EP 4
「イカサマカジノを、確率操作で破産させてみた」
王都の地下に広がる巨大な遊技場、闇カジノ『黄金の蜜』。
ここは、勇者グレンたち『王の剣』の最大のスポンサーである、悪徳貴族バロン男爵が経営する資金源だ。
「へぇ……キラキラしてて、お肉の匂いがします!」
ドレスアップしたリズが、目を輝かせてキョロキョロしている。
俺はタキシードに、例の道化の仮面。
入り口の黒服には「余興だ」と言って金貨を数枚握らせ、顔パスで通った。
「リズ、肉はあとだ。まずは仕事(配信)だ」
俺は指先で空中に触れ、スキル『遠隔視』を起動。
極小の不可視カメラを、カジノ全体にばら撒く。
『――配信開始』
ターゲットは中央にある巨大なルーレット台。
そこでは、身なりのいい商人が青い顔をしてチップを積んでいた。
「あ、赤! 次は赤だ!」
「ノーモア・ベット。……残念、黒の13です」
ディーラーが冷淡に告げ、商人のチップを回収していく。
商人は崩れ落ちる。「そんな……店の商品を担保にしたのに……」
俺はカメラの画角を調整し、コメント欄を確認する。
『うわ、また負けてる』
『この店、絶対やってるだろ』
『S級パーティの癒着先ってここか?』
『アノニマス様、こいつらの化けの皮剥がして!』
同接は早くも**【38,000人】**。
俺はリズに目配せをし、ルーレット台へ近づいた。
「次は俺が賭けよう」
俺はインベントリから、昨日奪った金貨の山――100万エール分のチップを、ドンと『赤』に置いた。
周囲がざわつく。
「おい、正気か?」
「一発で100万……?」
ディーラーの目が一瞬、怪しく光った。
俺には見える。『遠隔視』の透視モードが、台の下にある**「磁力操作の魔道具」**を捉えているからな。
「ノーモア・ベット」
玉が回る。
本来なら赤に入る軌道だ。
だが、ディーラーが足元のペダルを踏んだ瞬間、玉が不自然に跳ねて『黒』へ落ちた。
「……残念。黒の――」
「――ストップ」
俺は指を鳴らした。
その瞬間、カジノ内の巨大モニター(本来はオッズ表示用)をハッキングし、俺の『視界』を強制投影した。
映し出されたのは、台の下でディーラーがペダルを踏み、磁力が作動する瞬間のサーモグラフィ映像。
「え?」
ディーラーが凍りつく。
客たちがモニターと、台の下を見比べる。
「あ、あれは……魔道具?」
「おい、今ペダル踏んだよな!?」
「イカサマじゃねえか!!」
怒号が飛び交う。
俺はカメラに向かって、肩をすくめた。
「見たか、視聴者諸君。これがS級パーティの財布の中身だ。客から搾り取った汚い金で、勇者様は魔剣を買ってるわけだ」
コメント欄が加速する。
『最低だ』
『金返せ!』
『拡散拡散拡散!』
『勇者もグルだろこれ』
その時、奥のVIPルームから、太った男が怒鳴り込んできた。オーナーのバロン男爵だ。
後ろには、強面の用心棒が十数人。
「き、貴様ら! 営業妨害だ! 叩き出せ!」
用心棒たちが武器を抜く。
客たちは悲鳴を上げて逃げ惑うが、俺は一歩も動かない。
「リズ。出番だ」
「はい、ボス!」
リズがドレスの裾を破り捨て、スラリとした脚で床を蹴った。
彼女の両手には、銀色に輝く『月狼の爪』。
「ガアアッ!」
獣の咆哮と共に、リズの姿が消える。
次の瞬間、先頭の用心棒の剣が、飴細工のように砕け散っていた。
「なっ……!?」
「お肉の邪魔をするなぁぁぁ!!」
リズの回し蹴りが炸裂。
用心棒たちはボウリングのピンのように吹き飛び、スロットマシンに激突して火花を散らす。
強い。強すぎる。
レベル補正など関係ない、純粋な身体能力の暴力だ。
『つっよwww』
『あの姉ちゃん何者!?』
『銀髪の狼……まさか絶滅した幻の種族か?』
『エフェクトが派手で映えるわーw』
俺は悠々とバロン男爵へ歩み寄る。
「ひっ、ひぃ……! 勇者グレンが黙っていないぞ! バックには国がついているんだ!」
「だからどうした?」
俺は男爵の目の前にスマホを突きつけた。
「今、お前のカジノの不正証拠は全世界に拡散された。客も暴動寸前だ。……なぁ、これでお前は終わりだが、一つだけ助かる方法を教えてやろうか?」
「な、なんだ!?」
「金庫を開けろ。そして、このカジノの全利益を『客への返金』と『俺への迷惑料』として吐き出せ」
男爵は青ざめ、首を横に振る。
俺は冷たく笑い、指を鳴らした。
『ユニークスキル【扇動者】発動』
『視聴者の怒り(ヘイト)を【精神圧】に変換』
「――開けろ」
ズドン、と重力が歪むような威圧感が男爵を襲う。
数万人の「怒り」を直接脳内に流し込まれた男爵は、白目を剥いて泡を吹き、震える手で金庫の鍵を差し出した。
「ご、ごめんなさいぃぃ……!」
◇
数分後。
カジノは炎に包まれていた(物理的な炎上ではなく、客による破壊活動だ)。
俺とリズは、裏口から脱出していた。
インベントリには、カジノの裏金**【3億エール】**相当の金塊。
そして何より、手に入れたのは「勇者パーティへの特大ダメージ」だ。
「ふぅ……運動した後のお肉は美味しいですね!」
リズは屋台で買った串焼きを両手に持ち、幸せそうに頬張っている。
俺は端末を確認した。
【チャンネル登録者数:105,000人突破】
【称号『銀の盾』を獲得しました】
SNSでは、『#勇者パーティの闇』『#カジノ崩壊』がトレンドを独占している。
「これで、あいつらの資金繰りはショートする。装備のメンテナンスも、ポーションの補給もできなくなるな」
俺は仮面の下で笑った。
さあ、次はどうする? 金も名誉も失った勇者様が、どんな顔で俺の前に現れるか楽しみだ。
その時、端末に一件の通知が届く。
【緊急クエスト(視聴者投票):次の配信場所を決定してください】
A. 勇者の実家(貴族街)
B. 悪徳ギルドマスターの隠し別荘
C. ダンジョン内で勇者パーティを「妨害」しに行く
視聴者のコメントは、圧倒的に『C』で埋め尽くされていた。
「……ははっ、鬼だな、お前ら」
俺は投票結果を見て、リズに振り返った。
「リズ、次は遠出だ。ダンジョンに行くぞ」
「ダンジョン? 魔獣のお肉、食べ放題ですか?」
「ああ。……もっと美味い『メインディッシュ』もいるけどな」




