にやらせて手柄を横取り、か。セコい勇者様だ」

 俺はその書類をカメラに見せつける。

 これで『王の剣』の名声は完全に地に落ちた。

          ◇

 そして、最上階。

 ギルドマスター室の前。

「ジェイムズさん、居留守は良くないですよー」

 リズがドアノブ(扉ごと)をねじ切る。

 中には、震えるジェイムズと――

「……待ちくたびれたぞ、カナタ」

 抜身の剣を構えた、勇者グレンたちが待ち構えていた。

 彼らの目は血走り、装備も新品(おそらく借金して買ったもの)に変わっている。

「グレン……。まだギルドの犬をやってたのか?」

「黙れ! 貴様のせいで俺たちは全てを失った! スポンサーも、ファンも、名誉も!」

 グレンが一歩踏み出す。

 背後には魔導師と聖女、タンク。全員が殺気を剥き出しにしている。

「ここで貴様を殺せば、俺たちは再び英雄になれる! 『悪の配信者を倒した正義のパーティ』としてな!」

「そうだ! これは正義の戦いだ!」

 ジェイムズも机の下から叫ぶ。

 「やれ! やってしまえ! 報酬は弾むぞ!!」

 俺はため息をついた。

 カメラに向かって、呆れたように肩をすくめる。

「聞いたか、視聴者諸君。彼らはまだ『正義』なんて言葉を使ってるらしい」

 コメント欄が流れる。

『往生際が悪すぎる』

『逆恨み乙』

『もう誰も応援してないぞ』

『アノニマス、やっちまえ!』

「リズ。……彼らの相手をしてやれ」

「はい! ボスは?」

「俺はジェイムズと『対談』してくる。……ああ、手加減はいらないぞ」

 リズがニヤリと笑い、構えを取る。

 対するグレンたちS級パーティ4人。

「ふん、女一人で何ができる! 行くぞお前ら!」

 グレンが剣を振り上げる。

 だが、俺には結果が見えていた。

 腐ったプライドにしがみつく過去の英雄と、俺のスパチャで武装した最強の相棒。

 勝負になるはずがない。

「じゃあ、始めようか。――最後の『ショー』の時間だ」

 俺はグレンたちの横を素通りし、ジェイムズの元へ歩き出した。

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