EP 7
「幽霊屋敷を、スパチャで最強の要塞にリフォームしてみた」
王都の外れ、貴族街とスラムの境界にある森。
そこに、古びた巨大な洋館が建っていた。
「……ボス、ここですか?」
「ああ。不動産屋が泣いて頼んできた『超優良物件』だ」
俺とリズは、蜘蛛の巣だらけの鉄門の前に立っていた。
元は伯爵の別荘だったらしいが、今は廃墟同然。
価格は破格の【金貨5枚(約50万エール)】。相場の100分の1だ。
「理由はシンプル。『出る』からだそうだ」
「出る? 熊ですか?」
「いや、幽霊だ」
俺が鍵を開けてホールに入った瞬間。
ヒュオオオ……と冷たい風が吹き抜け、背後の扉がバタン! と閉まった。
『――出ていけぇぇ……』
『――ここは我らの場所だぁぁ……』
空中に青白い人魂が数体現れ、家具がカタカタと震え出す。ポルターガイストだ。
普通なら悲鳴を上げて逃げ出すところだが、俺の隣には「S級猛獣」がいる。
「……むっ」
「どうしたリズ、怖いか?」
「いえ。あのお化け、私の買ったばかりのドーナツを落としました」
リズの視線の先。空中に浮いた皿がひっくり返り、大事なオヤツが床に落ちていた。
瞬間、リズの銀髪が逆立つ。
「食べ物の恨みぃぃぃぃ!!」
ドォォォン!!
リズの右手が光った。
『月狼の爪』には「魔力付与」がある。つまり、物理攻撃が霊体にも通る。
彼女の拳圧だけで、ポルターガイストの群れが消し飛んだ。
『ひ、ひぃぃぃ!? 物理!?』
『痛い! 死んでるのに痛いぃぃ!』
幽霊たちが涙目で逃げ惑う。
その中心に、一際大きな影――メイド服を着た透ける女性が現れた。ここのボス霊か。
『ま、待ちたまえ! 我はこの屋敷を守る元・筆頭メイド長……』
「私のドーナツ返せぇぇぇ!」
『あだっ!?』
リズの容赦ない鳩尾パンチが炸裂。
メイド霊は「ごめんなさいぃぃ!」と土下座して消滅……しなかった。
「……ほう」
俺は興味深く観察する。リズの一撃を受けても消えないとは、相当ランクの高い地縛霊だ。
「おい、そこのメイド。消滅したくなければ取引だ」
『は、はいぃ! 何でもします! 成仏はまだ嫌です!』
「この屋敷の管理と掃除をしろ。俺たちは忙しいからな。家事ができる幽霊なら置いてやる」
メイド霊――名前はマリアというらしい――は、涙目で頷いた。
これで「24時間不眠不休で働く最強の管理人」が手に入った。ブラック企業も真っ青だ。
◇
除霊(物理)が済んだところで、リフォームの時間だ。
「さて、視聴者様から頂いた1200万エール。ここでガッツリ使わせてもらうぞ」
俺は【配信者ショップ】を開き、ハウジング・カテゴリを全開にする。
【購入リスト】
最高級防音・防魔結界(500,000pt): これで外への音漏れも、外からの魔法攻撃も遮断する。
全自動調理キッチン(1,000,000pt): 食材を入れるだけでS級料理ができる。リズ用。
多重映像モニター室(800,000pt): 俺の『遠隔視』を複数箇所同時に映し出し、編集できるスタジオ。
迎撃用ゴーレム『ガーディアン・ドッグ』×2(2,000,000pt): 番犬。
「――設置」
光と共に、廃墟だった屋敷が劇的に変わっていく。
ボロボロの壁は真っ白な漆喰に。床は大理石に。
キッチンからは既にいい匂いが漂い始めている。
「わあぁぁ……! お城みたいですボス!」
「今日からここが、俺たち義賊団『アノニマス・シャドウ』の本部だ」
マリア(メイド霊)も、ピカピカになった屋敷を見て感動している。
『す、凄いですご主人様! 生前より綺麗です!』
「お前は外の警備結界とリンクしておけ。不審者が来たら即座に知らせろ」
『畏まりました!』
準備万端。
俺はスタジオの椅子に深々と座り、モニターに映る「王都の地図」を眺めた。
次のターゲットは決まっている。
ギルドマスター・ジェイムズ。
奴は今頃、俺たちの居場所を探して血眼になっているはずだ。
――ピロン。
不意に、マリアからの念話が届く。
『ご主人様! 結界に反応ありです! 黒装束の男が一人、庭に侵入しました!』
早いな。
さすが腐ってもギルドマスター。裏社会の掃除人を雇ったか。
「リズ、客だ。……いや、待て」
俺は立ち上がろうとしたリズを制した。
ニヤリと笑い、モニターのスイッチを入れる。
「せっかくの『新居お披露目』だ。この最新鋭セキュリティシステムのテスト台になってもらおう」
俺は配信を開始した。
タイトルは【新居に泥棒が入ったので、防犯グッズで撃退してみた】。
『――ようこそ、不運な侵入者さん』
屋敷のスピーカーから俺の声を響かせる。
庭に忍び込んだアサシンが、驚いて周囲を見回す姿がモニターに映った。
「ここからは、俺のターン(テリトリー)だ」




