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EP 2

「残枠10万のサバイバルと、段ボールで降ってくる『現代の奇跡』」

「ぐぅぅぅぅぅぅ……」

 見渡す限りの大草原に、気の抜けた音が響き渡った。

 空を見上げれば、アナステシア世界特有の二つの月が昇り始めている。気温も徐々に下がってきた。

「……お腹、空きましたぁ……」

 ピンク色の初心者ジャージを着た見習い女神・リリスが、草むらにペタンと座り込み、涙目で自分のお腹をさすっていた。

「さっきみたらし団子食ってたばっかりだろうが。燃費悪すぎだろ」

 俺はため息をついた。

 所持金ゼロ。水も食料もない。前章まで着ていた漆黒の防弾コートすら没収され、今の俺はペラペラのシャツとスラックスという、ただの村人Aのような格好だ。

「仕方ないじゃないですか! 天界から強制的に落とされて、カロリー消費したんですぅ! あーあ、ルチアナ先輩のブラックカードがあれば、デパ地下の高級弁当をデリバリーできたのに……」

「あのな、俺たちはそのルチアナの借金90万を返さなきゃ、シーラン国の『マグローザ漁船』にマグロ扱いでブチ込まれるんだぞ。……おい、お前一応『女神』なんだろ? なんか魔法とか使えないのか?」

 俺が尋ねると、リリスはハッとして立ち上がり、健康サンダルをパタパタと鳴らして胸を張った。

「ふっふっふ、舐めないでください! 私はこれでも天界の厳しい試験を(ギリギリで)パスしたエリート! 『創造魔法』で、極上の幕の内弁当を出してみせます!」

 リリスが両手を前に突き出し、ピンク色の神気を練り上げ始めた。

 お、意外と頼りになるんじゃないか?

「出でよ、シャケの塩焼きと卵焼き! エクストラ・クリエイト!!」

 ボフゥゥゥンッ!!

 凄まじい黒煙が上がり、俺とリリスの顔が真っ黒なススまみれになった。

 煙が晴れた後、草むらの上にコロンと転がっていたのは……完全に炭化した、正体不明の「黒い塊」だった。かすかに焦げた魚の匂いがする。

「……あれぇ? おっかしいなぁ。天界の調理実習では、ちゃんと点数取れたのにぃ……」

「お前、さっき『よく魔法失敗する』って理由でリストラされてたよな? 納得だわ」

 俺は咳き込みながら、リリスの首にぶら下がっている『エンジェルすまーとふぉん』をひったくった。

 神様(ポンコツ)に頼ってちゃ餓死する。ここは、現代人の知恵の出番だ。

「貸せ。俺が『現代の奇跡』を見せてやる」

 俺はスマホの画面を操作し、『ルチアナ・カード』が紐付けられているネット通販のアプリを開いた。

 画面のインターフェースは、地球にあった『Amozon』や『楽天』と全く同じだ。検索窓があり、日用品から食品、アウトドアグッズまで何でも揃っている。

「えーっと、まずは今夜しのぐための拠点と、獲物を狩るための道具だな」

 検索窓にキーワードを打ち込む。

 チート兵器は買えない。10万円という限られた枠(予算)で、最大のパフォーマンスを発揮する『安物』を選ぶ必要がある。

「ワンタッチの簡易テントが……よし、これでいい、3,000円。火起こし用の100円ライターと、ついでに安いサバイバルナイフが1,500円。あとは水2リットルと、100均の『塩と荒挽き胡椒』だな」

 カートに商品を放り込み、合計金額を確認する。

【お支払い合計:4,850円】

【利用可能額(残枠):100,000円 → 95,150円】

「うし。初回にしては痛い出費だが、必要経費だ。……購入(ポチッとな)」

 購入ボタンをタップした、次の瞬間。

 俺たちの頭上の空間が、チカチカと不自然な光を放って歪んだ。

「ひゃあっ!? な、なんですか!?」

 リリスが頭を抱えてしゃがみ込む。

 空間の歪みから、見覚えのある「にっこり笑う矢印のロゴ」が印刷された、巨大な段ボール箱がポンッと飛び出し、俺の足元にドサッと着地した。

「……即日異次元配達。ルチアナの野郎、システムだけは無駄に便利に作ってやがるな」

 俺は段ボールのテープを剥がし、中身を取り出した。

 袋に入った折りたたみテント。鋭い輝きを放つサバイバルナイフ。そして、地球のコンビニでよく見るペットボトルの水と、プラスチック容器に入った塩胡椒。

「わぁぁ……! これ、全部カナタさんが魔法で出したんですか!? すごいです、神様みたい!」

 リリスが目を輝かせ、100円の塩胡椒のボトルを珍しそうにフリフリと振っている。

「魔法じゃねえ、現代の物流(ネット通販)の力だ」

 俺はワンタッチテントを広げ、草むらの上に拠点となる小さなドームを完成させた。

「よし、これで寝床と火種は確保した。……リリス、お前お腹空いてるんだよな?」

「はい! もう背中とお腹がくっつきそうですぅ!」

「なら、ちょっとそこで待ってろ。俺が『極上の肉』を調達してきてやる」

 俺は1,500円のサバイバルナイフを逆手に握り、不敵に笑った。

 レベル1に落ちたとはいえ、前章で培った『アナログな洞察力』と『戦闘の立ち回り』は体に染み付いている。

「このサバイバルナイフと、100円の塩胡椒が……俺たちの借金返済スローライフの、最初の第一歩だ」

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