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EP 5

「S級パーティの攻略配信? いいえ、ただの迷子です」

 王都近郊、難易度Aのダンジョン『深淵の森』。

 鬱蒼うっそうとした木々の影で、俺とリズは息を潜めていた。

「ボス、あの人たち、また同じところ回ってますよ?」

「ああ。俺が抜けたせいで、地図マッピングができる奴がいなくなったからな」

 俺は木の上から、眼下を歩く4人の男女を見下ろしていた。

 かつての仲間、S級パーティ『王の剣』だ。

「おい! こっちの道で合ってるのかよ!?」

「うるさいわね! 私の『探知』だとこっちなのよ!」

「前の記録係カナタはもっと早くルート見つけてたぞ……チッ、役立たずが!」

 リーダーの勇者グレンが、魔導師の女に当たり散らしている。

 聖女は疲れて座り込み、タンクの男は無言で盾を磨いている。

 ……チームワーク、崩壊してるな。

 俺はニヤリと笑い、空中にカメラを展開した。

『――配信開始オン・エア

「よう、暇人の諸君。今日は特別企画『S級パーティの裏側密着24時』だ。まずは彼らの華麗なる迷子スキルをご覧いただこう」

 俺は小声で実況を入れる。

 画面には、泥だらけで同じ道をグルグル回る「勇者様」の姿。

 コメント欄が即座に反応する。

『うっわ、あの場所さっきも通ったろw』

『地図も読めないのかよS級』

『カナタ(主人公)がいなくなってからボロボロじゃん』

『喧嘩ばっかりで見苦しいな』

 同接は**【55,000人】**。

 もはや俺の配信は、王都の夜の娯楽として定着しつつある。

「よし、リズ。少し『演出』を入れるぞ」

「演出?」

「ああ。彼らがこれ以上迷わないように、俺たちが先に罠を全部解除して、宝箱の中身だけ頂いておくんだ」

 俺たちは影のように木々を飛び移った。

 リズの『隠密の外套』と俺のスキルがあれば、彼らに気づかれることはない。

 先行すること数分。

 巨大な罠(落とし穴)があった。

 本来なら俺が解除していた場所だ。

「……解除しないでおくか」

「えっ? 助けないんですか?」

「いや、少し『加工』する」

 俺はスパチャ交換所で**【幻影のスモーク:5,000pt】**を購入。

 落とし穴の上に、「宝箱」の幻影を被せた。

 数分後。

 勇者グレンたちがやってくる。

「おい見ろ! 宝箱だ!」

「やっと当たりかよ!」

 グレンが不用意に駆け寄る。

 魔導師が止める間もなく――

 ズドン!!

「うわあああああああ!?」

 見事な放物線を描いて、勇者が穴に落ちた。

 泥まみれになって這い上がってくる姿が、バッチリ配信される。

『ギャハハハハハ!』

『コントかよwww』

『罠探知もしないとか素人か?』

『S級(笑)』

 俺は木の上で腹を抱えて笑った。

 魔力がガンガン貯まっていく。

「さて、次は中ボス戦だ。……リズ、準備はいいか?」

「はい! あのおっきいベア、美味しそうです!」

 広場には、体長5メートルの『レッド・グリズリー』が待ち構えていた。

 グレンたちが武器を構える。

「くそっ、汚名返上だ! 俺が一撃で仕留める!」

 グレンが必殺の聖剣を光らせ、突っ込む。

 だが、連携が取れていない。タンクが前に出るのが遅れ、魔導師の魔法がグレンの背中に当たりそうになる。

「熱っ!? 馬鹿野郎、どこ狙ってんだ!」

「あんたが勝手に動くからでしょ!?」

 隙だらけだ。グリズリーの巨大な爪が、グレンの頭上に振り下ろされる。

「――今だ、リズ」

「行きます!」

 ヒュンッ!

 風が鳴った。

 リズが超高速で飛び出し、グリズリーの背後を一瞬ですり抜ける。

 その手には、白銀の籠手。

 ザンッ!!

 グリズリーの首が、音もなく宙を舞った。

 鮮血が噴き出す前に、リズは既に俺の隣(木の陰)に戻ってきている。

 グレンの剣は、空を切っただけだった。

「……え?」

 グレンが呆然と立ち尽くす。

 目の前の怪物は、勝手に首が落ちて絶命していた。

「お、俺がやったのか……?」

「す、すごいですグレン様! 気合だけで切断するなんて!」

「あ、ああ! まあな! 俺の本気を出せばこんなもんだ!」

 勘違いしてドヤ顔を決めるグレン。

 だが、カメラは全てを捉えていた。

 スローモーション再生リプレイ機能で、謎のリズが一瞬で首を刎ねた映像が流れる。

『いや違うだろwww』

『誰か横から盗んでったぞ』

『今の銀色の影、アノニマスの相棒か?』

『勇者、何もしてなくて草』

『恥ずかしいwww 誰か教えてやれよwww』

 コメント欄はお祭り騒ぎだ。

 俺はリズの頭を撫でた。

「いい仕事だ。……じゃあ、仕上げに行こうか」

          ◇

 最深部のボス部屋。

 グレンたちは満身創痍でたどり着いた。

「はぁ、はぁ……やっとボス部屋か。宝箱には『聖霊薬エリクサー』が入ってるはずだ」

 彼らは扉を開ける。

 そこには――既に倒されたボスの死体と、空っぽの宝箱があった。

「は……?」

 宝箱の中には、一枚の紙切れが置かれている。

 グレンが震える手でそれを拾い上げる。

『S級パーティの皆様へ。』

『攻略が遅いので、お宝は頂きました。』

『あと、君たちの今のマヌケな顔、全世界に配信されてるよ? ――怪盗アノニマスより』

「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 グレンの絶叫が洞窟に響き渡る。

 俺はカメラをズームし、その悔しがる表情を特等席で撮影した。

【クエスト完了:S級パーティの威信を粉砕する】

【報酬:大量のスパチャと、視聴者の「ざまぁ」感情】

 俺とリズは、山盛りの戦利品と最高級のエリクサーを持って、悠々とダンジョンを出る。

「ボス、このお薬どうするんですか? 飲みます?」

「いや、これは売らない。……次の配信で『視聴者プレゼント企画』にする」

「えっ?」

「『S級が喉から手が出るほど欲しがったエリクサー、抽選で1名様にプレゼント!』ってな。……あいつらのプライド、ズタズタになるぞ」

 リズがきょとんとして、それから楽しそうに笑った。

「ボスって、本当に性格悪いですね!」

 最高の褒め言葉だ。

 さて、これで『王の剣』の評判は地に落ちた。

 次は――いよいよ、彼らを追放し、俺をハメた「黒幕」であるギルド本部へ喧嘩を売りに行くか。

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