EP 8
「新居に害虫が出たので、課金グッズで駆除してみた」
庭の茂みに身を潜める男の名は、ザイデン。
裏社会で『幻刃』と呼ばれる、S級の暗殺者だ。
(……依頼主はギルドマスター・ジェイムズ。ターゲットは元荷物持ちの配信者、か)
ザイデンは音もなく忍び寄りながら、内心で舌打ちした。
相手はレベル1の雑魚。護衛の獣人女が少し厄介そうだが、寝込みを襲えば造作もない。
報酬が良いから引き受けたが、こんな廃墟警備の仕事とはな。
(ん? 微弱な魔力結界……。フン、安物の探知魔法か)
ザイデンは結界の隙間を縫うように、窓へと近づく。
完璧な潜入ルート。誰にも気づかれていない――はずだった。
『――はい、視聴者諸君。右側の茂みにご注目』
突然、庭全体に設置されたスピーカーから、ターゲットの声が響いた。
「なっ!?」
『今夜のゲストは、裏社会の掃除屋さんだ。どうやら玄関から入るマナーを知らないらしい』
パッと照明が点灯し、庭が真昼のように明るくなる。
ザイデンの姿が、闇から浮かび上がった。
俺はスタジオのモニターで、その間抜けな姿を見下ろしながらコーヒーを啜る。
「さて、せっかくだから新商品のテストといこうか」
俺は手元のコンソールを操作した。
【配信者ショップ】で購入した**『侵入者撃退セット(松):300,000pt』**が起動する。
ザイデンが舌打ちをして、窓を割って飛び込もうとした瞬間。
足元の地面が発光した。
【罠発動:重力縛りの鎖】
「ぐあっ!?」
地面から魔力の鎖が飛び出し、ザイデンの両足を絡め取る。
S級の身体能力で引きちぎろうとするが、鎖はさらに強く締め付ける。
『おっと、暴れない方がいい。それは対象の抵抗力に比例して重くなる特注品だ』
俺はマイクに向かって、通販番組のような口調で解説する。
『さあ、動きが止まったところに、オプションの登場だ』
屋敷の玄関が開き、二体の影が飛び出した。
銀色の装甲に覆われた、体長2メートルの機械犬――**『ガーディアン・ドッグ』**だ。
「ゴ、ゴーレムだと!? しかもミスリル装甲の……!」
ザイデンの顔が引きつる。
一体で家が一軒買えるほどの高級ゴーレムだ。それが二体。
ガーディアンたちは唸り声を上げ、鎖に繋がれたザイデンに飛びかかった。
「くそっ、舐めるな!」
ザイデンは懐から短剣を抜き、応戦する。
だが、その刃はミスリルの装甲に弾かれ、火花を散らすだけ。
圧倒的な質量とパワーの前に、S級アサシンは為す術なく地面に組み伏せられた。
『はい、制圧完了。所要時間3分。……S級といっても、所詮は「金」の前では無力だな』
コメント欄が爆速で流れる。
『うわあああ、あっさりwww』
『あのゴーレムめちゃくちゃ高くない!?』
『アサシン涙目で草』
『これが資本主義の力か……』
俺はスタジオを出て、庭へと向かった。
隣には、夜食のクレープを片手にしたリズがいる。
「ボス、その人、弱そうですね。私が殴らなくても大丈夫でしたか?」
「ああ。お前の拳は、もっと『大物』のために取っておけ」
俺は、ガーディアンに踏みつけられているザイデンの前に立った。
仮面越しに見下ろす。
「がはっ……き、貴様……ただの配信者じゃ……」
「黙れ。質問するのは俺だ」
俺はカメラをザイデンの顔に向けた。
「雇い主は誰だ? ……まあ、聞かなくても分かってるがな」
俺はザイデンの懐から、通信用の魔道具を抜き取った。
発信履歴の一番上にある番号へ、コールバックする。
――プルルル、プルルル。
数コールで、相手が出た。
『――おいザイデン! どうした、遅いぞ! あの小僧の首は取ったのか!?』
焦ったような、しゃがれた声。
冒険者ギルドのマスター、ジェイムズだ。
俺はニヤリと笑い、声をかけた。
「こんばんは、ギルドマスター。深夜に熱心なことだな」
『……は? だ、誰だ貴様!? なぜザイデンの通信機を……』
「俺か? 俺はアノニマス。あんたが殺そうとした『小僧』だよ」
『なっ……!?』
絶句するジェイムズ。
俺はカメラに向かって、最高の笑顔(仮面だけど)を向けた。
「ああ、それとマスター。言っておくが……」
俺は指を鳴らす。
「この通話、今『全世界に生配信』されてるからな。言葉には気をつけた方がいいぞ?」
『なっ、えっ、はぁぁぁぁぁ!?』
通信機から、情けない悲鳴が響き渡った。
コメント欄の同接が**【200,000人】**を突破する。
「アサシン雇って口封じとは、ギルドのトップが聞いて呆れるな。……ま、証拠はバッチリ録音させてもらった」
俺は通信機を握り潰した。
これで後戻りはできない。全面戦争だ。
「リズ、明日は忙しくなるぞ」
「はい! どこへ行くんですか?」
俺は夜空に浮かぶ月を見上げた。
「ギルド本部だ。……溜まりに溜まった『ツケ』を、耳を揃えて払わせに行く」




