EP 10
「S級パーティが『引退配信』するそうです 〜涙の謝罪会見会場はこちら〜」
「なめるなぁぁぁ! 俺は選ばれし勇者だぞ!」
ギルドマスター室の前。
勇者グレンが絶叫し、聖剣を振り下ろす。
それは、彼が借金をしてまで新調した、オリハルコン製の最高級剣だ。
――ガキンッ!!
重厚な金属音が響き渡る。
だが、剣は止まっていた。
リズの左手。銀色に輝く『月狼の爪』が、聖剣の刃を素手で受け止めていたのだ。
「……え?」
グレンの目が点になる。
リズは退屈そうにあくびを噛み殺した。
「遅いですね。止まっているのかと思いました」
「ば、馬鹿な! オリハルコンだぞ!? 強化魔法も全開なんだぞ!」
背後の聖女と魔導師が顔面蒼白で震えている。
リズはニッコリと笑った。
「じゃあ、私の番ですね」
パリンッ。
リズが指に少し力を込めた瞬間、聖剣がガラス細工のように砕け散った。
破片がキラキラと舞う中、グレンが腰を抜かす。
「あ、ああ……俺の剣が……借金が……」
「隙ありです!」
ドゴォォォォン!!
リズの回し蹴りが、グレンの脇腹に深々と突き刺さる。
彼はくの字に折れ曲がり、ロケットのように吹き飛んで、背後にいた魔導師とタンクを巻き込んで壁に激突した。
一撃。たった一撃で、S級パーティは「積み重なったゴミ」と化した。
『うっわ、エグい威力w』
『聖剣(笑)』
『借金どうすんのこれ』
『リズちゃん最強! リズちゃん最強!』
コメント欄が「草」と「称賛」で埋め尽くされる。
◇
一方、室内。
俺はギルドマスター・ジェイムズを追い詰めていた。
「ひぃ、ひぃっ! 待て、話し合おう! 金か? 地位か? ギルドの理事にしてやる!」
ジェイムズが机の下から金貨袋を差し出す。
俺はそれを冷ややかな目で見下ろし、カメラを向けた。
「視聴者諸君。これがこの国のトップだ。命惜しさに、横領した金を俺に渡そうとしている」
俺は金貨袋を蹴り飛ばした。
ジャラジャラと金貨が散乱する。
「金なんかいらねぇよ。俺が欲しいのは『清算』だ」
「せ、清算……?」
俺は懐から、一枚の古びた羊皮紙を取り出した。
昨日、アサシンの通信記録から割り出した「隠し金庫」の場所。そこに眠っていた決定的な証拠だ。
「これ、隣国帝国との『密約書』だよな?」
ジェイムズの顔から色が消えた。
「ま、まさかそれを……!」
「『冒険者の情報を横流しする代わりに、亡命後の地位を保証する』……。あんた、国を売ってたのか」
――ザワッ。
その瞬間、コメント欄の空気が変わった。
面白がっていた視聴者たちの感情が、「殺意」と「軽蔑」に染まる。
『は? 売国奴じゃん』
『ふざけんな! 俺たちの命をなんだと思ってるんだ!』
『処刑だ! 今すぐ殺せ!』
『王都の騎士団動けよ!!』
同接数は**【500,000人】**を超えた。
もはや一国の人口に匹敵する数が、この男の罪を目撃している。
「あ、あぁぁ……終わった……」
ジェイムズが崩れ落ちる。
俺は彼を見下ろし、宣告した。
「死んで楽になろうなんて思うなよ。お前はこれから、法で裁かれ、民衆に石を投げられ、一生牢獄の中で『自分の配信』を見せられ続けるんだ」
その時。
外からサイレンのような魔導音が響き渡った。
王都騎士団だ。しかも、今回は買収されていない「本物の精鋭部隊」だ。
「リズ、撤収だ! おいしいところ(逮捕)は騎士様に譲ってやろう」
「はーい! ボス、この人たち縛っておきました!」
見れば、グレンたちはカーテンでぐるぐる巻きにされ、天井から吊るされていた。
完全に晒し者だ。
「くそっ、覚えてろカナタ! いつか必ず……!」
グレンが涙目で叫ぶ。
俺は振り返り、仮面の下でニヤリと笑った。
「おう、頑張れよ。……もし出所できたら、また俺の配信に『ゲスト出演』させてやるからな」
俺とリズは窓を蹴破り、夕焼けの空へと飛び出した。
背後で、騎士団が突入してくる音が聞こえる。
ジェイムズの絶叫と、グレンたちの惨めな言い訳が遠ざかっていく。
◇
数日後。
王都は一変していた。
ギルドマスターは国家反逆罪で逮捕。関連した貴族たちも芋づる式に粛清された。
S級パーティ『王の剣』は解散。メンバーは多額の賠償金を背負い、最下層の鉱山労働送りになったという噂だ。
そして――
「ボス、新しい依頼が来てますよ!」
リフォームが完了した拠点で、リズが端末を持って駆け寄ってくる。
画面には、視聴者からの大量のメッセージ。
『次は隣国の悪徳商人をやってくれ!』
『北の教団が怪しい動きをしてるぞ』
『アノニマス様、一生ついていきます!』
俺はコーヒーを飲み干し、新しい仮面を手に取った。
俺たちの戦いは終わらない。
むしろ、ここからが本当の「世界征服(トレンド独占)」の始まりだ。
【チャンネル登録者数:1,000,000人突破】
【称号『伝説の始まり』を獲得しました】
「よし、行くかリズ。次の配信準備だ」
「はい! 今夜の晩ごはんは何ですか?」
「……ドラゴンステーキだ」
「わぁい!」
俺たちは笑い合い、配信開始ボタンを押した。
『――ようこそ、クソみたいな世界の皆様。今夜もとびきりの「正義」をお届けするぜ』




