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EP 6

「S級パーティの帰還? いいえ、ただの笑い者です」

 王都、冒険者ギルド本部。

 夕方、一番賑わう時間帯。

 酒場の巨大モニターには、ある「配信」の録画が流されていた。

『ギャハハハ! 見ろよこの無様な落ち方!』

『勇者グレン、何もしてなくて草』

『これがS級? 新人の方がマシじゃね?』

 店内の冒険者たちは、酒を片手に爆笑している。

 画面に映っているのは、泥だらけで罠にかかり、中ボスの死体の前でドヤ顔をする勇者グレンのマヌケな姿だ。

 そこへ――

 バンッ!!

 ギルドの扉が乱暴に開かれた。

「おい! 回復薬ポーションだ! 早く持ってこい!!」

 入ってきたのは、全身ボロボロ、泥とすすにまみれた4人組。

 S級パーティ『王の剣』のメンバーだ。

 彼らは肩で息をしながら、いつものように尊大な態度で叫んだ。

「な、何を見てる! 俺たちは『王の剣』だぞ! 優先的に治療しろ!」

 しかし――

 いつもなら飛んでくる受付嬢も、尊敬の眼差しを向ける新人たちも、誰も動かない。

 ギルド全体が、冷ややかな沈黙に包まれていた。

「……ぷっ」

 誰かが吹き出した。

 それを皮切りに、ヒソヒソ話が波及する。

「おい見ろよ、今の配信の……」

「マジで帰ってきたww」

「あの泥、さっきの落とし穴のやつだろ?」

「S級(笑)」

 グレンが顔を真っ赤にして怒鳴る。

 「き、貴様ら! 何がおかしい! 俺たちは深淵の森を攻略してきたんだぞ!?」

 その瞬間。

 ギルド内の全ての魔導モニターが、ノイズと共に切り替わった。

『――お疲れ様、元・同僚の諸君』

 画面に映し出されたのは、道化の仮面をつけた男。

 アノニマス(俺)だ。

「なっ……カナタ!? てめぇ、どこにいやがる!!」

 グレンが吠える。

 だが、画面の中の俺は優雅にワイングラスを傾けるだけだ。

『攻略してきた? 嘘はいけないな。君たちが持ち帰ったのは「疲労」と「恥」だけだろう? 宝箱の中身は、全て俺が頂いた』

 俺は画面越しに、煌めく虹色の液体が入った小瓶を見せびらかした。

 ダンジョンの秘宝、『聖霊薬エリクサー』だ。

「あ、あれは……!!」

「返せ! それは俺たちのものだ!!」

 聖女が悲鳴を上げる。彼らの装備はボロボロで、メンテナンスには莫大な金がかかる。このエリクサーを売らなければ赤字確定だ。

『返せ? 拾ったのは俺だ。……さて、ここで視聴者プレゼントのお時間だ』

 俺は指を鳴らした。

『S級パーティが喉から手が出るほど欲しがっているこのエリクサー。……今から、「ギルド内で一番頑張っている新人」にプレゼントしようと思う』

 コメント欄が流れる。

『太っ腹すぎwww』

『勇者の顔www』

『新人にあげるとか聖人かよ』

『ざまぁwww』

『――転送テレポート

 俺がスキルを発動すると、画面の中のエリクサーが光の粒子となって消えた。

 そして――

 ギルドの隅で、薬草採取のクエスト報告をしていた地味な少年冒険者の手元に、実体化した。

「え……?」

 少年が呆然と小瓶を見つめる。

 本物のエリクサーだ。売れば一生遊んで暮らせる額になる。

『おめでとう、君だ。君は毎日、真面目に依頼をこなしていたからな。……そこの「自称S級」たちとは違って』

「ふ、ふざけるなあああああ!!」

 グレンが少年に掴みかかろうとする。

 「よこせ! それは俺のものだ!」

 だが、周囲の冒険者たちが一斉に立ち上がった。

「おい、やめろよS級」

「新人のガキからカツアゲか?」

「落ちたもんだな、『王の剣』も」

 冷たい視線。軽蔑の言葉。

 今まで彼らが築き上げてきた「名声」が、ガラガラと崩れ落ちる音が聞こえた。

 その時。

 ギルドの奥から、恰幅のいい男が現れた。

 ギルドマスター、ジェイムズだ。

「控えろ! 騒がしいぞ!!」

 ジェイムズはグレンたちを庇うように前に立った。

 「モニターを切れ! 誰だ、こんな悪質な映像を流しているのは!」

『よう、ギルドマスター。やっと出てきたな』

 俺は画面越しに彼を指差した。

『あんた、この無能集団をS級に推薦した張本人だよな? ……裏金、いくら貰ったんだ?』

 ジェイムズの顔が引きつる。

「な、何を根拠に……!」

『根拠? ああ、あるよ。「お前の執務室の金庫の中身」、全部見えてるからな』

 俺はニヤリと笑った。

『さて、視聴者諸君。次は「ギルドの不正会計」についての特番だ。……楽しみに待っててくれよ』

 プツン。

 配信が切れる。

 残されたのは、絶望的な顔をしたS級パーティと、真っ青になったギルドマスター。

 そして、爆笑と怒号が入り混じる、カオスと化したギルドホールだった。

          ◇

 ギルドを見下ろす屋根の上。

 俺は端末を閉じ、大きく息を吐いた。

「ふぅ……完璧な『ショー』だったな」

「ボス、あの子にお薬あげちゃってよかったんですか?」

 隣でリズが、焼き鳥を齧りながら首を傾げる。

「いいんだよ。あそこで新人に施しをすることで、俺たちは『ただの強盗』から『義賊』に昇華される。……それに、あのエリクサー、実は消費期限切れギリギリだったしな」

「えっ、そうなんですか?」

「効果はあるが、味は最悪だぞ」

 俺は苦笑した。

 これで、ギルドマスターも俺を敵と認識したはずだ。

 向こうから仕掛けてくるか、それとも逃げるか。

 どちらにせよ、次の配信のネタには困らない。

【現在のチャンネル登録者数:185,000人】

【獲得賞金(投げ銭総額):12,000,000エール】

 桁が変わってきた。

 そろそろ、俺たちのアジト(拠点)を構える頃合いだな。

「リズ、引越しだ。王都の一等地に、俺たちの『スタジオ』を作るぞ」

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