EP 6
「大バズりと、ニャングルの暗躍。〜大国を手玉に取るFOMO戦略〜」
キュララの生配信から一夜明けた、ポポロ村。
ボロ家の庭には、早朝から目を疑うような光景が広がっていた。
「ポッポォー! ポルルルッ!」
「わわっ!? なんですかこの鳥の群れは! 糞を落とさないでくださいぃ!」
空を埋め尽くすほどの伝書鳩、伝書鷹、さらには魔導通信用の小型ワイバーンまでが飛び交い、次々とボロ家のポスト(段ボール箱)に手紙を投下していく。リリスが頭を抱えて逃げ回っていた。
「……キュララ様の配信の影響力、見積もりが甘かったようです」
リバロンが、山積みになった手紙を恐ろしい速度で開封し、仕分けしながら言った。
「ルナミス帝国軍・兵站総監部より『直近で10万食を納品せよ』。レオンハート獣人王国・近衛騎士団より『あの肉料理を我らが王の晩餐に独占提供せよ』。アバロン魔皇国・宮廷魔導士長より『魔力を使わない真空保存の技術を開示せよ』……」
リバロンが読み上げる要求は、どれもこれも「大国のエゴ」が剥き出しだった。
村長のキャルルが、ウサギの耳をペタンと寝かせてため息をつく。
「うぅ……どこの国も『うちの国を最優先しろ!』って、上から目線で迫ってきてますね。ポポロ村は緩衝地帯だから、どこか一国を贔屓したら、一気に軍事的なバランスが崩れちゃいますよ」
「その通りだ、キャルル。だからこそ、どこの国にも『媚びない』のが正解だ」
俺は淹れたてのインスタントコーヒーを啜りながら、ニヤリと笑った。
「向こうはこっちを『無力なド田舎の村』だと思って足元を見てる。……なら、そのプライドを逆手にとって、財布の底まで絞り上げてやる」
「……にーちゃん。えげつない顔しとるな」
ドンッ、と開いた扉の隙間から、派手な着物に身を包んだ猫耳族の商人――ニャングルが滑り込んできた。
彼の手にある黄金の算盤は、すでに弾かれすぎて摩擦で熱を持っている。
「ゴルド商会の通信網もパンク寸前や。どこの貴族も将軍も、『あの天使が食ってた銀色のパックを引っ張ってこい』と、わいの所に泣きついてきとる。……で、カナタの旦那。こんだけの特大の需要、どうやって捌く気や?」
「捌かないさ」
俺はテーブルの上に、試作品の『ポポロ・ランチ』を一つだけコトリと置いた。
「ニャングル、お前の商会のルートを使って、ルナミス、レオンハート、アバロンの三大国に招待状を送れ。明日の正午、このポポロ村で『ポポロ・ランチ独占専売権・争奪オークション』を開催するとな」
「……オークションやと!?」
ニャングルの瞳孔が、スッと細くなった。
「ああ。個別で交渉すれば、向こうの権力で買い叩かれる。だが、大国の代表者たちを同じ部屋に集めて『たった一つの独占権』を巡って競り合わせれば……」
「……『買わなきゃ損をする』と思い込む。行動経済学における【反脆弱性】と【予想どおりに不合理】の悪用やな!」
ニャングルが、煙管を持つ手を震わせながら叫んだ。
彼のような一流の商人は、俺の意図を瞬時に理解したのだ。
「その通りです」
リバロンが眼鏡を光らせ、解説を引き継ぐ。
「ルナミスは『レオンハートの獣人たちに強力な兵站を奪われること』を極端に恐れます。アバロンも同様です。他国が手に入れるくらいなら、自国の予算を限界まで絞り出してでも『独占』しようとする……。心理的な強迫観念(FOMO=取り残されることへの恐怖)を煽る、完璧な盤外戦術です」
「くっ、くくく……っ! はーっはっはっは!」
ニャングルは顔を覆い、爆笑した。
「にーちゃん、いやカナタ! あんたホンマに悪魔やで! 大国の将軍どもを、一つの会議室に閉じ込めて札束で殴り合わせる気やな!?」
「お前の『神眼』で、連中の予算の限界(底)を見極めろ。……頼んだぜ、相棒」
「おう! 任しとき! わいが各国の使者に、極上の『嘘』を吹き込んできたるわ。ルナミスには『アバロンが国家予算の3%を積むらしい』と囁き、レオンハートには『ルナミスが武力行使も辞さない構えだ』と煽る。……連中の財布の紐を、ズタズタに切り裂いたるでぇ!」
ニャングルは商魂を極限まで燃え上がらせ、バタバタと風のようにボロ家を飛び出していった。
大国を手玉に取るための「仕込み」は完了した。
「よし。俺たちは会場の設営だ。リリス! ルナ! ダイヤ!」
俺が声をかけると、シェアハウスの(予定)住人たちがワラワラと集まってきた。
「はいはーい! 何をすればいいですか、ボス!」
「幻覚キノコで役人さんたちを気持ちよくさせましょうか〜?」
「用心棒の出番ね! 暴れる奴は天魔竜聖剣で叩き斬るわ!」
「お前らには、会場の『おもてなし』をしてもらう。大国のVIPを相手にするんだ、粗相のないように……リバロン、こいつらの教育を頼む」
「畏まりました。ルナミス帝国執事検定1級の手腕、とくとご覧に入れましょう」
窓の外では、今日もリーザの『Love & Money』の歌バフに乗せて、農家のオバチャンたちがマッハの速度でおでんを真空パックに詰めている。
村長のキャルルは、なんだか楽しそうにその光景を見守っていた。
さあ、来い。三大国のエリートども。
この何もないド田舎の村で、現代日本の資本主義の恐ろしさを骨の髄まで叩き込んでやる。




