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EP 4

「紅蓮の貧乏戦乙女と、日雇い竜人の雇用。〜不味いレーションと至高のおでん〜」

「……カナタ様。早急に『戦力』の増強が必要です」

 ボロ家のオフィスで、完成したばかりの『ポポロ・ランチ』を箱詰めしていたリバロンが、険しい顔で報告してきた。

「リーザ様の歌バフのおかげで、生産ラインは完璧です。しかし……この『暴力的なまでに美味そうな匂い』が、周辺の荒野から魔獣を引き寄せています。おまけに、村が潤い始めた嗅覚(情報)を嗅ぎ取った盗賊団の影もチラホラと」

「なるほど。美味い飯と金がある所には、必ずハイエナが集まるってわけか」

 農家のオバチャンや自警団だけでは、本格的な襲撃には耐えられない。専属の『用心棒セキュリティ』が必要だ。

 俺は試作品のポポロ・ランチをいくつか魔法ポーチに突っ込み、リバロンと共に村の入り口付近の緩衝地帯へと足を向けた。

 その道中。

「……うぅっ……正義は……正義は勝つ……! ぐすっ……でも、この黄色い悪魔オムレツは、不味すぎるぅぅ……!」

 村の端の野営テントの前で、紅蓮の鎧を着込んだ美しい女戦士が、膝を抱えて涙を流していた。

 ルナミス帝国マークス公爵令嬢にして、現在は家出中の賞金稼ぎ――ダイヤ・マーキスだ。

 彼女の手には、ルナミス帝国軍が誇る最悪の廃棄物レーション『MRE型(通称:ゲロオムレツ)』が握られていた。

「どうして……っ。私は悪党を倒して正義を貫いているのに、武器のメンテナンス代でお金が消えて、毎日この『濡れた犬と焦げたゴムの味』がするスポンジを齧らなきゃいけないの……!」

 ダイヤは天魔竜聖剣を磨きながら、ポロポロと涙をこぼしている。

「おいおい、そっちのオネーチャンだけじゃねえぜ。俺様を見ろよ」

 ダイヤの隣の土管(工事資材)の上では、土にまみれた屈強な竜人族の青年が、硬い干し肉と石のようなイモを齧っていた。

 竜人族の族長の息子、イグニス・ドラグーン。

「俺様は空も飛べるし、大火炎も吐ける英雄になる男だぜ? なんで人間の街で、日給銅貨3枚で穴掘りの日雇いバイトしてんだよ……。親父とお袋には『純金の像が建った』って手紙書いちまったから、もう故郷には帰れねえし……うっ、うぅっ……」

 イグニスもまた、干し肉を噛みちぎりながら男泣きしていた。

 ……なんというか、圧倒的な強者オーラと、それに反比例する『圧倒的な底辺の悲哀』が漂っている。

「カナタ様。あの二人は……」

「ああ、ダイヤの【ウェポンズマスター】と、イグニスの【大火炎&飛行能力】。戦力としてはSランク級の化け物だ。だが、完全に『金』と『飯』に飢えてる」

 俺はニヤリと笑い、二人の前に歩み出た。

「おい、そこの二人。……そんな『産業廃棄物』と『石ころ』みたいな飯食ってて、力が出んのか?」

「なっ!? さ、産業廃棄物とは失礼な! 帝国軍の正式なレーションよ! ……昨日食べたEPA型(天使の絶望レンガ)よりは、マシなんだから!」

「そうだぜ! 俺様は英雄だからな、こんな粗食でも闘気は燃えるんだよ!」

 強がる二人。

 俺は無言で、手元にあった銀色のパッケージ――『ポポロ・ランチ』を取り出した。

 そして、加熱用のヒモを勢いよく引っ張る。

 シュゴォォォォォォォッ!!

 水と魔力石が反応し、一気に沸騰。

 数秒後、パッケージを開封した瞬間……。

 肉椎茸の強烈な旨味、醤油草の焦げる香り、そしてシープピッグの濃厚な獣脂の匂いが、爆発的に周囲へ広がった。

「「…………ッ!?」」

 ダイヤとイグニスの動きが、完全にフリーズした。

 彼らの持っていたゲロオムレツと干し肉が、ポロリと地面に落ちる。

「ルナキン(ファミレス)監修の極上出汁で煮込んだ、肉椎茸と月見大根だ。アツアツの特上おでん、一口食ってみるか?」

 俺がフーフーと湯気を吹きかけながら差し出すと、二人は獣のように飛びかかってきた。

「はむっ!? ほふっ、はふっ! んんんんんんんんっ!!?」

「があっ!? ぐもっ、う、う、うめェェェェェェェッ!!?」

 大根に噛み付いたダイヤの目から、滝のような涙が噴き出した。

「な、なにこれぇ! 大根がお出汁を吸って、口の中でトロけて……お肉の味が、脳髄まで染み渡るぅ! ゲロオムレツと全然違う! 生きててよかったぁぁぁ!」

 イグニスも肉椎茸を丸呑みし、天に向かって咆哮した。

「ウォォォォッ! 闘気が……闘気が無限に湧き上がってくるぜ! 親父、お袋! 俺様は今、天国(ルナミスファミレスの味)を食ってるぜぇぇぇ!」

 あっという間にポポロ・ランチを完食し、容器の底の汁まで舐め回す二人。

 完全に『胃袋』を掴んだ。交渉の主導権は俺にある。

「お前ら、ウチで働かないか?」

 俺は、極上の笑顔(悪徳商人の顔)で提案した。

「俺の拠点の護衛と、村に寄り付く魔獣の討伐。仕事はそれだけだ。給料は安いが……今の『ポポロ・ランチ』を、毎日三食、アツアツの状態で食わせてやる。もちろん、武器のメンテ代(経費)はこっちで落としてやる」

「ま、毎日三食……これが食べられるの!?」

「経費も出るのか!? やる! 俺様、絶対やるぜ!!」

 かくして。

 Sランク級の戦力を持つ紅蓮の戦乙女と、大火炎を操る竜人は、たった『三食のまかない飯』という破格の安値(最低賃金)で、俺たちの専属用心棒(ブラック社員)として契約書にサインした。

「……恐ろしい交渉術です。カナタ様。まさかあの一騎当千の戦士たちを、レーション一つで買収するとは」

 背後で、リバロンが冷や汗を拭いながら手帳にメモをしている。

「これも『現代経済マーケティング』の基本さ。相手の最も飢えている欲求ペインポイントを突けば、人はいくらでも動く」

 俺は、満足そうにポポロ・ランチの空き箱を抱きしめる二人を見下ろした。

 これで、生産ラインと防衛力は整った。

 次は、この商品を世界に向けて発信するための『広告塔インフルエンサー』の確保だ。

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